食農教育 No.74 2010年5月号より
DATA
・食数…400食
・栄養教諭…1名
・調理員(運転兼務)…7名
・炊飯方式…自校炊飯
好評!ごはんとみそ汁だけの給食
栄養価もほぼそろう
兵庫・宍粟市立ちくさ学校給食センター
田路永子
ゆきだるまおにぎり! 使い捨て手袋をはめて、みんなでおにぎりを握る「あるものを使う」への発想転換
田んぼや畑を見ることも体験することもなく、市街地で生まれ育った私が地産地消を意識し始めたのは、結婚して宍粟市(当時宍粟郡)へ転任し暮らすようになってからだ。「店に行けばなんでもそろう。季節は教科書に書いてあるもの」と思っていた自分が、子どもたちと学校農園で作業し、「じゃあ、できた野菜は給食で使いましょうよ」と暮らしていくうち、「農家は野菜を買ったりしない。季節に合わせて自分で栽培した野菜だけでやりくりする」ということに気づいた。だから、お年を召してもお元気なのだ! このことを伝えなければ、日本は元気にならない。
ジャガイモだけがイモじゃない。サツマイモ、サトイモ、ヤマイモ、季節に合わせて使うイモを変えていく。キュウリの時期はキュウリばっかり、ダイコンの時期はダイコンばっかり。そんな農家の食卓の姿を、給食にも取り入れていくようになった。
肉も魚もとれない地域で究極の地産地消献立
平成十八年、兵庫県から食育基本計画が発表された。毎月十九日は食育の日。「これに乗ろう!」と思った。給食センターがある地区内だけでとれるものを使った、究極の地産地消献立をつくってみたい。ところが地区内でとれるものは農作物だけ。メインのおかずになる魚や肉は生産されていない。それならいっそのこと、とはじめたのが「ごはんとみそ汁だけの給食」だ。
栄養の偏り、不規則な食事、生活習慣病、食の海外への依存、食の安全・安心など食育に期待されることは、わたしたちの食文化のルーツともいえる「ごはんとみそ汁」で、すべて解決できる。地元食材一〇〇%の食育だ。
当時は一町一給食センターで献立は栄養士に任されていたので、このとっぴな考えも給食センター所長の了解だけで実施に踏み切れた。
ごはん一・四倍、中学生で一人一合
ごはんは旬の食材を入れた炊込みごはん。シンプルに、五月はタケノコ、六月は実エンドウといった具合。量はふだんの一・四倍にした。中学生で一合だ。ごはんが山盛りだと、見た目の迫力もあって食べきれない子もいるから、食べるときに自分でおにぎりにする。自分の手で握ることで、「自分がつくった」と愛着がわき、大切に食べるようにもなるはずだ。汁は汁椀に入りきるよう、ふだんの一・二倍にした。手順は以下のとおり。
・飯椀にごはん、汁椀にみそ汁を配膳し、空の皿も配っておく。
・「いただきます」をしたら、配っておいた使い捨て手袋をはめておにぎりを握り、皿に置く。
・ごはんを握り終えたら食べる。事前に、給食センター所長名で趣旨と方法を書いた文書を学校長宛に送付してもらい、協力を呼びかけた。
現在、市内全校で実施
いよいよ当日がやってきた。「うまくいくだろうか……」という不安は私だけではない、担任の誰もがそう思っていたにちがいない。給食時、所属校のようすを見て回った。担任の指導でおにぎりを楽しむ児童たち。児童だけではない、職員室では先生たちも楽しみながら握っていた。
成功を実感できたのはその日の午後。各校の給食担当者から報告が届いた。「好き嫌いがなく残さず食べた」「低学年は大変なことになるかと思っていたが、案外スムーズにできて楽しめた」「おにぎりをしたことで会話がはずみ給食時間を楽しく過ごせた」「先生と中学生の手袋は大きくしてほしい」など、学校の協力がうれしかった。
あれから四年。四町が合併し宍粟市となった今、「食育の日は『ごはんとみそ汁』」は市全体(四給食センター)で取り組まれるようになった。主菜がない物足りなさを訴える教師もいるが、子どもたちからは「キライなものがない」「早く食べられる」「おしゃべりができて楽しい」「宍粟市でよかった」などの感想が寄せられている。
2009年11月 食育の日の献立
サツマイモごはんとみそ汁
ごはんとみそ汁だけでも、栄養価はほぼ満たしている
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