「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2011年1月号
 

食農教育 No.78 2011年1月号より


芦田魔女(調理員)

連載 給食を食べごとに

紫たまねぎを「魔法のスープ」に

兵庫・芦屋市立浜風小 栄養教諭 奥瑞恵

 給食室はノリノリ。子どもたちはぐいぐいと給食に引き込まれていく、今回の新企画。きっかけは、有機農業を営む神戸市西区の五島農園からの、こんな電話でした。

また〜、五島さんそんなこというてくる!

五島 奥先生、給食に「紫たまねぎ」を使われへんやろか?

 エー、来月の給食物資注文書できあがったとこやで。

五島 それが今年は予想よりでき過ぎて、一〇〇kgほど冷蔵庫に余っとんよ。

表木 紫たまねぎは色がでるから、給食にはむかんわ。取引先をまた新しく開発したっていうてたやんか、レストランやホテルに買ってもらいよ。

五島 売り込んだんやけど、あかん。いつまでも冷蔵庫においとかれへんし、困ったわ。

 う〜ん、値段によって考えよか、なんぼで売るつもり?

表木 紫たまねぎは腐りやすいけど品質はほんまに大丈夫なんやろね?

五島 もちろん安うするし、一つひとつ検品します。いつもの三〇%引きでどうやろか?

 エ〜、五島さんの野菜は有機で安全安心やから、いつもは五島さんの値段で買ってるけど、今回は残って困ってるわけやろ、もうちょっとひいてもいいんちゃう。

五島 そしたら思い切って七〇%引きでどうや。

 よっしゃ、それなら使わせてもらいます。

五島 おおきに、助かるわ。でもうちの専務(五島夫人)が安すぎやって怒るやろか。

 冷蔵庫で腐らせるより、子どもたちがおいしいって食べるほうがええんとちがう。冷蔵庫も空いて次に使えるし……。

五島 そうや、育てたもんを捨てるほど辛いことはない。専務もわかってくれるやろ。

紫色を生かせるメニューは……

 カレーやミートソースやったら色に関係なくいけると思うけど、他にどんなメニューに使ったらいいかな?

表木 色を生かすんやったら、「かき揚げ」がきれいかもよ。

 油で調理すると色が抜けないから「かき揚げ」か、なるほど。

表木 一〇〇kgぐらいやったら、問題なく使いきれるし、安いから給食費助かるやん。

 そうや、毎日新聞で連載中の「旬の味わい」に、尼崎の保育園のレシピがあった。「火にかけるだけでおいしくなる魔法のスープ」っていう紫色のスープ。紫たまねぎと紫キャベツと豚バラをひたひたの水で煮て、味つけは赤ワインと塩コショウだけで簡単。来月の献立に「魔法のスープ」を入れようかな。

表木 まぁ、なんでもしたらええけど、新しいメニュー好きなんやから……。

魔法がとけると真っ黒になる!?

 栄養教諭のセミナーで「魔法のスープ」の話をしたら、他にも農家から頼まれて紫たまねぎを使った学校があって「子どものところに行くときはよかったんですが、給食室に返ってきたスープは真っ黒で、これは残されても仕方ないと思いました」っていうってはったわ。

表木 エ〜、「早く食べて! 魔法がとけると紫色から黒色の不気味なスープになります」なんてことになるんかいな。

 たぶん鉄釜でたいたからとちゃうかなぁ、紫のアントシアン色素と鉄が反応したんやわ。

表木 そうやな、アルミの釜でやらなあかんな。

 試作したけど、赤ワインでうっすらピンク色してるって感じやな。イメージとはほど遠いな。

山田 鮮やかな紫色なら、やっぱり酸と合わせるしかないでしょうね。

表木 う〜ん、紫たまねぎを酢につけてからスープに入れる? たとえ色はでたとしてもおいしくないよな。

 紫たまねぎは色より甘味をだす。色は紫キャベツに期待して、ゆでてレモンをかけて仕上げにスープに入れることにしよ。

「魔女からのお手紙」を食缶に貼る

表木 鶏ガラをよーくだしたから、スープは白く濁ってる。あとは紫キャベツとワイン入れて仕上げるで。

 紫というかグレーがかってるな。でも紫キャベツの存在感があって、試作よりはいいかな……。味はどう?

山田 味は見た目より意外とおいしいです。

表木 うん、味はいけるで、よかった。

 そうや、各クラスの食缶に「魔女からのお手紙」を貼るわ。「給食室の魔女より ごめんなさい、今日のスープは紫色にする魔法をかけたけど、練習不足でうまくいきませんでした。再チャレンジします」。

表木 魔法のスープは残ってこんかったけど、子どもたちからの反応はどうやった?

 三年の男の子は「紫色のスープにしたかったん? 結構いけてたで」とか「おもしろかった」って応援メッセージをもらった。六年からは「先生、オレらもう六年生やで、こんな子どもじみたこと……」って冷ややかやったわ。

表木 へー、おもしろ。

大崎(図工専科) 奥先生、次の魔法のスープはいつでるの? 魔女からのお手紙に書いてあったから、楽しみにしてるよ。

 そうなん、うれしい。第二弾は「魔法のサラダ」でどうやろ。

大崎 いいですね! 紫色のサラダ、紫って神秘的で魔女のイメージですよ。なんなら黒い魔女の衣装をつくりましょうか。

 のってくれてありがとう! 第三弾は魔法のスイーツでいって、最後は卒業式のころにもう一度「魔法のスープ」といこうかな。

魔法の粉も登場!

(第二弾、魔法のサラダの日)


魔法の粉で紫色のサラダが青紫に!

 こないだ、五年の女の子が「魔法のサラダって、どうせ紫色してるだけでしょ」っていうてた。くやしーい!

表木 ハッハッハ しゃあないわ。でも今回のサラダは、ドレッシングに酢を使ってるからキャベツもたまねぎもきれいな紫、大根まで紫色に染まってバッチリ「紫のサラダ」になったで。

 よっしゃ! 今回は、冷めた子どもたちをアッといわせる「魔法の粉」も仕込んできたで。じゃーん! この魔法の粉(重曹)をサラダにかけると、あら不思議、紫色のサラダが青紫に、どんどん色が変わって鮮やかな青緑色のサラダになっちゃた!

山田 得意げな顔して、教室でやるんですか?

 もち、今からいくで! 子どもたちが「その粉なに?」って驚く姿が目に浮かぶ、ヘッヘッへ。

山田 担任の先生が子どもよりびっくりしたりして……。理科の学習につながっていったらおもろいですね。


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2011年1月号(No78)

特集1 泥あそび&堆肥づくり 土とあそぼう
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