「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年11月号
 

食農教育 No.71 2009年11月号より

土を変えれば、子どもが変わる

荒れた中学校が3年で変わった

長崎・佐世保市立祇園小学校

管理員 一ノ瀬豊

現在勤務する小学校で、子どもたちと一緒に給食の生ゴミを堆肥にする「生ゴミリサイクル」に取り組んでいる
運動会のあと停車中の軽トラに子どもたちが何人のれるか挑戦

園芸活動を通して「環境が人をつくる」を実感

 私は佐世保市の公立小学校に勤務しています。でも教職ではありません。職種は「学校環境整備作業員」というややこしい名称が与えられています。一般的にいえば「用務員」、佐世保市においては「管理員」と呼ばれています。私が本職に採用された平成三年当時は、かなりの職業差別意識が残り、「管理員は中卒程度の学力……」など、厳しい扱いや評価を受けたこともありました。どうにかしてこの実状を改善したいと思った私は、この職の技術向上をとおして、素晴らしい学校環境をつくることこそ、自分にできる唯一の手段と全力で業務に打ち込んできました。

 とくに花植えや畑づくりなどの園芸活動との出合いは、私にとってまさに天啓で、「環境が人をつくる」を認識させてくれました。子どもあっての学校ですから、職員中心の「管理員花壇」「先生花壇」とならないよう、いかにして子どもたちの心をつかみ、仲良くするかを考え、子どもたちを中心に活動に取り組んでいます。

作業を一緒にやりながら、子どもたちの話を聞く

筆者。生ゴミリサイクルについて説明する

 土を変えることで子どもたちが変わる。このことを身をもって実感したのは、平成12年、二度目の転勤により、はじめて経験した中学校勤務のときです。

 自分が中学生だった頃より、子どもたちの体がずい分大きくなったなあ。それが第一印象でした。話してみると一人ひとりの性格は悪くなさそうでしたが、気になったのは乱れた服装でした。パンツが見えるほどにずり下げられたズボン。丈の短いスカート。オレンジや赤に染められた髪……。ここは昔と同じ中学校なのでしょうか。行動にも目にあまるものがありました。毎日壊される備品やガラス窓、授業中に平気で出歩く生徒、タバコで詰まる便所、あげくの果てはスプレーペイントで校内のいたるところに落書き。つかみ合い、ののしり合う生徒と先生、傍観者の職員、やがて警官が大挙してやって来て……。

 黙々と園芸活動を続けながら、毎日「私が学校のためにできることはないか?」と考えました。校内をうろつく生徒にはつとめて声をかけ、器物が壊されたときには、直接文句を言わず、すぐに飛んでいって修理するようにしました。これはテレビで見た「建物の窓が壊れているのを放置すれば、ほかの窓もやがて壊されるようになる」という破れ窓理論を参考にしました。

 すると少しずつですが生徒に変化が……。ある時、壊れた廊下の羽目板を修理していると、蹴りやぶった男子生徒が戻ってきて、言いました。「オイちゃん、ごめんね。オイが壊したけん。オイも手伝うけん」。私は彼と修理をしながら、先生への不満、家庭の問題などいろいろな話を聞いてやりました。このやりとりを見ていた校長先生から「出歩く生徒にはできるだけ声かけして、彼らができる軽作業を一緒にやって、徐々に教室に戻れるよう協力してほしい」と言われ、私はいっそう生徒たちと仲良くなることを心がけました。木工の好きな生徒とは一緒に本立てや荷台をつくり、土いじりが好きな女生徒とは花植えや除草作業をして、彼らの話をじっくり聞きました。

土に原因が!? ワラ、モミガラで土壌改良

 ある日、ふと足元の土に目がいきました。有機質、ミネラル不足でバサバサになった学校園や花壇の土。子どもたちの落ち着きのない言動と関連があるのでは? 人がイライラしたり、キレたりする原因の一つにあるという活性酵素。マリーゴールドにはこれを抑える成分が含まれていると聞きます。チェルノブイリ原発事故発生後、汚染された土壌をヒマワリの放射性物資を取り込む能力を利用して浄化した話は有名です。人も植物と土によって癒されるはずだ。ひらめいた私はさっそく、土の改善に取りかかりました。

