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農文協トップ主張 2003年3月号

 米政策改革大綱下の
「水田農業」の進路を考える
―JA越後さんとうの米づくりと、地産地消の総合産地化の実践から―

目次
◆求められる農家の手取り増と「水田農業」の確立
◆米の産直にJAが積極果敢にのりだした
◆「分別販売」ですべての米を<安売り競争>から守る
◆米の元気をもとに自由な水田利用
 ――女性が活き高齢者が活きる地産地消の総合産地化

◆「食で地域をつくる運動」の先頭にJAが立つ
◆「法人による集落営農」で田んぼと多様化した農家の農業を守る

 

求められる農家の手取り増と「水田農業」の確立

 昨年12月はじめ、米政策改革大綱が決定された。米の生産調整への国の関与の後退や計画流通制度の廃止によって、生産調整の実効性が弱まり米価が暴落するのではないかという心配もでてきている。農業団体による自主的生産調整がどのような形で具体化されるかは農業団体と政府との今後の協議にゆだねられるが、いずれにしろ、地域の自前の力で「水田農業」を確立することが求められているのである。

 このような課題にむかって何をどうすればよいのか。兼業化が深くすすんだ水田単作地帯にあって、こだわりの米を自力で高く売ることに力を入れ、地産地消の総合産地化をすすめることによって農家の手取りをふやし、地域の活性化をはかってきた新潟県・JA越後さんとうの実践(とりわけ2001年の合併前のJAこしじの実践)に焦点をあてて、その取組みがもつ意味を考えてみたい。

米の産直にJAが積極果敢にのりだした

 米は、長い間食管制度のもとにおかれていたこともあって、米の減反政策がはじまって以来、良質米づくりへの取組みはあっても、単協自らが販売ルートを積極的に開発するということは、あまりやられてこなかった。しかし旧JAこしじでは、「本当によい米をつくろう」「日本一の食べ物をつくろう」と、土づくりと安全・安心の健康米づくりに組織をあげて取り組み、米卸や生協、量販店などに直接交渉して、米の出来秋には大半の米の契約が済み、売り先が決まっているような状態をつくりだしてきた。回収のリスクを回避する保険の意味から系統をとおしてはいるが、産地主導で、流通関係者の間に「こしじの米」のファンをつくってきたのである。

 そのやり方であるが、旧JAこしじは、減農薬・減化学肥料の米栽培を導入し、品種は同じコシヒカリでも、次の4つのコシヒカリに分けてカントリーエレベーターで分別管理を行ない、それぞれの実需者に付加価値をつけて提供しているのである。
(1)<東京都のガイドライン>にもとづく減農薬・減化学肥料栽培の特別栽培米「東京都ガイドラインスーパーコシヒカリ」、(2)<農水省のガイドライン>にもとづく減農薬・減化学肥料栽培の特別栽培米「農水省ガイドラインスーパーコシヒカリ」、(3)ガイドラインにはもとづかない減農薬・減化学肥料の特殊栽培米「一般コシヒカリ」、(4)JA管内の越路町在住の生産者が魚沼地区の小千谷市属地で栽培している「魚沼コシヒカリ」。この4つである。

 JA越後さんとうの関誉隆組合長(旧JAこしじ組合長)は、トップセールスを行なうなかで、米の食味だけでなく「健康」な米が求められていることに気づき、販売交渉をするうえで「安全・安心の健康米」が強力な武器になると確信したという。「『東京都の減農薬・減化学肥料のガイドラインをクリアーした米』『東京都で認証された米』という評価は、東京都以外の消費地で販売するにしても非常に強力な交渉条件になる。いわば、水戸黄門の印籠(いんろう)みたいなものだ」というのである。

 農家は、秋の収穫後、その翌年どういう米づくりに取り組むのか、自分のつごうから申告する。だから、前年のうちに翌年の各種の米の販売量の予測が立つことになる。その予測量にもとづいてJAが販促をすすめて、それぞれの米の適切な実需者との間で相対で交渉し、経済連・全農の市場相対価格よりもはるかに高い価格で取り引きしているのだ(東京都・農水省の2つの特別栽培米は市場相対価格より2050円高く、特殊栽培米は800円高い)。

