「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年3月号
 

食農教育 No.53 2007年3月号より

【五年】「工夫して発信しよう」

伝えたいこと、伝えたい相手が学習意欲を高める

「御北ふるさとCM」をつくる

岡山・吉備中央町立御北小学校 日野秀

 御北小学校は岡山県中山間部の小規模校だ。子どもたちは、素直で明るく、与えられた課題や役割に真面目に取り組むよさをもっている。

 反面、小さいころから少人数の家庭的な雰囲気のなかで育ち、穏やかな学校生活を送っていることもあるため、全部を言わなくてもわかってもらえる、自分のことを理解してもらえるといった依存感があり、そのことにかかわって表現力が十分とはいえないという課題もあげられている。

 そこで、総合的な学習の時間での地域素材の学習と関連をはかりながら、国語科の「話す・聞く」領域の指導を中心に「かかわり合う 伝え合い」活動をすすめたいと考えた。

御北のいいところって何?

 昨年度まで二年続きの一年生担任だったが、今年度は高学年に復活。総合の授業ができるので、ワクワクしていた。例のごとく、「御北のいいところって何?」と「総合で何をしたい?」からスタートして、授業の組み立てである。

 「御北のいいところ」として、五年生一一人の子どもたちは、(1)自然が豊か (2)お祭り をあげた。しかし、「自然ってたとえばどんなもの?」「お祭りってどうしてするの?」と尋ねるとうまく説明できない。

 御北小学校の学区には「クサギナのかけ飯」という郷土料理がある。しかし、学区外の私が、御北小学校に赴任する前から知っている料理にもかかわらず、子どもたちは「あんまりつくらん」「給食週間に食べたことがある」「クサギナって何?」という程度であった。

 そこで、自然のものとして、カタクリ、絶滅危惧U種のブッポウソウ、郷土料理に用いるクサギナについて学習することになった。また、合間には地域に伝わっているものについて、入れていくことになった。

カタクリの自生地を訪ねて

 御北小学校の学区には、カタクリの自生地が何箇所もある。それは、子どもたちにとっては、日常のものであり、ごく当たり前の「春」の風景である。しかし、他の地域の人から見れば、とても珍しい、貴重な自然の賜なのだ。自然の動植物は、人間を待ってはくれない。学校から徒歩で一〇分足らずの日当たりのよい斜面にあるカタクリだが、四月中旬には見られなくなるという。実は、私もその場所のカタクリは初めてで、ちゃんと見つけられなかった。

 地元の人である校務員さんに時間を割いてもらい、子どもたちといっしょに再度探索した。本当にあったときには、大喜び! と言いたいところだが、咲いているカタクリやその周辺を固く踏んでしまわないように、そっとそっと歩いた。「タネからはなかなか大きくならず、花が咲くまで一〇年くらいかかる」と聞いて、子どもたちは神妙だ。「そんなに御北はすごかったのか」という感動もあったようだ。

「ブッポウソウの巣箱のここからビデオカメラで映しています。孵ったひなが大きくなるのが楽しみなんです」
ブッポウソウの保護活動をしている鈴木さんにお話を聞きました
サイロの前でFくんのおじいさんにインタビュー
「くすりのようなちょっと苦そうなにおいがするぞ」

ブッポウソウの観察

 ブッポウソウは日本で夏を過ごす渡り鳥で、年々巣作りやえさ採りが難しくなった関係で、どんどん数が減っている。一〇年ほど前から、旧加茂川町の人たちが、日本野鳥の会の人たちや電信柱を管理するNTTの人たちと協力して、保護運動を行なってきたそうだ。
 おかげで、日本のブッポウソウの約半数ほどが吉備中央町に飛来しているという。

 ブッポウソウの巣箱にビデオカメラを設置して観察を何年も続けている地域の方に子どもたちといっしょにお話を聞きに行った。国語科の「調べたことを整理して書こう インタビュー名人になろう」での学習と関連が深くなった。国語科の学習を実際に生かす場として、総合は有効であったが、「もっとうまく尋ねたい」「もっと詳しく知りたい」という気持ちが高まり、国語科への取り組みが意欲的になるという効果もあった。

酪農家のおじいさんにインタビュー

 社会科での酪農の学習で、F君の家の牛舎を訪ね、おじいさんにお話をうかがうことになった。

 「どんなえさを食べるのですか?」「世話をするときにうれしいことはなんですか?」

 ブッポウソウのときよりも、すらすらと質問し、勤労や生産の喜びにも目が向いている。しかも、人前で話すのがちょっと苦手な子までが、自分の言葉でF君のおじいさんに尋ねている。おじいさんも笑顔で答えてくださった。

 おみやげにいただいたたくさんの生乳。みんなで知恵をしぼり、杏仁豆腐、ミルクセーキ、バターなどに調理して、「自分たちの思い出」もちょっとプラスされた。

クサギナの収穫

 五年前に御北小学校で五年生を担任したとき、山口県の小学校と年間を通じて頻繁に交流をした。そのさい、「おじいさんはクサギナを食べたことがあるけど、今は食べない」という状況で、「どうしてその地域では食べなくなったのか」という学習に発展した。結局、御北地区には「ふるさとの味を守り伝える会」が結成され、郷土料理を守ろうと努力している地域の人の存在があることを知ったのだった。
 それも含めて、教師として私が子どもたちに伝えなければならないと考える、地域の人の願いがそこにある。

 「クサギナはどこにあるかな」と尋ねると、「知らない」「教えてもらったことはあるけど、わからない」「おばあちゃんが葉を採ってきたからわかる」などいろいろだ。実は、クサギナは御北小学校の校門のすぐそばにもある。毎日横を通っているけれど、知らないのだった。「これがクサギナじゃったんか!」

 クサギナを収穫し、茹でて晒して乾燥させて保存しようとすると、クラスの子どもたちといっしょに作業をしても、二時間以上かかる。だんだん料理として使われなくなってきている理由も、おのずからわかってくる。

山形の小学校とベニバナで交流

 子どもたちは、ほかに総合でしたいことの一つとして「よその学校との交流」をあげてくれた。私が他校との交流を楽しんでいることを掲示物やVTR作成などで子どもたちはよく知っていたからである。私はいくつかのメーリングリストに所属しており、そのメンバーの先生を通じて交流を始めることが多い。

 今年は、山形市立金井小学校の先生が「ベニバナで交流しませんか」と声をあげてくださり、染め物に興味のあった私は手をあげた。初めてのベニバナ栽培だ。国語で出てきた「お願いの手紙 お礼の手紙 敬語」の学習がさっそく生きる。お礼の手紙を書くのも、地図を見ながら、盛り上がっていく。「どんな人かな?」「学校の周りには何があるのかな」……。

 ベニバナは花屋さんで時折見かけるものの、実際に栽培したことはなかった。しかし、水やりをするうちにどんどん大きくなり、七月にはきれいな黄色になっていた。花の黄色の部分だけ、集めてザルに広げ、乾燥させた。何十本も咲いていたのに、収穫できたのはほんの少しだけだった。


「2階のベランダで晒したクサギナを干したよ」

「人ともののつき合い」で校内の環境を調べ、伝える

 九月には「人とものとのつき合い方」のなかで環境に関する教材がある。自分の生活を振り返って「伝え合って考えよう」というものだ。

 すでに、子どもたちの頭には、伝える相手として山形市立金井小学校の四年生が浮かんでいた。では「人とものとのつき合い方」の何について伝えるか。ものとのつき合いを考えるうえでは、身近なことを知ったうえで、ほかのところと比較していかなくてはいけない。そこで、@水(プールを含む)A電気(体育館の屋根にあるソーラーシステムを含む)B紙の三つにポイントをしぼって、校内のことや家庭でのことについて調べた。

 グループで調べたことを発表する練習をし、ビデオを撮影した。全員で互いに見合ったが、「四年生に本当にわかるのか」という疑問が出てきた。話し言葉としては、ほぼOKだったが、自分たちだけでわかった気になっていないか、チェックしあった。詳しく言うつもりが、かえってわかりにくくなっていたことに気づいた。ビデオという視聴覚機器を有効に生かすために、視覚に訴えるよう、グラフや図をとり入れるグループも出た。最初から「こうして、次はああして」と教師が指示するのは失敗もなく、時間もかからず簡単だ。子どもたち自身が相手を意識して、「本当にあの人たちにとってわかりやすいのか」と立ち止まることに意味がある。ビデオをよりよくしたいという目的のために、話し合うことが実にすんなりと学習に入ってくる。

