食農教育 No.77 2010年11月号より
授業に使える!
どこの国の食卓だろう?
『写真で学ぼう!「地球の食卓」学習プラン10』制作ストーリー
開発教育協会 宮崎花衣
世界の家族と、その一週間分の食料を並べ、一枚の写真に記録する――。強烈なインパクトをもつ写真集をもとにして、子どもたちと楽しく学べる教材がつくられました。その制作過程をご報告いただきます。(編集部)
見れば見るほど思考が広がる
『地球の食卓』の写真をはじめて見たのは今から約二年前です。(特活)開発教育協会(以下、DEAR)でインターンとして活動していた当時、食べることが大好きな私にスタッフが「きっと気に入るよ」と紹介してくれました。はじめは単純に「おもしろい! この国の人たちはこんなものを食べているのか」「あっ、マルちゃんのカップラーメンがある」「こんだけ食べたら太るにきまっているよ」と一人つぶやきながら楽しく見ていました。
その後、あらためてゆっくり見ていくと、新しい発見が次々にでてくるうえ、ちがいを楽しむだけでなく、共通の問題が見えてきたり、“食”をとおして家族の幸せについて考えさせられたりと、思考がどんどん広がっていきました。また、他の人と一緒に写真を見ていくことで、新たな視点を得られることにもおもしろみを感じました。見れば見るほどに、この写真たちは開発教育のよい教材になると確信していき、教材をつくってみたくなったのです。
『写真で学ぼう!「地球の食卓」学習プラン10』
『地球の食卓』(TOTO出版)は、世界24ヵ国30家族の1週間の食料を並べた写真集。たんなる家族のポートレート、食料の量の記録にとどまらず、そこから文化の多様性、家族の生活、人間の生きる力が感じられる。また、環境や貧困、グローバリゼーションの影響など、現在の地球的諸課題も読みとることができる。
これを学校現場で使えるように教材化したものが『写真で学ぼう!「地球の食卓」学習プラン10』。写真(B4カラー/39枚)と学習ガイド(冊子)のセット。冊子には、写真を活用した以下の学習プラン10個のほか、写真の解説、食料リストなどの資料も掲載されている。
【学習プラン】フォトランゲージ/国あてクイズ/国の中の多様性/おやつで元気!/おいしい食べ方/いただきます/多様なイスラム教徒の生活/難民の生活を知ろう/食卓から出るごみ/未来の食卓
多様なメンバーで教材作成チームを結成
教材作成は、参加メンバーを探すことから始まりました。月一〜二回行なわれる平日夜の会議に参加することができ、新規教材の趣旨に興味をもってくれそうな会員の方へ声をかけます。なかには、ちょうどその時期にはじめてDEARの講座に参加した栄養士の方もいました。そのほか、中学・高校・大学の先生、NGO職員、国際交流協会職員と、さまざまなバックグラウンドをもつ人々によるチームが組まれました。
一回目の会議では、どんな教材にしたいかを話し、「食」を切り口にした学習テーマのブレインストーミングを行ないました。でてきた意見を吟味しながら、教材の対象や構成などの大枠をきめ、その後、各自がもっとも取り組みたいテーマに関して学習プランを作成し、みんなでブラッシュアップしていく。これが教材作成の大まかな作業です。
各メンバーが得意分野を活かすことで、『地球の食卓』の写真がユニークな学習へ調理されていきます。たとえば「いただきます」の学習プランは仏教系のNGO職員の提案により「宗教の教えのなかに、食べ物や命の大切さが含まれていることを知る」ことをねらいとしてつくられました。「おやつで元気!」「おいしい食べ方」の作成者は食物学科の大学の先生、「多様なイスラム教徒の生活」「難民の生活を知ろう」はふだんから開発教育に熱心に取り組む高校社会科の先生です。
各学習プランに作成担当者の特徴、込められた思いを感じることができるのも、この教材の魅力の一つだと思います。
(特活)開発教育協会(DEAR:ディア)とは
国際協力NGOや国連関係団体、地域の市民団体や個人などで構成される教育NGO。国際理解や国際協力をテーマとした教育活動や参加型学習の普及推進を行なう。
TEL:03-5844-3630/FAX:03-3818-5940
学校で使いやすいよう内容を削り込む
学習プランの作成にあたってもっとも苦労したことは、そぎ落としの作業です。学校で活用しやすいように四五分単位の授業構成としたため、詰め込みすぎを回避し、シンプルだけどねらいとする学びができるように、学習プラン案をうまく削る必要があったのです。思いが強ければ強いほど、どうしても欲がでてしまい、そぎ落とし作業は難航しました。
そこに一役かっていただいたのは、有志の小学校の先生方です。彼らの協力によって行なわれた授業実践のフィードバックはたいへん貴重なものとなりました。
小学校での授業実践には私も参加しました。写真に興味をもってくれるとは確信していましたが、予想以上の反応で、子どもたちはさまざまなことを読みとっていきます。答えるのが難しいのでないかと先生が懸念していた問いにも想像力をもって発言をしていました。
*
『写真で学ぼう!』は、学習のねらい・対象・実践者の思いにより自由自在に活用することができます。世界の多様性に触れ、楽しむのもよし。「食」をめぐる世界共通の問題について深く考察するのもよし。さらに展開していき、どのような社会・世界としていきたいかをじっくり話し合っていくのもよし。ぜひ、みなさんもオリジナルの『地球の食卓』学習プランを作成&実践してみてください。
*次号では、この教材を活用した授業実践をご報告します。
(c)2006 Peter Menzel & Faith D'Aluisio/ユニフォトプレス(以下の写真も)
フォトランゲージに挑戦!
フォトランゲージとは、写真を使って行なう参加型のアクティビティー。
アクティビティー例
例1)グループで、気づいたことや疑問に思ったことを書きだす。
例2)設問に答える。「ここはどこでしょう?」「この家族に聞いてみたいことは?」「自分の生活と似ているところは? ちがうところは?」など。
例3)テーマを決めて、複数の写真を比較・順位付けする。「住んでみたい順」「豊かだと思う順」など。
これらのアクティビティーをとおして、「共感的な理解や創造力」や「ものごとの多様なとらえ方」を養い、「偏見や固定観念に気づく」ことをねらいとしている。
出典『写真で学ぼう!「地域の食卓」学習プラン10』(DEAR.2010)P16
この記事の掲載号『食農教育 2010年11月号(No77)』◆ムギをまこう!育てやすくて食べて楽しい◆地元の旬を使いきる"食材ありき"の給食献立 ほか。 [本を詳しく見る]
『麦わらの絵本』 生活用具から伝統工芸まで、暮らしの中でさまざまに使われていた麦わら。裂いて貼って絵葉書や宝箱、編んで束ねて馬や人形、コースターや指輪に大変身!艶やかな金色に輝く伝統の麦わら細工、麦わら帽子にも挑戦だ。 [本を詳しく見る]
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