「分別販売」ですべての米を<安売り競争>から守る

「米を見る目がなく値段だけで対応してくるバイヤーが、結局<米の安売り競争>をつくってしまった。そしてそのしわ寄せを生産の側にもってくる」と、関組合長は言う。

 そのような<安売り競争>に巻き込まれず、米を正当な価格で売り切るには、安全・安心な本当によい米をつくる努力を生産側が真剣に行ない、その米をかけがえのないものと思う「ファン」をつくって、市場価格とは切り離された「関係性による価格」を形成することが大事だというのである。これはJAによる産直にほかならない。ことの本質は、生産者と消費者の産直でも、JAと流通業との産直でも変わらないのだ。

 「本当によい米をつくろう」「日本一の食べ物をつくろう」という情熱は、徹底した土づくりや技術指導を生み出した。平成元年には生ワラの焼却をしないことを申し合わせ、地元の肥料会社と提携してつくった地域の農業副産物を素材にした堆肥を越路町の全圃場に毎年散布し、そのうえで、減農薬・減化学肥料の特別栽培米については、平成5年から行なっている土壌分析・土壌構造調査結果を土台に、土壌の肥沃度に応じて適正施用量を7段階に変えた施肥設計書をつくり、栽培をすすめている。土が肥えていてチッソ過多になるとコシヒカリは倒れやすく、味も悪くなるからである。

 今井利昭営農部長は、「これからの時代は有機でなければならない状況になるだろう。その準備をいま徹底してやらないとだめだと思っている」と述べ、完全な有機栽培の技術の確立や全量契約栽培化も視野に入れて研究をつづけていくと言う。

 食味については、食味計で約1000点のサンプル調査をしているが、右に述べた4種類のコシヒカリのそれぞれについて、タンパク含量の多寡による食味のランク付けを導入する準備をすすめている。これはチッソ過多が生籾のタンパク含量の多さとして現れ、タンパク含量と食味のよさが反比例の関係にあることをふまえたもので、単純計算をすれば、コシヒカリだけでも4種類×4食味ランクの、つごう16種類のコシヒカリが生まれ、これが分別管理・分別販売されることになる。

 このようなこだわりをもってつくった米を売る努力は、トップセールスだけでなく、実需者・生産者・消費者・指導機関が膝をまじえた「ブランド形成協議会」や、卸・小売・食品産業業者などで構成される「個別定期懇談会」の開催、インターネットを活用した「広域流通販売体系づくり」、東京都内の「アンテナショップ」での各種イベントの開催とマーケットリサーチなど、考えつく限り最大限なされているのである。

 こだわりの米をその栽培様式や食味ランクで分別して販売する方法は、それぞれの米の固有の価値を明確に押し出す究極の「差別化」であり、分別管理は、「上位」の良質米だけでなく地域の米全体を<安売り競争>から守り、農家の手取増を可能にする。米屋による混米技術をふくめ、米はもともと消費サイドから均質性が求められてきたが、分別管理は、その要請に完全に応えるものだからである。しかも現代は、食事を家庭の外でとる人が増えた結果、外食産業・中食産業など業務用の米の需要が大きな市場をなしており、分別管理によって、その多様な需要に応えることができる。それぞれの実需者・消費者のニーズに的確に応える、個性的な米の流通への転換が可能になるのである。

米の元気をもとに自由な水田利用
 ――女性が活き高齢者が活きる地産地消の総合産地化

 JA越後さんとうが注目されるのは、こだわりの米づくりと単協による積極販売の取組みだけではない。JA越後さんとうは、稲作や転作など土地利用型農業について「法人による集落営農」をすすめ、兼業化の深まりで多様化したむら人の集落営農をささえるとともに、そのうえに立体的に青空市や園芸作物を導入し、地産地消の総合産地化をすすめようとしているのである。

