「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2011年3月号
 


現在そだてている作目は、年間30種ぐらい。畑全体は写真の倍くらいの面積

食農教育 No.79 2011年3月号より

畑で読書!読者の畑におじゃまします

絵本は畑のお師匠さん!

長崎・佐世保市 マミー保育園

「うちの園では、園児にも、学童の子どもたちにも
そだててあそぼう』がひっぱりだこです!」
どんなふうに使っているのだろう?
さっそく、長崎県佐世保市のマミー保育園に伺った。

「どの絵本が好きですか〜?」

 二年前、既刊分の一六集八〇冊を一気にそろえた、マミー保育園で子どもたちに聞いてみた。二、三種の作物に偏るかなという予想はみごとにはずれ、子どもたちの答えは「ダイコーン、ニンジン、シイタケー、トマト、ヘチマー、スイカ」と、じつにさまざま。給食の時間だったのだが、わざわざ席を立って、そっと「ナスビ……」と告げにきた男の子には思わず笑ってしまったが、好きな絵本への愛着がひしひしと伝わってきた。

 「一冊ずつ個性がちがうから、自分のお気に入りがあるんでしょうね。文字が読めなくても、よく眺めては楽しんでいますよ」と、衣川順子園長。『そだててあそぼう』シリーズの絵本は専用の本箱に入れて、通りがかりに目につきやすい玄関脇の廊下に置いてある。

風邪による欠席、一人当たり年一日未満!

 二四時間保育で、幼児組と小学生の学童組ともに約五〇人ずつが通うマミー保育園は、給食の野菜の八割近くを自前の畑で自給している。しかも堆肥は、給食や園児の家庭ででる生ゴミを発酵させたもの(二〇一〇年一月号一〇頁参照)。四年ほど前に衣川園長がNPO法人「大地といのちの会」(吉田俊道代表)が提案する生ゴミリサイクル畑と出会ってから、野菜づくりは本格化した。生ゴミから自然発芽した野菜もそだてて楽しみ、間引きした芽や皮もスープなどに工夫してムダなく食べる。元気な土で育てた野菜のパワーで、マミーっ子たちは免疫力アップ。風邪による欠席は、一人当たり年間一日未満というからオドロキだ。

 約二〇aの畑は、衣川園長の今は亡きご主人が山を拓いてつくった自然豊かな環境。ドングリの実る山に続いていて、子どもたちは週に二回、野菜づくりと野あそびに通うのを楽しみにしている。

 「以前は買った苗をテキトウに植えて、キュウリでもトマトでも植えさえすれば実がなると思っていましたが、土づくりをはじめてからは、生命の循環を子どもたちが体で感じて学べるよう、私たちからまず野菜のそだて方の勉強を始めました」

 ちょうどそのころ、食育イベントで見知った農文協の職員が『トマトの絵本』を見本にたずさえ訪ねてきた。絵本を見るなり衣川園長は「すごい! 最高の教科書! これ一冊あったら子どもも私たちも十分楽しめるわー」と、既刊八〇冊の一括購入を即決。

 「そのときはまとまった大きい額だったけれど、長い目で見たらお金以上の価値ある買い物だと思いました。おかげでへそくりを使い果たしましたけど。あははは」


『ニンジンの絵本』(18〜19頁)より。収穫のめやすのほか、収穫後の冷蔵庫、および畑での貯蔵法、タネをまく時期によって形がちがってくることなどが解説されている

保育士さんが作業前にポイントを予習

 『トマトの絵本』で衣川園長がとくに目をひかれたのが、トマトには葉・葉・葉・花という四拍子のリズムがあって、花芽が縦一列に茎の同じ方向につくというお話(一三頁参照)。「こんな不思議なことに、毎年トマトをつくっているのにまったく気づいていなくて、本当にビックリでした。このシリーズは、どの絵本を見てもそういう“不思議”の発見があるんですよね」

 「大地といのちの会」の吉田さんに、土づくりだけでなく野菜の栽培法も指導してもらい、基礎的な知識は経験とともに積み重ねてきていたが、「購入以来、絵本は畑の作業には欠かせないものになりました」と、衣川園長。タネまきや植付けの前には、畑の作業をおもに担う園長の長男の衣川圭太副園長や、保育士さんたちといっしょに栽培のポイントとコツを予習。失敗して子どもをがっかりさせてはならないと、先生たちは真剣だ。絵本に出会う前は、専門書で学んでいたそうだ。でも、専門書は耳慣れない用語も多く、読みこなせずに眠くなって寝てしまったこともたびたびだったとか。

 「秋の収穫祭では、絵本を参考に保護者向けの簡単な教材を工夫したんですよ」と、衣川園長はパネルを見せてくれた。収穫だけ楽しむのではなく、土づくりや、野菜の特徴、どうそだてたかを親に知ってもらい、子どもたちの発見も話した。とても好評だったそうだ。


畑に行く前に、『そだててあそぼう』のイラストを使いながら、その日の作業内容などを説明する

「絵と同じだ! 花が咲いたあとに、タネのあかちゃんができるんだね」。圭太先生といっしょに、絵本と実物を見比べる


保護者のために、衣川園長が手づくりした教材パネル「絵本からずいぶん引用させてもらいました」


ニンジンを収穫したら、折れちゃった。ピノキオの鼻みたい!

