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農文協トップ主張 1997年12月号
パソコンは農家のためにある
 ――農家こそパソコン買って世の中かえよう

目次
◆パソコンは農家のためにある
◆「現代農業のデータベース」は自分用の本作りのための全く新しい出版物
◆「現代農業のデータベース」にしかできないこと
◆百科事典、国語辞典のCD-ROMと何が違うか
◆今、求められる情報アドバイザーの専門家

◆パソコンは農家のためにある

 世の中一般は、家庭用のパソコンが売れなくなっている。パソコン雑誌も廃刊され始めたし、東京あたりのパソコン販売店が倒産し始めた。買ったはいいが動かせない、相談する人もいないとか、インターネットにつないでも別に自分に役立つものはほとんどなかったりというわけで、売れ行きががくんと落ちたのもおかしくはない。しかしそれは世の中一般にとってのこと。農家にとっては、最近のパソコンは「買い」なのである。
 それは、「現代農業のデータベース」があるからだ。それは、昔からの「現代農業」の記事を順番に並べて、本をめくるようにしてパソコンの画面でページを開いていくのとは全く違う。「現代農業のデータベース」は、「現代農業」の10数年分のすべての記事の中から、自分が必要とする情報だけを取り出すことができるようにしたものである。たとえば自分の必要・関心があって「視察」に出かけるのと同じように、居ながらにして自分に必要・関心がある情報を「視察」するのである。これは、情報が電子化されていて、かつ性能の良いパソコンがあるからこそできる。
 これからの世の中は、農家が楽しく頑張ると、都会人がそこに魅力を感じて提携したくなる時代である。山川海、田畑など、地域自然とのつきあい方を知っている農家という存在に、自然と人間の共生が最大の課題となる21世紀という時代に生きるすべを教えてもらいたい人が増えている。農家は、都会の都合がいいように使われたり諭されたりするかつてのような立場ではなく、むしろ都会に、社会のあるべき姿、あるべき食べものの姿、あるべき農業と地域自然の関係を教えてあげる指導者の立場になってほしいと求められる時代に大転換してきたのである。
 それは農村の、農村リーダーの情報力の向上が期待されているということであり、だからこそ農家にとっては、最近のパソコンは「買い」なのである。パソコンは農家のためにある。農家・農村が自分のための情報力向上に使いこなしてこそ、パソコンは100%の意味と機能を発揮する。

◆「現代農業のデータベース」は
自分用の本作りのための全く新しい出版物

 そもそも「現代農業」の記事情報とはどういう性格のものであるかを考えてみたい。今月号の209ページの「寒じめ野菜は一石二鳥、おいしいうえに連作障害も解消!」は、5〜11月どりのハウスホウレンソウを取り入れた岩手県の三上俊明さん(45歳)が、4〜5年後に現われた連作障害、土壌病害や収量低下をどんなふうに創造的に克服したかを書いた記事だ。一般に夏場のホウレンソウは連作するとフザリウム菌による萎凋病が出て来て収量が下がり、この難病にどこでも苦労している。三上さんに聞こう。
 ――当初、堆肥を入れたり、冬の間の除塩もしたりといろいろ手を打ったがうまくいかなかった。ある人が「冬場にホウレンソウ以外のものを作付けるのがいい」と教えてくれたのを契機に、どうせ作るなら多少は収入にもなるものはないかと試してみた。ついには冬場に連作障害を解決して一定の収入にもなる作物としてコマツナにたどり着いた。その後作のホウレンソウは連作障害のない良い出来であった。出来がよいから、サイドを開放したままにする「寒じめ」方式で冬まで収穫を延ばすと、そのホウレンソウがものすごくおいしい。ついには業者との取引も始まった。このホウレンソウは見栄えは悪いのだが何しろ味が良く、一度口にした人はそれしか買わなくなるという。もちろん連作障害対策としてのコマツナも続けている。――
 「現代農業」の記事は、こうした実際に実践した農家個別の経験をまとめた記事が多いのが特徴である。どういう地域・気象・土質条件の、どういう労力条件の、どんな経営をしている、何歳の人が、その問題にぶつかりどう解決したか、その総体を書いている。生産技術だけでなく、暮らしの技術や販売技術も、どこのどんな条件にある誰が行なったかということをまとめている。だからこそ「そういう条件の人がこうやったのなら、自分はこうしてみるか」と、別の個別条件にある読者のヒントになるのである。
 こういう農家の実践が集まっているのが「現代農業」であるが、しかし、その月だけの一冊の「現代農業」にすべてを込めることは不可能だ。ところが、1年たち2年たち、そして10年たち15年たつ間の「現代農業」には、まさに今の自分に必要な記事が必ず出てくるのである。10年というと、記事を書いてくれた人は全国で3000人、記事の本数は2万本にもなる。ページ数では5万ページにもなる。その中には、今の自分に必要な記事がある。
 「現代農業のデータベース」とは、こうして蓄積した何万という情報の中から、自分自身に必要な記事だけを、縦横に取り出すことができるものである。いわば自分のために何冊も本を作り出すようなもので、これは読者こそが編集者という「オンデマンド(自分の要望に応じた)出版物」なのである。こうして「現代農業のデータベース」は、最新鋭のパソコンの機能と結合することで初めて可能になった、紙とは全く違う新しい出版物、新しい道具なのである。

