「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年9月号
 
自分が出すおかわり券の枚数を提示して入札する

食農教育 No.57 2007年9月号より

おかわり券で楽しく完食

福岡・福岡市立下山門小学校(6年担任) 稲益義宏

おかわり券の手順―ゲーム感覚だから子どもたちもノリノリ

 給食の残食対策に、おかわり券を取り入れたのは、今から二年前。三年生を担任しているときだった。当時、受け持っていたクラスは、給食の残食が多かった。小食の子ども、きらいな食べ物を残す子どもが多かったのが原因だった。

 その年の夏、知り合いの高校生から小学校時代の「おかわり券」の話を聞いた。「給食を完食したらおかわり券を一枚もらえて、たまった券の枚数で、おかわりできる人を決めていた」。クラスの給食の残食を減らせない私に、ひとつ解決策が見つかった。

 二学期が始まると、さっそくクラスの子どもたちに提案してみたが、子どもたちはあっさりと賛成してくれた。この学年の子どもたちは、ゲーム感覚で取り組むことが大好きなのだ。

 おかわり券を使っておかわりができるものは、「からあげ」や「ゼリー」など、ひとつひとつとり分けられるおかずに限った。つぎ分ける食べ物は自由におかわりさせたが、人気がある麺類やカレーなどでは、おかわりできる人数を決めて、おかわり券で分けこともあった。

 おかわり券の効果はすぐに現われた。それまできらいな物は平気で残していた子どもも、少しでも食べようとチャレンジするようになった。またそれまでパンやご飯の残食が多かったが、目に見えて減っていった。

 こうして子どもたちは、おかわり券の取組みを始めて以来ほとんど給食を残さなくなり、クラス全体で見ても残食がなくなっていった。

 おかわり券を使ったおかわりの手順は次のとおりだ。

1.その日のおかわりができるおかずを確認する。
2.そのおかずが残っておかわりできるようになったら、全員に知らせる。
3.おかわりがほしい子どもに手をあげてもらい、ほしい人が何人いるか確認する。このとき、残ったおかずの数よりも希望者が少なければおかわり券は不要、残ったおかずの数と希望者が同数ならばおかわり券一枚、残ったおかずの数よりも希望者が多ければ入札となる。
4.希望者は、支払う予定のおかわり券の枚数を自分のおかわり券に記入し、集まっていっせいに見せ合う。
5.おかわり券の支払い枚数を多く提示した順に落札する。落札した子どもは、自分が提示した枚数のおかわり券を支払い、おかわりをする。

 こう書くと、時間も手間もかかりそうだが、時間にして約三分。1と2は私がやるが、3、4、5は子どもたちが自分でやるので、おかわり券によって増える教師の負担はほとんどない。

 はじめは落札枚数をせり上げていくオークション方式にしていたが、遊び感覚が行き過ぎて、落札枚数をせり上げて途中で抜ける子どもも出たので、入札方式に変えたのである。これがよかった。どうしてもおかわりがほしい子どもは、自分が持っているおかわり券をたくさん提示して、落札を確実にしようとする。少ない枚数で幸運を待つ子どももいる。そんな子が最下位で落札すると、とても喜ぶ。おしくも落札できなかった次点の子と一枚差だったという状況なら、なおさらだ。落札できなかった子どもも、公平な方法だと納得していた。おかわり券によって、まるで経済活動の縮図のような光景が教室に繰り広げられた。

 おかわり券をもらえるチャンスを全員が平等に持てるように、小食の子どもやアレルギーの子どもにもできるかぎり対応した。小食の子どもにとっては、給食の量が多いときもある。食べられない量を無理に食べさせることはないので、自分が食べられる量まで減らしていいことにした。しかし「食べられることは食べられるが、きらいだから」という理由で極端に減らしている場合は、もう少し食べるように声をかけた。

 今年は六年生を担任している。新学期が始まった当初は、パンやご飯を中心に残食が目立ったが、おかわり券を導入してからは残食が目に見えて減り、ほぼ毎日、クラス全体の残食量をゼロにすることができている。ただ六年生の場合、おかわりはしないという子どももいて、完食をしてもおかわり券をもらうかどうかは本人の意思に任せている。

おかわり券はクラスづくりだった―教室に流れるほのぼのした時間

 おかわり券の使い方は、大きく三つに分けられる。

1.より多くのチャンスに、少ない枚数でも果敢にチャレンジしている子ども。いわば「おかわりの猛者」。
2.ひたすらため込み、自分がほしいおかずのときに一気に使う子ども。いわば「大金持ち」。
3.おかわりはしないが、たまったおかわり券を完食した回数の記録として活用している子ども。

 ふだんからおかわり券をひたすら使うおかわりの猛者たちも、からあげやケーキなどの超人気メニューはほしい。そこで入札にチャレンジして、「もしかしたら」を楽しんでいる。落札できなくても、「それまで券を使っていろいろもらった」とあきらめがつく。ふだんはおかわりをしない大金持ちの子どもが出てくると、おかわりの猛者たちは「絶対負けやん」と笑いながらつぶやき、落札できなくてもあきらめている。トラブルは起きない。ずる(不正)のしようがない。給食の間、ほのぼのとした時間が教室に流れる。

 「おかわり券は、ずるができない。以前は、じゃんけんでもめて大騒ぎになったこともあった。おかわり券を使うともめないし、静かに食べることができる。おかわり券はすごくいいと思います」(六年児童の感想)。おかわりをしない子どもたちも、おかわりでのトラブルがなくなり、給食時間が落ち着いたと歓迎している。

 おかわり券を取り入れることで、おかわりがしやすくなったと感じている子どももいる。それまでは、おかわりをしたくても、おかわりの猛者たちの勢いに押されてあきらめたときもあったのだろう。堂々と自分の権利を主張できることが、これまで感じることがなかった安心感を生んだのかもしれない。おかわり券を取り入れた結果、きらいな食べ物にチャレンジするようになって、食べられるようになった子どももいる。どうしてもおかわりをしたいという気持ちが、日々の給食にまた違った気持ちで向かわせたのだろう。

食べ終わった子が、完食した子どもたちにおかわり券を配っている

 おかわり券は、私が管理している。この二年間、子どもたちがおかわり券を不正に手に入れたようすはないので、今年などは、教室の私の机の上のボックスに券を入れておき、完食した子どもが自由に取れるようにしている。クラスづくりの上におかわり券は成り立っているが、おかわり券がクラスづくりに役立っているということもできる。

 おかわり券を使って食べ物で遊んでいるという批判もあるだろう。確かにおかわり券は、現状をとりあえずよくするためのHowToにすぎない。このようなことをしなくても完食する習慣を身につけることが大切だ。私の教室でも、まずは子どもたちに声かけをして完食を促すことが残食を減らす基本。残ったおかずやご飯は最後までつぎ分けている。

 三年生で取り組んだ「食べる」を題材とした総合学習のなかで、給食の食べ残しを減らす方法を提案した子どもたちがいた。その子どもたちは給食調理員さんにインタビューして、「残食が多いときには悲しい気持ちになる」ことを聞き、「つくった人の気持ちを考えて給食を食べましょう」と提案した。

 誰かが食を支え、自分の体を支えてくれているという気持ちを持てないかぎり、完食する習慣は本当には身につかないのではないだろうか。おかわり券はあくまできっかけづくり。食べることを通して「誰かに支えられている」ことに気づき、食べ残さない工夫を身につける取組みが一方で求められる。

自分がためたおかわり券を持って集合
農文協食農教育2007年9月号

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