食農教育 No.72 2010年1月号より
調理クズ・食べ残しで授業!
学年で年間2.5t!
給食・家庭の生ゴミを毎日リサイクル
兵庫・宝塚市立長尾小学校 後藤勝徳
ランドセルにキュウリ!
大量の食べ残しが日常の風景に……
教職に就いて驚いたことの一つに、毎日の給食の残飯の多さがありました。何百人もの子どもたちが共同生活する場なので、一人は少しずつでもまとめれば相当な量になります。当然と言えば当然なのですが、捨てられていく大量の食べ残しを日常の風景として子どもたちが慣れていくことに大きな疑問を持ち、なんとかしたいと思い続けていました。
二〇〇一年秋、シマミミズ(以下、ミミズ)で生ゴミリサイクルができると聞き、わが家で試験的に始めました。ミミズって、あまり気持ちのよいものではありません。ミミズ養殖業者から五〇〇g約五〇〇〇円で購入し、宅配便で送られてきた大量のミミズに当初は躊躇しました。しかし、生ゴミを食べてくれて、おまけにミミズ液肥を出してくれるので、これはぜひ学校でもやってみようと思いました。
二〇〇二年、前任校に異動した春、地域のNPOから「ミミズによる生ゴミリサイクルをしないか」というお話がありました。最初は、残飯を含むすべての生ゴミをリサイクルすることを考えましたが、多くの方のご意見を伺い、いろいろ考えた末、残飯を除く調理クズ(以下、生ゴミ)を中心にリサイクルすることとしました。
ちょうどこの年から、総合学習が完全実施となり、年間一一〇時間も自由な実践ができるという環境にも恵まれました。そうして、試行錯誤のなか、生ゴミリサイクルが教室で始まり、それ以来現在まで毎年続けています。
木のチップ堆肥。湯気がでている
落ち葉と雑草を集めた腐葉土工場を移動させる(満杯になって土に還るころに引き抜いて、新たな場所にためていく)
家庭からも、給食室からも集める
毎年四月の総合学習のオリエンテーションで、子どもたちに「ミミズ」と言うと大きなどよめきが起こります。何年生を受け持ってもそうです。教室にミミズがいるなんて、ふつうでは考えられません。でも、小さいミミズがみんなの生ゴミを食べてくれて、さらにミミズ液肥を出して、おいしい野菜をつくってくれるなんて、もう最高です。ある子どもは「ミミズはぼくらのヒーローだ」と言っていました。
子どもたちは、家庭の生ゴミを持ってきました。また、学校では給食の生ゴミをリサイクルしようとしました。しかし、ミミズが生ゴミをリサイクルする能力は思ったより高くありません。そこで、大量の生ゴミをリサイクルできる釣り鐘型コンポストを四台購入し、学級菜園の横に置いて生ゴミリサイクルを始めました。五〇〇名弱の前任校では、生ゴミを一〇〇%、リサイクルすることができました。
また、生ゴミリサイクルと並行して、野菜栽培にも取り組みました。夏野菜は、トマト・キュウリを中心にオクラ・ピーマンなど、秋野菜は、大根・秋ジャガ・ホウレンソウ・レタスなど、子どもたちは自分の好きな野菜を選んで自分の野菜を自分の手で育てました。野菜を育てたことがない子どもたちがほとんどです。子どもたちは生き生きと野菜栽培に取り組みました。ランドセルにキュウリを挿して下校する子どもや、喉が渇くと休み時間に畑に行ってキュウリを収穫して、かじりながら教室に帰ってくる子どもたちもいました。
子どもたちが育てる野菜は、生ゴミ堆肥と木のチップ堆肥、ミミズ液肥だけで大きくなりました。土づくりには、ベニヤ板で囲った腐葉土工場でつくられた腐葉土を活用しました。教育予算削減のなか、肥料や腐葉土を買う費用の削減に大きな貢献です。なお、宝塚は「歌劇の街」ばかりでなく、「植木の街」でもあります。その植木の剪定クズを焼却処分にせず、市の「緑のリサイクルセンター」で木のチップ堆肥にしています。それを無償でもらい受け、十分に活用しました。
子どもたちの育てた野菜を使っての調理実習は、最高の喜びの瞬間でした。フードマイレージが限りなく「0」に近く、地産地消ならぬ、自産自消の実践となりました。
表1 2008年度 安倉北小3年1組(31名)の生ゴミ処理量
ミミズ コンポスト(4台) 合計(kg) EM容器(5台) ブロックピット 飼育専用木箱 家庭 給食 9.771 12.463 4.720 906.900 508.100 1,441.954 *ミミズEM容器(5台)によるミミズ液肥採取量 14100ml 子どもたちのリサイクル量を明確にデータ化
