「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2011年5月号
 


左から、幸輝くん、祖父の豊さん、父の博通さん、兄の広章さん、母の美智子さん(矢島江理撮影、以下表記のないものすべて)

食農教育 No.80 2011年5月号より

農機・重機大好き少年

パワーショベルは三歳から運転しちょります!

大分・日田市 石橋幸輝くん(一五歳)

 農作業大好き、機械大好き。
 春は山菜、夏はクワガタムシ。だけど、勉強は大っ嫌い!

DATA

所属:大分県立日田三隈高校1年
農業経験年数:12年
家族構成:父、母、兄、祖父
フィールド:田んぼ、畑、山林


農機具屋さんのお父さんについて回った

 身長一七六p、体重八三s。ラーメン屋にいけば、無料の替え玉八つは必ず食べる。定食屋にいけば、カツ丼定食を大盛りで食べて、かけうどんの大盛りを追加、そのあと小三と小一の姪っ子の残りを平らげてしまう。恵まれたその身体と、気持ちのよい食べっぷり。当然、柔道部や相撲部の誘いも受けたが、「家で農作業する時間がなくなる」とすべて断ったほどの、農業少年だ。

 石橋幸輝くん、一五歳。(私有地内で)パワーショベルやコンバインの運転をはじめたのは三歳のころ。

 「保育園、幼稚園に行かせんかったけん、お父さんのうしろについて回ってそだったんです」と母の美智子さん(五六歳)。一家は、農機具屋さんで、お米の乾燥、籾すりなどをするライスセンターももつ。家でも米二・二haと、ゴボウ、ヤマイモ八〇aを生産し、日田市内の稲刈り作業を三〇haほど受託する農家でもある。

 すでにお嫁さんに行った長女の由美さん(三〇歳)と、家業を継いだ長男の広章さん(二八歳)との三人きょうだい。幸輝くんとは、ひと回り離れた上のお二人は、ともに保育園っ子でそだった。

 「ちょうど、お父さんが農機具会社を辞めて独立して、ライスセンターもはじめたころ。当時はお店の経営に必死やったですけん、保育園にぽんと預けてました。危険な農機具には近づけんかったし、私が嫌いやけん、ミミズとかにも触らせんかった。でも、幸輝のときは、子育てに余裕もできたんで、興味のあるものならなんでもやらせたんです。ただ、農機具は危ないですから、運転するときはお父さんが厳しく指導しましたよ」と美智子さんはいう。


コンバインを運転してイネの収穫作業をする幸輝くん。4歳のころの写真


3歳のころ、お父さんといっしょに(石橋家提供写真)

コンバイン、トラクタ、クレーン車……、なんでも運転

 最初はフォークリフトの上げ下げだった。「おもしろくって、何度も何度もやったのを覚えてます」と幸輝くん。つぎに、パワーショベルのグー、パー(バケットの操作)。バケットのつけかえなどのアタッチメント交換では、お父さんが横についてピンを刺すのだが、逆の操作をしたりすると、ものすごい剣幕で怒られたという。

 「操作している人間は安全でも、周りにいる人はとても危険ですけん、細心の注意を払うよう、こっちも本気です」と父の博通さん(五七歳)はいうが、その迫力にもめげず、このときばかりは、ぜったい泣くことはなかったという。

 小学校に入っても、友達とあそぶよりも農作業。小六まで、七度も入院したほどの喘息もちだったが、それでも秋の稲刈り時期にはマスクをかけて、田んぼへ行く。このときばかりは、ふしぎと喘息はでなかったそうだ。

 機械操作はみるみる上達し、コンバイン、トラクタ、田植え機、クレーン車と、四年生のころには、なんでも乗りこなすようになった。

3歳でできるパワーショベル操作

「グー」右手のレバーを内側に。土を掘りだすときの操作

「パー」右手のレバーを外側に。掘りだした土をばらす操作

直売所にクワガタムシ販売、ひと夏で四万円!