◆「現代農業のデータベース」にしかできないこと

 パソコンでデータベースを調べないとできないことが三つある。
 一つは、今、必要な情報をすばやく探し出せるということである。
 人は成長する。歳もとる。今、必要な課題も変わる。たとえば10年前はホウレンソウをやっていなかったが、五年前から始めて、今、連作障害にぶつかったというようなとき、以前はおそらく気に留めていなかったホウレンソウの連作障害に関係する記事が手元にあると便利なことは当然だ。ところが10年分の紙の「現代農業」から、その記事を探し出すのは不可能ではないが、かなり根気がいる作業である。しかし、パソコンで「現代農業のデータベース」の中を探すと、それは、少しの時間ですんでしまう。
 ――ホウレンソウの連作障害について書いてある記事はないか? 萎凋病に強いホウレンソウの品種はないか? 肥料のやり方で連作障害が出なくなるんじゃないか? 太陽熱で消毒するといいとも聞くが、自分の所は夏は作付けているから、冬にやるしかないがうまいやり方はあるか? 冬にホウレンソウ以外の作物を作るのがいいと聞いたが何がいいか、できれば収入になるものがほしい? 年に6、7作もやる人がいるというがその人は連作障害は出ないんだろうか?……
 10年という間のデータの中からは、これらすべてに応える記事が必ずしかもすばやく見つかり、今の自分に必要な課題を解決するヒントになるのである。
 二つ目は、必要な情報の見逃しがないということである。見逃していた「古い」情報も今に生かせる。
 ネギやニラを混植すると土壌病害に強くなるということはトマトやメロンで有名だが、ホウレンソウの萎凋病を調べていく中で次のような情報にもぶつかることだろう。
 「(ネギ・ニラ混植で土壌病害を防ぐという技術は)最初は夕顔とネギの混植からスタートしたのですが、今やメロン、キュウリ、スイカ、カボチャなどのウリ類、イチゴ、ホウレンソウなどの土壌病害でもその効果が確認され、一気に拡大しました。ホウレンソウと葉ネギは、ホウレンソウの萎凋病を防ぐため。わざわざ葉ネギを使ったのは、ホウレンソウの収穫にあわせて、葉ネギも同時に収穫し、両方で稼ごうという農家のアイデア」(91年5月号五一ページ、編集部「300年前の農家の知恵 土壌病害を防ぐネギ・ニラ混植」より)。
 全体の特集の中にちょっと書かれていた記述で、そのときホウレンソウをやっていなかったら見過ごしている可能性が高い。こういうふうに、自分にとって埋もれていた情報もすぐに調べられるのが、データベースというパソコンを使う新しい出版物の特徴なのである。
 最近は体力も落ちて来たから、少し作業を楽にしたいと思うようになった場合、やはりそれに関係する埋もれていた情報も引っぱり出すことができるわけである。ちなみに、1994年の9月号に初めて登場した「小力」(しょうりょく)という言葉がある。これは、自然力をうまく使って、作業は小さい力でできるようになるのに、同時によいものもできてしまうという生産革命ともいえる技術である。不耕起栽培、イネのプール育苗、モミガラ培土、葉とらずリンゴなど、最近はとくにこの小力関係の記事は全作物にわたって多いのだが、その前からも、たくさんの記事がある。歳をとって70になっても75になっても農業を楽しく頑張って、息子が帰ってくるのを待ってやるというのは、人生80年時代になって初めて生まれた新しいライフサイクルである。この人生80年時代を切り開くのも、パソコンを使って「現代農業のデータベース」を調べることでうんとヒントが得られるわけである(しかも、この目的でパソコンを使うのは簡単な操作でできる。歳をとっていてもできる)。
 三つ目は、関連したテーマにどんどん広げて調べることができることである。
 ホウレンソウの萎凋病に強い品種はないかと調べているうちに「ホウレンソウ土壌消毒なしで50連作」という記事を発見し、ではホウレンソウ以外でも周年栽培している場合には何か工夫があるだろうかと思いついたら、調べるテーマを拡大すればいい。85年から96年12月号までの間に30本以上の記事があって、周年栽培ならではの施肥上の注意点、周年出荷に向く作目についての情報など思わぬ広がりに出会える。
 自分に必要な情報を調べるときに、以上の〈今の課題にすばやく応える、古い情報も今に生きるテーマが広がる〉という三つの特質をもっているのが「現代農業のデータベース」であり、紙の「現代農業」では得られない特徴なのである。だから新しい出版物といえるのである。

◆百科事典、国語辞典のCD-ROMと何が違うか

 データベースは「現代農業」だけかといえばそんなことはない。百科事典とか国語辞典などのCD-ROMも発行されている。しかし、それは、農家の生産、経営、暮らしに関して必要な情報を調べられる「現代農業のデータベース」とは全く違う。
 たとえばマルチメディア百科事典として有名な「エンカルタ97 エンサイクロペディア」(CD-ROM)はすぐれた検索機能を込めたものであるが、「連作障害」という言葉で引いても該当情報がない。「ホウレンソウ」で引いてもアカザ科の植物で鉄分やどういうビタミンが含まれて……と説明があるだけである。もちろん育て方や、増収の方法などの情報はない。「産直」でも「貯蔵」でも該当情報がない。ましてや、今月号の「現代農業」で米の保管・貯蔵を大量にやるには「中古の冷蔵コンテナを探そう」とか、コンテナを「遮光すれば電気代はもっと安くなる」などの具体的な情報が出てこない。百科事典はある事柄についての一般普遍的な解説を行なうのが狙いの出版物であるからだ。また、国語辞典に農家の必要とする生産、経営、暮らしの実践的な情報を求めることもできない。
 それに対して、「現代農業」の情報は、農家が農家の必要に向けて書いた、あるいは専門家に書いてもらった具体的で生きた情報だからこそ、農家の日常の実践のヒントになる情報になるのである。地域作りのヒントになるのである。この具体情報をすばやく、見逃しなく、広げながら調べられるのが「現代農業のデータベース」なのである。