 「園芸費用は一切出せない」。担当者から一喝されたため、目をつけたのはタダで手に入るワラとモミガラです。市の広報誌に「佐世保市職員で土づくりの研究をしている者です。ワラ、モミガラを分けて下さる農家の方、こちらから取りにうかがいますのでよろしくお願いします」と掲載したところ、何人もの農家の方々より連絡をいただき、荷台いっぱいに軽トラ数台分のワラ、モミガラをいただきました。

中学校に勤めて2年目の冬、市内の農家を軽トラでまわり、いただいたモミガラ(左)、ワラ(右)を学校の土に投入開始。どっさり入れ、半年ほどでキンセンカの大輪を咲かせられるほど土の状態が改善

色とりどりの草花で校内をいっぱいに 生徒が落ち着いた

生ゴミ堆肥をつくるさいにも、空気の流れをよくするため事前にモミガラ、ワラを大量にすき込む

 土壌改良の第一段階として、まず大量のモミガラを花壇や、併設幼稚園の畑にすき込みました。不足する土を客土のかわりに有機質で補うことと、ガチガチに固まった土をやわらかくして、空気層をつくることが目的です。この空気層が土中の有用菌のすみかとなり、植物が根を張っていく手助けになるのではないかと考えたのでした。投入する量は、五m²当たり軽トラの荷台一杯分が目安です。投入したら耕耘機ですき込みます。腕を入れたときに手首まですっぽり入るくらいが目標ですが、私は少なくとも5往復はします。

 第二段階は苗の植えつけ後、ワラをかぶせ、米ヌカをまきます。ワラは苗が活着したら、ウネとウネの間に、地面が見えなくなるくらい厚くかぶせます。これは雑草の抑制と水分蒸発を防ぐためです。ワラは自然に腐敗し、土中へと吸収されます。それから米ヌカをワラが隠れるくらい、高さ1cmほどまきます。雑草抑制と、のちに吸収されたときの肥料になります。このあと生ゴミを投入してすき込むのですが、この生ゴミの堆肥化作業はある程度地力がないとうまくいきません。そこでこのモミガラ、ワラによる土づくりが欠かせないのです。

 予算がないため花苗はすべて種から育て、ありとあらゆるところに色とりどりの草花を植えつけました。環境が美しくなった効果でしょうか。器物の破損が激減し、出歩く生徒も減り、静かに授業が進むようになりました。園芸部の生徒と顧問の先生も活動に参加し、平成13、14年度と連続で「美しいふるさとづくり花壇コンクール」に入賞、15年度には「全国花いっぱいコンクール」の地方審査で学校の部の最優秀賞をいただきました。この年は重点目標に「花植え活動」が掲げられ、生徒総出で花植え作業が行なわれた年です。園芸が生徒の手で行なわれるようになり、私としてはこれほど嬉しいことはありませんでした。

モミガラ、ヌカによる土づくりを開始して半年後の植え込み。真冬にもかかわらずパンジーが開花しはじめた。
中学校勤務3年目の夏、プランターには大輪のマリーゴールドとサルビア、芝生には千日紅を植えた。連作障害を防ぐため、花の種類によって植える場所を毎回変えるようにしている

全国の仲間の方々へ

 私は学校現場に傍観者はいらないと思います。人員削減や合理化政策の波のなかにある現在だからこそ、自分の仕事を単純作業労働者などと卑下したり、限定すべきではないのではないでしょうか。決して単純な仕事ではありません。子どもの相談相手をはじめ、園芸、木工、竹細工、溶接、できることはなんでもやってみる。仕事を通じて学校になくてはならない、オリジナルの存在感が出せるはずです。外注すればかなりの予算がかかることでも、職員なら安価でできることは多くあります。頼まれたことは、引き受けてみる。やり続ければ必ず重宝がられ、そして認められるときが訪れます。地方公務員としての誇りを新たにしようじゃないですか!

※次号『食農教育2009年1月号』より、スーパー用務員・一之瀬豊さんの連載がはじまります。ご期待ください。(編集部)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2009年11月号(No71)

巻頭特集:ワラを生かせ! イネに捨てるところなし 縄ないの技/ワラで授業/ワラを暮らしの隅々に/今年の秋も焼きイモ!/スゴイぞ!調理員・用務員さん 他。 [本を詳しく見る]

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