畑と絵本と食卓がつながっている

 間引き、開花、収穫、タネとりなど、節目の各ステージでも絵本が活躍。畑に絵本をもっていって、その場で実物と見比べながら“生命の不思議”を子どもたちは体験する。

 イチゴは絵本を教科書に、ランナーから子株をとって株分けに成功した。ニンジンやダイコンのタネとりにも挑戦。とったタネをまいた二代目ダイコンに“マミーダイコン”と名づけ畑に札を立てたら、今年“畑デビュー”した年少組の子が「先生、(『ダイコンの絵本』に)マミーダイコンがのっていないよー!」といってまわりを笑わせたそうだ。

 「園庭に毎年ヘチマ棚をつくります。絵本を参考にして、そのヘチマからお母さんにプレゼントするタワシをつくりましたが、ひとりの子が『タネをちょうだい。鹿児島のおじいちゃんにあげたいから』って。自分たちが水やりしてそだてたヘチマのタネを、大好きなおじいちゃんにあげてヘチマをつくってもらいたいって。タネでいのちがつながっていることが、体験からちゃんとわかっているんです。うれしいですね」

 子どもたちは「童話などのお話絵本とはちがう絵本」として、このシリーズを理解しているという。「子どもたちの頭のなかで、“畑の野菜づくり”と“絵本”と“つくった野菜を食べていること”がつながっている」と衣川園長。だからマミー保育園では、園の畑ではつくっていないキノコや肉類などの食べ物について学ぶのにも、このシリーズを役立てている。

 「ダイコンの絵本にいろんな種類のダイコンが並んでいるように、豚にもいろんな種類があってしかもお肉として自分が食べているということが、絵本を仲立ちに自然とわかるようです。『わー、黒豚だってー』なんて笑いながら、絵本を楽しく見ていますけれど」


『ダイコンの絵本』(10〜11頁)より、品種紹介。世界一長い守口ダイコン、世界一大きくて重い桜島ダイコン、サラダにかわいい二十日ダイコンなど、形も大きさもさまざま。日本だけでも100種類以上のダイコンがある



『イチゴの絵本』(8〜9頁)より。イチゴの増え方を解説。ランナーというツルがでて、親株から子株へ水分や養分が運ばれる。まさに、「すねっかじりのイチゴ」。ランナーで株分けする方法も掲載されている

発見したことを絵本で答えあわせ

 「専門書と違って、一冊に一品目なのでとても使いやすいですね。つくり方から食べ方まで詳しくて、一冊で全部間にあいます。注文はとくにないけれど、最近増えている中国野菜の絵本があるといいかな、ターサイとか」と、副園長の圭太先生。園内だけでなく、地域では野外教育「プロジェクト・ワイルド」の指導者としても活躍している。

 「学童の子たちは、自由研究でずいぶん絵本に助けられています。ボクは、『畑での観察で自分の予想や考えをまとめてから、絵本で調べよう』っていっています。絵本を教科書にするのではなくて、発見の答えあわせみたいな使い方ですかね」

 先日、給食の“万能選手”タマネギの苗を一〇〇〇本も植えたそうだ。マミー保育園の畑は、まわりの林を拓いて、今なお少しずつ広がり、作目も増えて、ますます「おもしろくて楽しい! 不思議な発見がいっぱい!」なのだ。


今年はじめてつくってみた、桜島ダイコンの初収穫。あとで量ったら7.5kgもあった大物に、子どもたちは大興奮


年長組担任の丸太由香里先生が、絵本を見せながらダイコンのお話。実物を見ながらだと、知識がすんなり入る「マミーダイコンがのってないよ!」

(写真・文 大浦佳代)


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2011年3月号(No79)

特集 園芸絵本『そだててあそぼう』大特集! 絵本を持って畑に行こう
◆畑で読書!◆アイデアいっぱい!教科書にある植物◆作物のふるさとから世界を知る◆地方品種がおもしろい!◆知って得する農作業の実際 [本を詳しく見る]

 ダイコンの絵本

佐々木寿 編/土橋とし子 絵
豊かな地方品種は江戸時代に端を発していた。畑の準備から始める本格栽培はもちろん、たくあん漬け、切り干し、カテ切りに挑戦して先人の知恵を思う。大黒様の好物・二股ダイコン、二十日ダイコン、カイワレ作りも。 [本を詳しく見る]

 イチゴの絵本

木村雅行 編/杉田比呂美 絵
市販苗は親株からのランナーに発生した子株。でも果実表面の種子をまくと自分の品種作りに挑戦できる(世界に知られる名品種・福羽も100年前この方法で誕生)。失敗のない植え方、病害を防ぐ法から食べかたまで。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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