高い枝にいるクワガタムシの捕り方

人の気配がすると地面に落っこちる性質を利用して、真下にケースをかざしてとる

 そんな幸輝くん、大の機械好きだが、その前に、やっぱり農業、自然が好きなのだろう。とくにタラの芽が大好物で、春が近づくと山に行きたくてうずうず。ふきのとう、筍、つくし、わらび、ぜんまい。料理はしないが、とるのと食べるのなら、どんとこい。夏は裏山でクワガタムシやカブトムシ採取。

 「クワガタがくる木とこない木、見たらだいたいわかるけんね。クヌギの木でも乾燥してるのはダメ。表面がぬれてて茶色が濃い木にはきますね。カブトムシは木にしがみついて離れないけど、クワガタは人の気配がするとすぐに落っこちよる。地面に落ちたら見えんけん、そーっと近づいて、真下にケースをかざしてから木をたたくとうまく捕れますよ。いちばんいいのは、シイタケの原木を切ったあとに生えてきた、直径一〇cmくらいの若い木かな。樹液も多くて、つかまえやすい高さにおるけんね」

 とれた、クワガタムシ、カブトムシは車で三〇分ほどの道の駅ゆふいんで、販売。ミヤマクワガタならつがいで二五〇〇円。ひと夏で三万〜四万円の売り上げだそうだ(四八頁参照)。


幸輝くんが、小1のときに描いた絵。キルドーザーとは、アメリカで実際につくられたブルドーザーで、厚さ1cmの鉄板とコンクリートで鉄壁の防御に改良されていた。それをもじった想像上の車

でっかい身体で、やさしい心

 「学校じゃあ、とことんバカですよ。髪の毛の相当薄い先生の額に、ふでばこの裏で光を当ててあそんでみたり。うしろから先生の肩を組んだりしとるけん」。つまりは、先生とも仲がよいのだろう。

 ただ、「先生は好き」であっても、「勉強は大っ嫌い」。「あんなん将来使わんでしょう。社会の先生もうちに米を買いにきてて、まぁ、農業関係の授業はおもしろいと思ったけど、でも、歴史とかは意味わからん!」

 高校入試は、自宅のすぐ近くにある日田三隈高校の総合学科を推薦で受けて、早々にきめたという。県内の農業高校は電車通いになるので、家に帰って農作業する時間がなくなるのが嫌だった。

 「こないだも、友達にいっしょにあそびにいこう、って誘われたけど、山で運搬車のブレーキを修理する出張が入ってて断りました。でっかいクレーン車が使えるけんね」と、友達づきあいは必ずしもよいとはいえなさそう。でも、けっして浮いた存在ではない。中学二年生ではクラスの副委員長、三年生では委員長をやったという。

 「二年のとき、保健室登校の子がいて、『クラスに行ききらん』ちゅうけん、毎日保健室に給食をもってっていっしょに食べました。そのあと教室に行っておかわりをよそって、また保健室に戻って食べたりもしました。三年でクラス替えになるまでの半年くらいでしたね。いじめられてたようですが、詳しい話は聞いちょりません」

 でっかい身体でいて、なんともやさしい心の持ち主なのだ。

 そんな、思わず日本の将来を託したくなるような、頼もしい農業少年、石橋幸輝くん。大分県日田市で見つけた!

(編集部)


愛犬の田(デン)といっしょに


事務所の一角に、趣味である重機のミニチュアがずらりと並ぶ。おもちゃの域を超えるほど、精巧なものばかり


ふだん読む雑誌。なかなかのマニアックぶりだが、近くの書店から購入している


幸輝くんが、先日から描きはじめた絵。完成させたら、仲よくなったクレーン車の運転手のおじさんにプレゼントしようと考えている



「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2011年5月号(No80)

特集1 畑が好き、家族が好き 農業少年大集合!/特集2 技あり ゴーカイ野外クッキング
◆農業少年 見つけた!◆ぼくらのこづかい稼ぎ アイデア集◆おもしろおいしい野外料理大公開 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

→食農教育トップに戻る
農文協食農教育2011年5月号

ページのトップへ


お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2011 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved