「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2010年7月号
 

食農教育 No.75 2010年7月号より

重い肥料袋から土を出す。緑のカーテンはまず土づくりから始まる(矢島江里撮影、以下*も)

あっぱれ緑の大カーテン

園芸経験なしの音楽教師がやった!

東京・板橋区立高島第五小学校

編集部

「エコはエゴからはじまっていい」

 カラー口絵で紹介した、みごとなカーテンを育て上げる高島第五小学校の菊本るり子先生は、緑のカーテンづくりに取り組んだこの八年の歩みを、そう振り返る。

 菊本先生は理科の先生でも、農家の出身でもない。もともと園芸は、ずぶの素人。都会育ちの音楽専科の先生だ。エアコンが苦手で、「森をまとう」と書かれた広告に惹かれ、二〇〇二年に環境共生型エコマンションの五階へと引っ越した。そこで、緑のカーテンの魅力に完全にとりつかれてしまう。毎日ぐんぐんツルを伸ばしていく植物の成長を見守る楽しさ、自宅に居ながらにしてとれたての新鮮野菜が手に入るよろこび。そして驚いたことに、その夏はエアコンを一度も使わずに過ごせてしまったのだ。

 「楽しくて快適でおいしい。お財布にもやさしくて、しかもエコ! こんないいこと、ぜひ子どもたちにも伝えたい!」。さっそく、翌年から前任の板橋第七小学校でも取り組みだした。

「失敗はカーテンの母」

菊本先生のご自宅のベランダ。夏は毎日のようにゴーヤーを収穫できる。写真提供:(株)リブラン

 ところが一年目は大失敗。ヘチマ、ゴーヤー、キュウリ、アサガオ、インゲンをプランターに一株ずつ植えたため、勢いのよいヘチマ以外は伸びがいまいちで隙間だらけ。ネットではなくシュロ縄を一本ずつ張ったので、わき芽も十分に広がらない。土は市販の培養土だけで栄養もいまいち。おまけにインゲンは間違えてツルナシ種を植えてしまっていた。

 それでも、「失敗はカーテンの母」と菊本先生。六年生の子どもたちも、この教訓を五年生に引き継ごうと、失敗の原因をまとめた詳細なファイルを作成した。

ゲストティーチャーがサンタクロースのように現われた

 翌二〇〇四年、「どんな肥料をやればいいのだろう?」と菊本先生が悩んでいるという話を、どこからか聞きつけたのが谷内誠治さんだ。谷内さんは、自身が製作に携わっていた生ゴミ処理機でつくった肥料の袋を担いで、まるで「サンタクロースのように」学校にやってきた。その後、栽培指導だけでなく、毎年四月のスタートの授業で、「土ってなんだろう?」という話を子どもたちに語ってくれている。

 ひと握りの土のなかに、地球上にいるすべてのヒトの数と同じくらいたくさんの微生物が存在すること。彼らが枯れた草木を分解してくれるのだが、一pの厚さの土をつくるのに、三〇〇〜四〇〇年、三〇pだと一万年もの年月がかかる。そうしてできた貴重な「土」や、その中で生きるミミズの役割、堆肥置き場でみつけたヤモリの生活……。「ミミズは嫌い」「土は汚い」と思っていた子どもたちにとっては、ちょっとビックリ、興味津々なお話だ。

「NPO法人 緑のカーテン応援団」を発足

「子どもの感性っておもしろい!」菊本先生は子どもの言葉や動きをおもしろがる(*)

 緑のカーテンをとおして、子どもたちに足元の資源を見直してほしい――。

 谷内さんのような熱心な大人が、菊本先生と子どもたちの回りには、本当にたくさん集まってくる。

 六月の梅雨時期には、雨どいメーカーの社長さんによる「雨(水資源)」についての授業。七月には、東京都市大学の教授による「熱のふるまい」についての授業。九月には沖縄出身の元校長先生(四四頁)によるゴーヤー料理教室。十一月には、環境教育プランナーによる「土で絵を描く」授業(二〇〇六年七月号参照)、と多彩なゲストティーチャーが現われ、子どもたちの体験と知識を結びつけてくれる。