 総合産地化の第1の柱は転作ダイズである。転作ダイズはほとんど集落営農の任意生産組織か法人によって行なわれるが、用水の流路に沿って団地化し、ブロックローテーションをきちんと組んで取り組まれている。これも米と同様、「栽培指針」を作成して技術の高位平準化をめざすとともに、有機・減化学肥料栽培をすすめ、カントリーエレベーターの一元集荷で品質・品位の統一化をはかることによって、ブランドを確立し、積極販売を行なっている。

 それだけでなく、このダイズで豆腐・油あげ・納豆の加工に取り組み、豆乳アイスクリームや豆菓子など、新製品の開発にも力を入れている。豆腐と油あげはJAの敷地内の加工施設で、納豆は隣町の納豆屋に依頼。これらは直売所で売るだけでなく、米の販売ルートにも乗せて東京のデパートや量販店に卸している。

 総合産地化の第2の柱は、転作や管内に一部ある畑で行なわれる園芸の導入である。ネギ・サトイモ・サツマイモ・イチゴ・メロン・花卉・ウメなどの露地栽培を推奨し、施設園芸では重点作物としてアスパラガスを導入し、水稲育苗後のハウス利用によるトマト・キュウリ・メロン・アスパラナ・コマツナなどの栽培もすすめている。販売先も、市場出荷のほか、量販店や生協との提携販売を開始、直売所での地元販売も重視している。

 さらに第3の柱として、家周りの自給畑や転作地で行なわれる、女性や高齢者の力に依拠した自給的な野菜の振興である。少量多品目生産を起こし、農産加工を起こし、直売所を拠点に地産地消をすすめようとしている。土地利用型の稲作やダイズ転作などは法人による集落営農をすすめて水田を守る一方で、地域農業の担い手の空洞化を防ぎ農的暮らしの活性化をはかるために、老若男女が農業にたずさわる場面を増やす。子育てが終わった女性や定年退職の高齢者を1000名以上組織し、地産地消の直売所をベースに都市部にも進出したJA甘楽富岡の取組みの「JA越後さんとう版」である。

 その実現にむけJA越後さんとうでは、合併を機に6町村全部に直売所を設け、その担い手を組織すべく各町に女性・高齢者による「100人委員会」を設置する準備をすすめている。地元で自給している産物のなかから直売取扱い品100品目を選定し、新規栽培者向けに80品目の野菜の「栽培マニュアル」も完成させた。

「食で地域をつくる運動」の先頭にJAが立つ

 JA越後さんとう管内では比較的早い時期から直売に取り組んでいた越路地区では、もともと週2回開催されていた朝市・夕市を、JAがプレハブを建てて常設化した。1年目の2001年に約950万円だった売り上げは、2年目、1500万円に届きそうな勢いで伸びている。農家は「畑には草しか残っていない」と喜んでいる。直売所の施設を増設するにも、前年は業者に頼んで20数万円の費用がかかったものが、今度は「もったいないから自分たちでやろう」とお母さん達が知恵を寄せ、家から重機をもってきて旦那さんたちの力を借りながら自前で建ててしまった。経費はゼロ。

 品揃えについても、いろいろな試みをはじめた。畑に野菜がない時期には山菜をとってくる。同じ野菜ばかりが重ならないように生産者同士で調整をする。鮮度の良い野菜を出すために、出荷を午前と午後にわける。生産法人の加工品を取り扱う。70歳前後のおじいさんたちのグループが、趣味で手作りしているホウキ草製のホウキを試しに置いたら、たちまち売れてしまった。野菜が売り切れたら、「あなたのこの野菜が売り切れたので、もっと持ってきてもらえないか」と連絡が行く。その話を聞いたJAは、さっそく直売所に電話をひいてあげたという。

 直売所の設置によって、お母さん達の関係も深まった。達人から新人へ、おばあちゃんから若い人へと技術の伝達がはじまった。野菜が途切れないよう継続的に作る技術や、よい野菜をつくる技術が伝えられ、皆のものになっていく。