 
伝え合う力
 
話す力
相手に伝えようとする力
聞く力
相手をわかろうとする力
話し合う力
お互いにわかり合い協力する力


◎自分の考えが、相手に正しく伝わるように、話の組み立てを工夫して話すことができる。
◎目的や場に応じた適切な言葉遣いで話すことができる。
・わたしが一番言いたいのは…です。
 それは…だからです。
 (だから…だと思います。)
・わたしは、…と思います。
 けれども、…なのです。
・わたしは、…と思います。
 ところが、…なのです。
 (それなのに…なの です。)
・みなさんは…ではありませんか。
・みなさんは…と思いますか。
(問題提起→説明→まとめ)
◎相手の思いや意図を考えながら聞き、自分の考えを広げることができる。
◎相手の話の足りないところを確認しながら聞くことができる。
◎話し手の思いや考えを引き出すために質問することができる。
・○○さんは…と思っています。
 わたしは同様に…だと思います。
◎根拠や立場を明らかにして話し合うことができる。
◎相手の話を受け入れ、認めながら、自分の考えを話すことができる。
・わたしが言いたいのは…です。
 それは…(根拠)だからです。
 だから…だと思います。
 「話す・聞く」の学習は、学習指導要領には、低・中学年30単位時間、高学年25単位時間が設定されている。その少ない時間のなかで、より的確な指導ができるように、本校では、伝え合う力を「話す力」「聞く力」「話し合う力」の3つにしぼり、系統表を作成して、具体的なスキルと意欲・関心・態度の明確化を図った
話し合い振り返りカード
「よりよく伝えたい」という意欲を高めるために、このような評価カードやノートや視聴覚機器などの評価ツールを利用した

話し合いながら「御北ふるさとCM」をつくる

 このように、ふるさとのいろいろなものや人にこだわってきて、国語科の「目的に応じた伝え方を考えよう」の学習に入った。

 「ブッポウソウ新聞」「MOWMOW(モウモウ)新聞」、お礼の手紙、ビデオレターなど多様な表現をしてきた子どもたち。総合の学習のなかでは、自分の記録的なものとして、一学期から、情報の学習も含めて自分のWEBを作成してきていたが、ほかの人を意識したものには取り組んでいなかった。

 子どもたちが選んだのは、金井小学校四年三組の人に御北のよいところを伝える「ふるさとCM」作りだった。

 (1)自然グループ(ブッポウソウ、カタクリなど)
 (2)祭りグループ(加茂大祭、各神社の祭り、笛、太鼓、棒使いなど)
 (3)ものつくりグループ(クサギナ、ベニバナ染め、干し柿など)

 自分たちが一学期からつくってきたページを参考にグループで相談しながらつくった。最初は、自分の思いが先行し、「こうしたらどうか」というアドバイスに耳をかせない人もいた。次に、ひととおりできたページを、全員の前で発表し、質問やいいところを教えてもらう学習をした。ポイントはすべて、「金井小学校の人にわかるか」という一点に尽き、次第に修正していくことができるようになった。
 国語科として、「相手の意見を尊重しながら、いいところを採り入れていくことができる」ようになってきたのだ。

 子どもたちは総合の学習によって地域のよさに気づくとともに、それを伝えたいという相手がいることによって、国語科の「話す・聞く」を中心とした「伝え合う」学習が活性化した。

 今後も相手意識をもって学習を進められるように、意欲を高める工夫を重ねていきたい。


吉備中央町立御北小学校はこんな学校です!

 岡山県のほぼ中央に位置する吉備中央町の小学校。児童数64名。休み時間には、1年生〜6年生までの児童がいっしょにサッカーをしたり遊具で遊んだりする、家庭的な雰囲気のなかで過ごしている。

 学区では,環境省の絶滅危惧II類(絶滅の危険が増大している種)に指定されている夏鳥のブッポウソウの保護活動が盛ん。カタクリやイチリンソウなどの、いまでは珍しくなった植物が見られる。

 お飾りづくりや地区運動会,教科などの学習でのゲストティーチャーなど、地域の方がたの協力をはじめとして、教育への関心は高い。

農文協食農教育2007年3月号

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