食農教育 No.67 2009年3月号より
かんたん・あんしん 一学期の栽培モデル
東京・鷗友学園女子中学高等学校
編集部
すぐ結果のでる作物で短期決戦
東京都世田谷区の閑静な住宅街にある鷗友学園女子中学高等学校(清水哲雄校長、以下鷗友)。私立の進学校として有名だが、じつはこの学校、創立以来七十余年にわたって校内の農園を維持しつづけ、「園芸科」を必修の教科としてきている。
「園芸科」は、中学一年生と高校一年生の必修教科(高校二・三年では選択科目)で、中一では二時間続き、高一は一時間授業で週一回ずつ行なわれている。忙しい女子高生たちに、週一回というかぎられた時間のなかで、栽培学習をさせるには、おそらく相当に練られたプログラムが必要だろう。
鷗友で二八年にわたって「園芸科」の専任教員をしている木村亨先生にそのカンドコロを伺ってみると、明解な答えが返ってきた。園芸科での実習は短期決戦。栽培期間が長い植物は子どもたちがすぐ飽きる。学校には長期休業もある。だから、学期内に完結する栽培期間の短い作物、すぐ結果のでる作物をうまく組み合わせることがポイントだという。
高校1年生のダイコン栽培。立派なダイコンに生徒もビックリ! 農園は約500平方メートル 園芸科のテキスト表紙。5月の4週目に押し花をして、オリジナルのデザインに仕上げる虫の少ない春先にラディッシュ、梅雨時期は室内でさし芽
たとえば、中学一年生では、入学早々の四月中旬にラディッシュ(二十日ダイコン)のタネをまく。遅くとも三〇日で収穫でき、タネまきから間引き、追肥、収穫まで、栽培のひととおりの過程を短期間に学ぶ。
園芸科のテキストに描いた生徒のスケッチ ツルナシインゲン ラディッシュつぎに、連休前にツルナシインゲンのタネをまく。これもわずか五〇日で収穫(六月下旬〜七月上旬)が可能。ツルアリインゲンのようにツルがのびて下から順々に実がなっていくのではなく、高さは約六〇cmどまりで、実はいっぺんになる。つまり、ツルがないので支柱を立てる必要がなく、収穫も夏休み前に一回の授業ですませてしまうことができる。
さらに、六月中旬には、実習室でブライダルベールのさし芽を行なう。梅雨時はさし芽(栄養繁殖)の適期である。ツユクサの仲間で発根が容易なブライダルベールは、はじめての生徒でも失敗する心配はない。さし芽が終わると、たこ糸を編んでプラントハンガーをつくり、そこに鉢を入れて吊るしておく。夏休み前に、生徒たちはハンガーにさし芽したブライダルベールの鉢をぶらさげて自宅にもち帰り、その後の管理を続ける。
これが夏休みまでの栽培プラン。
夏休み明けも、ブロッコリーをそだてながらベンリナやホウレンソウといった葉もの野菜を小刻みに栽培。クリスマスリースづくりやその飾りつけなどもからませながら、短期決戦の作物や実習作業をうまく組み合わせる。年が明けたら、校内の樹木調べや来年度のための畑の天地返しをして、一年間の授業を締めくくるのだ。
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どうだろう? このプログラム、はじめて学級園に取り組む先生にも、あるいは二〇一二年から全国の中学校で必修科目となる「生物育成」の授業としても、まさにうってつけのモデルではないだろうか? そこで今回は、春から夏にかけて行なうラディッシュ、ツルナシインゲン、ブライダルベールの栽培の方法について、詳しくみていくことにしよう。
鷗友の農園におじゃましました
園芸科の詳しいプログラムをお聞きする前に、農園を少し案内してもらった
木村亨先生と中学1年の生徒たち。校舎の裏に500平方メートルの農園のほか、ハウス(写真奥)と実習棟がある 12月初旬、生徒がそだてたブロッコリー
友達のブロッコリーと間違えないように、1人1本、支柱に名札をつるして栽培 フェロモントラップ。農園に2ヵ所設置。人工的にメスのヨトウガのにおいを発散させてオスをおびきよせ、捕殺する方法。9月から11月上旬まで。
なかにセットしてあるゴム栓からフェロモンがでる。1個700〜800円でおよそ1ヵ月もつ。7〜8年前に設置した当初は、4ヵ所設置して1シーズン8000頭とれたことも。現在はヨトウガの数もずいぶん減ってきたので2ヵ所。今シーズンは400〜500頭とれた
ラディッシュ
入学早々の4月中旬にタネまき。まだ寒いので収穫まで1ヵ月程度かかるが、その分、虫も少なく無農薬でそだてやすい。栽培の過程をひととおり体験。とくに、間引きの大切さを伝えたい
授業(1) ラディッシュのタネまき(4月第2週)
▼畑を準備する
前年に生徒が天地返しを行ない、春3月まで放置。4月に教師が元肥として堆肥1.3t(全500平方メートル、1平方メートルにつき約2.6kg)と、石灰質肥料を施し、ウネ立てしておく(作業方法は130頁参照)
ウネ 3m×60cm
通路 40cm
生徒が作業しやすいよう、なるべく通路を広くとる
1人分の面積 50cm×30cm×2▼タネの配布
タネは班ごとにフィルムケース1杯(30ミリリットル)を手渡す。ワラ半紙も1人1枚渡し、タネ入れ用の袋をつくらせる。1人200粒くらいいきわたるだろうか。学校でまくタネはそのうちの一部。残りは家庭用にもって帰らせる。作業のときはポケットにタネ袋を入れておく
▼タネまき
1人分の畑をパッチワーク状に割り当ててタネまき(右頁) すじまきで、まき溝は5mmほどの深さ。タネが重ならないように、だいたい1cm間隔でまく
量でいくか、質でいくか、自分で決めさせる。大きいものをとりたい人は、5〜6列にまく。小さくてもたくさんとりたい人は7〜8列。最低40個収穫するのが目標▼水やり
各班、ジョウロに2杯ずつ水やり。土がぬれているときは1杯▼ネットをかける
ヤマバト(キジバト)にタネを食べられたり、カワラヒワに双葉をつつかれたり、ネコにウネでいたずらされないように、班ごとに防虫ネットをかける。このあと授業(5)(ツルナシインゲンの子葉が落ちるころ)まで、作業時以外はネットをかけたままにするつづき(ラディッシュの間引き、収穫、ツルナシインゲンの栽培、ブライダルベールのさし芽、プラントハンガーづくり)は、本誌(『食農教育』2009年3月特大号)を参照。
『学校園の栽培便利帳』日本農業教育学会 魅力的な生活・技術科授業を創りだす手引集。39品目の栽培技術と各品目に「やってみよう」が出色。 [本を詳しく見る]
『ビオトープ教育入門』山田辰美 校庭に自然を呼び込む学校ビオトープのつくり方から活用法まで、先駆的20校の実践例を紹介。 [本を詳しく見る]
『フェロモン利用の害虫防除』小川欽也 / ピーター・ウィツガル 性フェロモンの基礎から効果的な使い方による減農薬防除まで、開発当事者が具体例に基いて解説。 [本を詳しく見る]
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