 世代間の交流もそのなかで強まっていく。学校給食への野菜の供給も、直売所が取り仕切っている。何をどのくらい出荷できるかという個々の生産者の状況をまとめ、町教育委員会と直接、調整をしているのである。

 高齢者については、高齢者を食農教育のインストラクターとして位置づけ、伝統的な生活技術、昔の遊び、伝統食などの伝承を行なうチームを結成し、学校や地域から要請があればいつでも出てゆけるような体制を整えるとともに、もともと化学肥料や農薬を使わずに野菜をつくる技術を持っている高齢者の力を活かして地産地消をすすめようと計画している。

 こうして地域に少量多品目生産を起こし、合併によって管内にふくまれてきた多様な地域性を生かして管内6つの直売所間に補完関係を築き、地域内自給率を45%に向上させることを目標に、これをすすめるという。

 地域で足りないものや不足が出る季節への対応としては、県内40JAを組み合わせた「リレー販売」や、全国的なJA間連携による補完も視野に入れ、その地域自給のベースのうえに、市場出荷や、提携した都市部の量販店内にしつらえた直売所「インショップ」での展開を行ない、都市農村交流も盛んにして、都市の生活者との関係性も深めていこうというのである。

 このように、「食で地域をつくる運動」の先頭にJAが立ち、水田単作農業からの脱却と総合産地化がすすめられようとしているのである。それはまさに、いま求められている自前の「水田農業」確立運動のモデルというべきものではないか。

「法人による集落営農」で田んぼと多様化した農家の農業を守る

 これら水田農業の確立を総合的にすすめるために、旧JAこしじでは、集落営農の法人化をすすめてきた。転作だけでなく米も委託に出したいという農家や、やむを得ない事情で農地を手放す農家が出てきても、越路町は兼業農家率が非常に高く、認定農業者さえ、これ以上の農地を受け入れる余裕はほとんどないという状況にあった。ほおっておけば、出入り作や他地域の参入者による売買などで農地が虫食い状態になる。そうなるのを防ぎ、米価低迷により耐用年数を過ぎた大型機械の更新がむずかしくなった農家でも自分なりの方法で農業を続けることができるようにするために、集落営農をささえる形で法人化をすすめているのだ。

 現在、越路町内では、24集落のうち8つの集落で法人が立ち上がっており、残りの集落でも、集落内の合意形成をはかりつつ法人化を検討しているところだ。当面は1集落に1法人、70ヘクタール規模を目標とし、雪にとざされる冬期間でも周年仕事が成り立つように、JAは法人への農産加工やハウス園芸の導入など、さまざまな支援を行なっている。

 こうしてJA越後さんとうは、水田+兼業という、日本で最も一般的な形の水田単作地帯で、本当によい米づくりを追究するとともに食による地域づくりすすめ、水田単作からの脱却、新しい「水田農業の確立」を全力ではかってきた。そのカナメは、本当によい農産物をつくること、そして地域をあげて自給的な生活を取り戻し、地域固有の食べものを都市民にきちんと届けていくことにあった。つまり、この地の農産物をかけがいのないものと思う「ファン」をつくりつつ、生産―流通―消費の食のネットワークを形成することである。地域と密着して行なわれるこのような取組みは、農家を豊かにするだけでなく、成熟経済の時代に突入した日本に、豊かな<生活の質>とは何かを知らせる力にもなるだろう。

 米政策改革大綱では、農業団体による自主的生産調整への移行は2008年とされている。地域の、そしてJAの奮闘を期待したい。

(農文協論説委員会)

*JA越後さんとうの実践については、「農村文化運動」167号・特集「JA越後さんとうの『営農復権』」(400円)、および、ビデオ「水田営農復権への地域戦略づくり」(全2巻・税込2万1000円)で紹介している。水田農業確立に向けた一大学習運動を展開するために、地域で、JA役職員で、ご活用ください。

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