◆今、求められる情報アドバイザーの専門家

 まだパソコンのない今から30年前頃、公共図書館を通じて農村における読書運動を盛んにしようと情熱を燃やしている人がいた。浪江虔氏である。年輩の読者諸氏の中には農文協から発行されたベストセラー「誰にもわかる肥料の知識」の著者であると聞けば知っている方もいるだろう。その浪江氏が、農家の情報力を上げるために図書館にしてもらいたいこととして次の三つのことをあげていた。
 1、どの図書館にも、農業のことがちゃんとわかる専門家で農業図書選択の委員会を作って、実利と実力養成とをあわせて達成できるような、いい本を選んでほしい。
 2、農業雑誌をそろえるだけでなくその総目次作りをやってもらいたい。
 「雑誌の記事は、ちょうどそのときの関心事だけがよく読まれ、あとは見のがされがちだが、事情が変わると、見のがしたものの中にたいそう有益なものがあったことになる。ところがこれをあらためてさがし出して活用する熱心家はめったにいない。図書館関係者は、よくつくられた総目次をもっているだけで、農事研究グループに出席してよい助言者としての役目を果たすことができる。(図書館関係者は)過去三カ年ぐらいの農業雑誌の重要記事に関する専門家になることは十分可能であり、こういう専門家はきわめて貴重な存在である」。
 3、本を貸してくれと言われて初めて貸すのではなく、積極的にこちらから貸し付けるくらいにすべきである。
 (ドメス出版「図書館そして民主主義――浪江虔論文集」97〜100ページより、初出・昭和38年)
 本の選択――総目次作成――積極貸付、この三つの図書館の能動性こそが、当時の農基法が始動し始めたばかりの激動の農村にあって、農家が実利を得ながら経営を発展させるために必要な読書環境であるとしたのである。これは何も図書館に限ったことではなく、農村リーダー全般に求められていることでもあろう。またとくに、「総目次」を作成して農家にアドバイスする専門家を「貴重な存在」としたことは慧眼である。そのことにならうと、「現代農業のデータベース」を使うということは、いわば百人力の「貴重な専門家」を雇っているようなものである。しかもその専門家は3カ年のではなく、10年以上のデータから自分用の情報を集めてくれる。また、データは目次情報だけではなくその記事全体を見せてくれる。
 浪江氏が「総目次」作りを強調していた30年前というのは、きのう制度資金を借りなかった人が今日は借りることを決断したり、きのう田んぼだけを作っていた人が養豚を始めたり、きのう三石取りに甘んじていた人が五石取りの夢に挑戦しようと思ったりのまさに激動の時代であった。当時の「現代農業」もこれに対応して記事がどんどん発展していた。だからこそ浪江氏は、雑誌の総目次があることが、農家にとってきわめて重大なことであると強調したわけである。
 そして今、農業も農村も技術も経営も大きく変わろうとしている。「現代農業」もそれに対応して、写真をカラー化するなど形を変え、また小力技術の追求、販売技術の追求、土着天敵の防除力を生かす防除革命の追求などを進めている。これらの変化は、全国の農家が一つ一つこれまでとは違ったやり方を生み出すことによってのみ進んで記事に蓄積されていくのである。これらの10数年の蓄積が込められた「現代農業のデータベース」は、現代の情報アドバイザーの専門家なのである。

 パソコンは農家のためにある。農家が自分のための情報作りに使いこなしてこそ、パソコンは100%の意味と機能を発揮する。
 情報を使いこなして、自分の経営、地域の経営を楽しく豊かに発展させよう。そのことが、地域の子どもたちが地元に生まれた誇りを身につけて、たとえ外に巣立ったとしても、将来、地元産品の支持者になってくれることにつながるだろう。また、学校の先生に地元のすばらしさに目を向けてもらい、都会信奉の子どもとしてではなく、地元に自信をもった子どもとして育ててもらうことにつながるだろう。
 農文協は今後とも、現代版「総目次」のデータベース作りに全力でご協力する。また、富士通のパソコンでもいいという人には、あなたに合うパソコン斡旋の労もとる。もちろん、本誌、紙の「現代農業」の編集にいっそうの努力をするのは言うまでもない。
(農文協論説委員会)

 「現代農業のデータベース」には、インターネット上にこしらえた「ルーラル電子図書館」と「現代農業記事検索CD-ROM」の二つがある。これらをご要望の方、資料を必要な方、また、パソコンが必要な方は「農文協地域普及部」までハガキ等でご連絡ください。なお、「ルーラル電子図書館」には10月から「病害虫診断・防除データベース」が、1月からは「写真ライブラリー」など新しいデータベースが入る。CD-ROMは「現代農業記事検索CD-ROM」の他に「農業技術大系検索CD-ROM」「CD-ROM版日本の食生活全集」が既刊。12月には「病害虫診断・防除CD-ROM」が完成する。


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