 二〇〇七年には、これらの人々が中心になって、なんとNPO法人まで発足した。その名も「緑のカーテン応援団」。板橋区だけでなく、日本中に緑のカーテンの輪を広げるべく活動を展開中だ。

外との関係をつくる江戸時代の知恵

 かくいう菊本先生も、いまやさまざまなイベントや取材にひっぱりだこだ。学校での音楽の授業、緑のカーテンの管理、六年生の総合の授業、生活指導主任の仕事をこなしながら……。「正直、緑のカーテンがなければどんなにラクか……」と思うこともあるという。それでもやり続けるのはなぜか? 菊本先生にとって、緑のカーテンの魅力ってなんですか? と聞いてみた。

 「エアコンはスイッチ一つで外の世界を閉め出しちゃう。外との関係を断ち切ることで快適性を得ているでしょ。でも、緑のカーテンは窓を開けて、自然を上手に取り入れることで快適性を手に入れる。よしずやアサガオで西日をさえぎり、植物の手入れを楽しむ文化があった江戸時代の知恵と通じるものがあると思うの」。

 異年齢の子や親以外の大人とかかわる機会の少なくなった、いまの子どもたち。いわば、外との関係を断ち切る、エアコン的な社会環境があちこちに準備された世の中だ。でも、緑のカーテンをとおして、高島第五小の子どもたちはたくさんの人や生きものとかかわり、外へ外へと関係を開いていく。「カーテンとともに成長していく子どもたちの姿があまりにもステキ! だから、毎年やめたくてもやめられないの」。

 そんな菊本先生の涼しい夏は、今年もやっぱり熱くなりそうな気配だ。



花壇に土を入れたら、子どもたちのたくさんの手でとにかくよく混ぜる!

菊本流!緑のカーテン栽培のポイント

4階まで届くあっぱれなカーテンをつくる高島第五小学校。栽培のポイントを、菊本先生からお聞きしました。

花壇の土は再利用

 前年の土はいったんすべて出す。そのあと、花壇に培養土:腐葉土:完熟たい肥:前年の土がだいたい二:一:二:五の割合になるように入れて混ぜ、ぼかし肥を一u当たり大人の手でひとつかみほど加える。

 前年の土の残りは一年生のプランターに入れてアサガオの栽培に、さらに余っていれば六年生のジャガイモ畑で使っている。

ツルを伸ばすほうにネットがあるように植える

ツルを助けるネット張り

 網目は一〇pくらいがいい。大きすぎるとツルが絡みにくく、細かすぎると葉っぱが風を受け流せずにネットに引っかかってしまう。涼しい風が通らないだけでなく、葉やツルをいためる原因となる。

 ネットが安定しないと、わき芽が安心して伸びてくれない。上下をしっかりと固定し、びしっと張るのがだいじ。(次頁参照)

苗には向きがある

 一本いっぽんがしっかり根を張れるように、苗と苗の間隔は三〇p以上あける。

 植えるときは、苗の向きに気をつける。ツルがネットにつかまりやすいよう、ツルを伸ばしている方向にネットがあるように植える。

ネット張りの手順

(1)たくさんの先生方が協力して、ネット張りがスタート!

(2)まず、花壇の上にネットを置いて

(3)4階からロープを下ろす

(4)下にいる先生がロープとネットを結び

(5)ネットを引っ張り上げる!

(6)下の部分はしっかり固定

(7)ネットの端をおもり(水を入れたポリバケツ)に結び付け

(8)ネットを引っ張ってがっちり固定

(9)4階から見下ろすとこんな感じ。ピンと張られていて、これなら風が吹いてもゆらゆらしない!

 つづきは、『食農教育』2010年7月号を参照ください。


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2010年7月号(No75)

◆特集1 おもしろ野菜で"緑のカーテン"/自然薯、ユウガオ、カボチャ、エアーポテト、シカクマメ、パワーリーフ、ゴーヤー・ヘチマレシピ/栽培の基本、涼しさのヒミツ
◆特集2 お豆をたくさん食べさせる/粒を砕く お豆を発芽 打ち豆レシピ 豆イメージアップ作戦 ほか。 [本を詳しく見る]

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