継続して生ゴミリサイクルに取り組むさいには、子どもたち一人ひとりがリサイクルした量を明確にデータ化していくと意欲が持続します。子どもたちは、家庭から持ってきた生ゴミをまず計量し、記録します。また、給食の生ゴミは調理師さんの協力を得て、毎日計量してもらいました。黒板の隅に毎週集計結果を表示し、「一年間に自分の体重くらいの生ゴミをリサイクルしよう!」と声かけをしました。表1のように昨年度受け持った三年生のクラス(三一人)では、なんと一四〇〇kg超え! 結果、次のようなスゴイ量の生ゴミをゴミにすることなく、リサイクルできました。
〇七年度 五年生(二クラス)二四〇二kg
〇八年度 三年生(三クラス)二七一六kg
宝塚市では、一般ゴミ一tを焼却処分するのに約四万円の経費がかかるそうです。ここでも、市の税金を年間一〇万円ほど節約できたこととなりました。
子どもたちには、大きな意識の変化が現われました。生ゴミは、おいしい野菜を育ててくれるわけですから、生ゴミがゴミではなくなったのでした。
表2 生ゴミリサイクル方法 比較一覧 by GOTOSEN
リサイクル
方法名諸費用 長所 短所 処理量 おすすめ ミミズEM容器 シマミミズ500g 5000円
EM容器 1400円
ヤシの実繊維 100円
熊手 100円・ミミズ液肥を採取しやすく、野菜栽培に使える ・酸欠防止のため、ときどきかき混ぜる手間が必要 △ ◎ ミミズトロ箱 シマミミズ500g 5000円
トロ箱(リサイクル品)
金網 100円
洗濯ネット 100円
ヤシの実繊維 100円
熊手 100円・費用が安い
・ミミズ液肥を採取でき、野菜栽培に使える・生ゴミ投入時、洗濯ネットに触れなければいけない △ ○ ミミズブロックピット シマミミズ500g 5000円
コンクリートブロック4個 1000円
金網 100円
熊手 100円・自然に近い環境なので容易にできる
・生ゴミ処理量も多い・ミミズ液肥を採取できない
・地面に直接設置するので集合住宅ではできない○ ◎ 釣り鐘型コンポスト 1台 3000円〜 ・生ゴミ処理量が格段に多い
・購入時、市町村の補助が出る可能性がある・においがでることがあり、満杯になると移動する必要があるので、広い敷地が必要
・生ゴミを混ぜる手間が必要◎ ◎ EM生ゴミ処理 EM容器 1400円〜
ボカシ1kg 400円・購入時、市町村の補助が出る可能性がある ・二次処理が必要なので、適度な土地が必要
・生ゴミに混ぜるボカシが必要
・生ゴミを混ぜる手間が必要○ △ プランター直接投入 プランター 100 〜 200円 ・生ゴミを投入して、熟成後そのまま使える ・生ゴミ処理量が少なく、一つのプランターで処理できる量は2kg程度
・生ゴミを混ぜる手間が必要△ ○ ダンボール式生ゴミ処理 ダンボール(リサイクル品)
腐葉土20P 200円・費用が少なく、すぐにできる ・生ゴミを混ぜる手間が必要 ○ ○ 電気生ゴミ処理機 各メーカー 40000円〜
チップ材等の補充がランニングコストとして必要・処理量・処理時間とも抜群
・購入時、市町村の補助がでる可能性がある・初期費用が高価なうえに、ランニングコストも必要
・生ゴミ処理コストを考えれば、市町村のゴミ処理のほうが安いので、エコ商品かどうか疑問
・化石や原発のエネルギーを使うのでエコ商品かどうか疑問
・できた堆肥を使う場所が必要◎ × *1.あくまでも、執筆者の経験と主観による比較である
*2.シマミミズは釣り道具屋で売られているものと同種だが、専門業者からまとめて購入するほうが確実
*3.資材はリサイクル品を活用し、より経済的にしたいものであるミミズと釣り鐘型コンポストがおすすめ
生ゴミリサイクルにはいろんな方法があり、私自身いろんな方法に挑戦してきました(表2)。住まいの状況、学校の環境などにより一番適した方法で取り組むといいと思います。一番大事な要素は、「手軽にできること」です。負担が大きいと続けることができません。楽しく継続できる方法を試してみてはいかがでしょうか。
