「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年9月号
 

食農教育 No.70 2009年9月号より


フライパンに入れたダイズを菜箸で転がし、中火で、ダイズがこげ茶色になるまで、色や香りを確かめながら、長めに炒り、焦げる直前で火を止めた

炒る・挽く 単純だけど奥が深い!

何時間でも夢中になれる、わたしのきな粉づくり

長野・山ノ内町立東小学校 畠山祐子

教室に道具コーナーを設置

 きな粉づくりは、炒る、挽く、摺る、ふるう、といった単純かつシンプルな活動ですが、炒るときの火加減や時間、挽く・摺るときの道具選び、道具の使い方、力の加減など、自分で試行錯誤しながら工夫を重ねる余地がたくさんあります。

 一昨年度、二年生の子どもたちとダイズを育て、きな粉をつくりました。白玉団子に市販のきな粉をのせて「どう?」と、食べさせてみたのがきっかけでした。

 まず、つくり方を調べます。おうちの人に聞く、図書館の本で調べる、インターネットで調べるなど、各自調べてきたものを紹介し合います。手順や必要な道具がわかったので、家庭や学校の備品から道具を集め、教室内に長机四台を設置。三つのコーナーをつくりました。

・コンロコーナー:カセットコンロ六台、フライパン六個、菜箸六〜一二膳

・ミキサーコーナー:ミキサー三台

・道具コーナー:コーヒーミル二台、すり鉢・すりこぎ(大中小)一一個、ふるい六個、ボール一二個、ザル一二個、ハケ二本、新品の歯ブラシ六本、竹串一束

*残念ながら、石臼は入手できず。道具コーナーのものは、自由に選んで使えるようにしておきました。

二〜三人のペアで目標を定めて挑戦

 子どもたちは、市販のきな粉のようなサラサラの手ざわりや味を求めて、きな粉づくりを開始しました。挽く・摺るときの使いたい道具が同じ者同士で二〜三人の班を編成。生活科の時間に五回、その都度、「色が濃くて、手触りがいいきな粉をつくる」といった具体的な目標を定めて取り組んでいきました。

 上の写真は、こうじくん、あかりさんペアが二回目に挑戦したときのものです。

「すり鉢」から教えられる体験

 きな粉づくりは、炒り加減や摺り加減など、ちょっとしたちがいで味や手触りが大きく変わります。「今回は生っぽかったからか、粉になっていきにくかった」「色が薄かったから、遠火で色がつくまでしっかり炒ろう」など、自分の五感をとおして状況を判断し、次の方策を考えることができるようです。

 もちろん、豆腐づくりでもニガリの分量や、ヘラのゆらし加減などが、できあがりに大きく影響しますが、〈どこがどう、うまくなかったのか〉がわかりづらく、その点、きな粉づくりは「わかりやすい」「何回もやりなおしがしやすい」活動だと感じます。

 摺る活動では、すり鉢の溝に適切な角度ですりこぎをあてていくとうまく摺れることを身体でおぼえ、自分のリズムを身につけていきます。すりこぎを回しているうちに、球形→粒状→粉状とダイズの姿が変化するようすがおもしろいようで、目・鼻・口・舌・手・足・体を総動員して作業していました。「つぶれる」「摺る」とはこういうことなのか、と「すり鉢」から教えられることも……。自分がダイズや道具に働きかけたことが、結果に表われやすく、その分、気づきや達成感も得られやすい活動のようです。

夢中になって専心する経験

 きな粉づくり終了後も、「もっとやりたい!」と子どもたち。かつて総合学習で有名な伊那小の授業を見学にいったとき、ブタやヤギといった対象に向き合い、その飼育活動にのめり込んでいく子どもたちに驚かされた経験があります。「専心する」という言葉で、その姿は表現されていました。

 まさか自分の担任する子どもたちに、そんな姿は……、と思っていましたが、きな粉づくりが、その「まさか」をもたらしたようです。一時間、二時間と、夢中になって専心している姿が、そこにはありました。

 炒る、挽く、摺る、ふるう──。単純かつシンプルな作業ですが、本当に奥が深く、価値の高い活動(行為)だと感じます。


炒る


色は濃いが、焦げてはおらず、香ばしくカリカリ状態の炒りダイズに


ミキサーで粗挽き


菜箸を使って、粉をキレイにとりだす

挽く・摺る

こうじくんは、「すり鉢とすりこぎで、すごく細かくしたい。手が痛くなるまで摺る」と計画を立て、息切れがするまですりこぎを回し続けていた。その間、あかりさんはすり鉢を押さえ、こうじくんがすり終わって「ハー」と一息入れたところで、無言のうちに交替し、それを繰り返し行なった

ふるう


ふるいでふるって


味を確かめる

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