「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年9月号
 

食農教育 No.70 2009年9月号より

江口先生をはじめ、理科の専科の先生や担任の先生、地域の人の協力で整備された三谷小学校の学級園“すくすく農園”

インゲンマメ、ジャガイモ、カボチャ、トウモロコシ……

理科の教材を給食食材に!

東京・杉並区立三谷小学校

編集部

地域のサポートで空き学級園の活用が一気に進んだ

 二学期の学級園は、なんとなくさびしいイメージがある。それは、教科との関連で各学年いろいろな植物を育てる一学期に比べて、栽培する植物の数がぐっと減るから。何も植えられず、がらんと空いた学級園は、当然管理もさぼりがちに。気づけば手入れするのが億劫なほど雑草だらけということもめずらしくない。

 国産の食材で給食をつくるという「国産給食」に挑戦中の杉並区立三谷小学校、栄養教諭の江口敏幸先生が目をつけたのも、そんな空き学級園だった。昨年の冬から給食の食材自給を目指して栽培活動にも取り組んでいる。今でこそ理科を中心とした教科と絡めて取り組み、年間通してバラエティに富んだ学級園となっているが、ほんの少し前までは雑草が生い茂り、荒れた状態だった。昨年の十一月、学校支援・地域共生本部が立ち上げられるまでは。

 学校支援・地域共生本部とは、パトロールや施設の整備などの環境面、授業や部活動などの学習面で地域住民が学校を支援するための組織。地域住民による学校支援組織としては、以前から学校運営協議会があったが、こちらは学校運営に携わる理事会となり、地域共生本部が実務を担当する実働部隊に位置づけられた。今回学級園の整備が実現したのは、なんといってもこの地域共生本部の「地域の底力部門」に属する大西路男さんの協力が得られたおかげだ。

 地域共生本部の設立前から、「グリーンキーパー」として学級園の隣にある薬草園の管理を担当していた大西さん。薬草園の草取りで、草だらけの学級園を目にするたび「何とかしたい」と思っていた。ただ学級園は先生の管轄。先生に園の手入れを提案してもいいものかどうか悩んでいたところ、学校支援・地域共生本部が立ち上げられ、環境整備のひとつとして学級園の整備に積極的に関われる体制が整ったのである。

 また、ちょうどそのころ、近くにある農芸高校の畑で育てたダイコンを使っての恒例のタクアンづくりが、窓口となっていた農業科の先生の異動により続けられなくなってしまうかもしれないという事態が発生。「それならば」と空いていた学級園でダイコンをつくることを考えた江口先生。だが、荒れた学級園の整備はとても一人では手が回らない。そこで大西さんに協力を呼びかけたというわけだ。

理科の教材インゲンマメを給食に

 「都内の学校にしては、めずらしいでしょう」。江口先生の言葉どおり、案内された学級園にはいろいろな野菜がぎっしり植えられ、空きスペースも見当たらないほど。「例年なら空き学級園はそのまま放っておくんですが、今年は積極的に活用するようにしたんですよ」。例えば一年生の学級園。昨年までは二学期のカブ栽培が始まるまでは使われないまま放置されていたところを、今年は四年生がカボチャの栽培に使った。バケツとミニ田んぼでイネを育てる五年生の学級園もとくに使われる予定はなかったため、同じく四年生のトウモロコシ畑に。

 もちろん空き学級園だからといって、好きに使えるわけではない。「学級園の基本用途は理科の学習なので、年度のはじめに理科の専科の先生に『空いているところを使いたい』と伝えました。それから何月に何を植えるか、学習内容と絡ませて相談して決めました」と江口先生。そのうえで、今年はとくに、「理科学習の教材とした植物を収穫まで育て、できるだけ給食に使うこと」を意識している。

 これについては、今年から理科の専科となった実森浩明先生も乗り気だ。五年生は、インゲンマメの発芽実験をするのだが、これまでは発芽の確認をしたあとのインゲンマメは放ったらかしにしていた。だが、実験に使う大量のインゲンマメをそのまま放棄するのはもったいないと、今年は江口先生に頼んで空き花壇に植えてもらった。また教室でもポットに植えて生育を見守っている。実森先生によれば、授業にとってもこれはプラスになるという。「食を目標にしたら、『この野菜がちゃんと育ったら給食に出るよ!』という実験とは違ったアプローチができます。単に芽が出た、出ないで終わらせず、次につなげることができます」。収穫したインゲンマメは給食に出す予定だが、インゲンマメは購入すると一kg一八〇〇円ほどするので、自前で調達できれば江口先生にとっても大助かりだ。

 六年生の学級園に植えられたジャガイモも同様だ。理科のデンプンの生成を確かめるのに必要なのは葉っぱだけ。そこでイモのほうは家庭科の調理実習と、余りが出たら給食のカレーに使おうと考えている。さらに給食に使うことを目標に二学期の生活科では、ソラマメ、グリーンピースを栽培する予定だ。一年生の生活科では「野菜と仲良くなろう」という単元でソラマメ、グリーンピースの皮むき体験をする。この教材に使ったあとで給食に出すつもりでいる。

“すくすく農園”の年間栽培スケジュール

職員室の外に作業の見通しを立てられる人をつくる

栽培活動に積極的な4年生担任の佐藤周平先生。「佐藤先生のおかげで、マルチを張る作業もラクでした」と江口先生

 今年、とくに栽培活動に力を入れている学年は四年生で、先ほどのカボチャ、トウモロコシ以外に、もともと四年生に割り当てられている学級園でヘチマ、ゴーヤ、キュウリも育てている。すべて育ち方と気温の関係をみるという理科の学習に絡めており、「これを育てたい!」という担任の佐藤周平先生の希望をうけて、ここまで充実したのだとか。

 佐藤先生は同じく四年生を受け持っていた昨年、ブロッコリーが実際にできる様子をみてみたいという子どもたちの要望で、ブロッコリー栽培に挑戦して、自身が野菜づくりの楽しさにはまった。何より印象に残ったのは子どもたちの変化だ。「最初は嫌がっていた子どもも、途中から興味をもつようになって、『こんなに興味をもつんだなあ』って驚きました」。作業をするのはおもに朝の登校時間、二〇分休みなどの業間休み、そして放課後だが、大西さんや江口先生が支えてくれるおかげで、負担に感じることはないという。

 勤務の合間にできる作業は限られている。教員の仕事との両立に、大西さんや江口先生の支えを強調するのは理科専科の実森先生も同じだ。「栽培の好きな先生が異動などでいなくなると、栽培活動を続けられなくなってしまうという話をよく聞きますが、地域共生本部のような地域の受け皿があれば、そうしたことは問題にならないと思います。職員室の外に、作業の見通しを立てられる人がいることは大きいですね」。

 二学期に入ると、低学年の生活科で冬野菜の作付けが始まる。夏野菜は、ものによって収穫適期にばらつきがあり、天候によっても収穫時期が左右されるため、収穫物を使った給食を全校一斉に出すことは難しいが、冬野菜なら根菜類も、葉物野菜もある程度畑に置いておけるので献立に組み込みやすい。昨年はダイコン、カブ、ニンジン、小松菜、春菊、正月菜を育て、それらを積極的に給食に使った。今年は切り干し大根などの加工品づくりにも取り組みたいと江口先生の意欲はどんどんふくらんでいく。

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