なかでも、ミミズEM容器を使った生ゴミリサイクルがおすすめです。EM容器は密閉式ですので、かき混ぜるなどして酸素欠乏を防ぐ必要はありますが、液肥がとれるように下部に蛇口が付いているのが好都合です。生ゴミリサイクル量は多くはありませんが、手軽にできる方法の一つです。
もし、庭があれば、ミミズブロックピットがおすすめです。地面に金網を敷いてミミズの天敵であるモグラの侵入を防ぎ、ブロックで囲むと完成です。自然に近い環境なので、生ゴミリサイクル量が比較的多いです。庭のあるご家庭や学校での取組みではおすすめの方法です。
ミミズは、釣り道具屋で売られているものと同種ですが、どうしても量が少なく、冷蔵庫で保管されているので元気ではありません。ミミズ養殖業者から宅配便を利用して購入するのがおすすめです。ミミズは、刺激の強いレモンなどの柑橘類や腐敗しやすい魚や肉類は苦手で、メロンなどの果物の皮が大好物のようです。
ミミズによる生ゴミリサイクルは、どうしても大量にはできません。学校給食など大量の生ゴミをリサイクルする場合は、釣り鐘型のコンポストがおすすめです。一つのコンポストで五〇kg以上のリサイクルが可能です。一杯になれば容器だけ引き抜いて場所を移動すれば、またさらに生ゴミをリサイクルできます。生ゴミを投入して土や木のチップなどをサンドイッチ状にすれば、虫などの発生を抑えられますが、どうしても虫が発生します。においが出ることも珍しくありませんので、近隣に迷惑をかけないような場所を選ぶ必要があります。
大自然の循環をすぐ目の前で
夏野菜と背くらべする子どもたち
生ゴミリサイクルと野菜栽培をとおして、おいしい野菜をほおばる子どもたちの喜ぶ顔に出会うことができます。また、家庭でもミミズを飼って生ゴミリサイクルを続ける子どもたちもいます。卒業して中学校に行ってもミミズの研究を続ける子どももいます。教室の学習が広がっていくのをみるのも楽しいものです。
この学習の最大のメリットは、自然の循環をすべて目の前で体験できることです。インターネットで調べただけのような机上の学習ではありません。環境教育には最適なテーマだと思います。
大阪の街中で育った私です。つい数年前までは、植物を栽培することに興味すらありませんでした。しかし、そのおもしろさを教えてくれたのが、この生ゴミリサイクルと野菜栽培でした。休日は畑で時間を過ごし、収穫を喜んでいます。将来は、「晴耕雨読」でいきたいところです。
冬場は生ゴミとともに通勤!
わが家の生ゴミは、そのほとんどをミミズがリサイクルしています。以前は、EM菌による生ゴミリサイクルをしたこともありましたが、面倒なので続きませんでした。結局、ミミズによる生ゴミリサイクルだけを続けています。EM容器を二つ、ホームコンテナー(四五四mm×三一〇×一七〇H)を二つ、ブロックピットが二ヵ所です。
冬場はミミズの活動が鈍るため、生ゴミリサイクル量が減るので、学校のコンポストに入れるようにしています。通勤電車に生ゴミを持ち込んでいるのは私だけでしょう、間違いなく……。一度、駅に忘れてしまって駅員さんに慌てて連絡をしたことがありました。
わが家では、ミミズEM容器で採取するミミズ液肥を使って、家庭菜園を楽しんでいます。また、二年前からは教室くらいの広さの畑を借りて畑を楽しむようになりました。今年は、畑で穫れたダイズで味噌をつくりました。
*詳細については、私のホームページ「GOTOSEN」をご覧ください。
http://www.geocities.jp/gtktnr/index.htm*私が利用しているミミズ販売業者
相模浄化サービス
TEL 0463-90-1332
後藤先生おすすめ生ゴミリサイクル(ミミズEM容器、ミミズトロ箱、ミミズブロックピット、釣り鐘型コンポスト、プランター直接投入、サンボール式)の具体的なやり方し方は、本誌(『食農教育』2010年1月号)を参照ください。
この記事の掲載号『食農教育 2010年1月号(No72)』学年で年間2.5t!給食・家庭の生ゴミを毎日堆肥化/長崎発、生ゴミリサイクル畑/給食のタマネギの皮でハンカチ染め/ミカンの皮で消臭/大量調理にアイデア小道具/回転釜で炊き込みごはん/ほか。 [本を詳しく見る]
農文協 > 食農教育 > 2010年1月号 >
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