「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年1月号
 

食農教育 No.52 2007年1月号より

たき火と穴掘り

先土器文化の石蒸し焼き料理に挑戦!

佐藤知行

 いまや身近でなくなったたき火。私は「火」をテーマに体験活動をつくってみました。危険なものを工夫して使いこなす勇気や細心の注意、助け合うこと、連帯感などを子どもたちに育みたいと思ったからです。

 さっそく、「火」を使った調理法と人類の知恵を体験から学ぶ事例、そして体験活動を組み立てるコツを紹介します。

◆用意するもの(20人分)

・食材
(カボチャ、パイナップル、マクワウリ、ズッキーニ、キウイフルーツ、ジャガイモ、サツマイモ、鶏肉、豚肉など。買い物カゴ3つ分くらい)

・大きな葉っぱ
(ホウの葉、ヤマブドウの葉など:現地では、バナナの葉)

・スコップ

・大きな石(直径10〜15cm。穴に敷き詰められる程度)

*時間10:00〜16:00 於:信州つがいけ食農学習センター

なぜ石蒸し焼き料理なのか?

 授業の導入は、何を、どのように学ぶのか、枠組みをつくる大事な場です。私が大事にしているのは好奇心を呼び起こすために、既成の概念を揺さぶること。授業はこのようにして始まります。

(★は教師、☆は子ども)

★ニュージーランドをはじめ南太平洋の島々には、石蒸し焼き料理が昔から伝わっています。南太平洋の先住民は東南アジアを起源とし、カヌーに乗って移住したといわれています。
 石蒸し焼き料理は、ハンギ(ニュージーランド)やロボ(フィジー)、ウム(サモア)と呼ばれています。日本で秋冬に楽しむ石焼き芋に近いものです。では、どうして人間は、石蒸し焼き料理をするのでしょうか? みんなで推理してみましょう。

☆「コンロがなかったから」
「ガスも電気もなかったから」
「石がいっぱいあったから」
「石の保温力を活かしたから」
「たき火で直接焼くよりも、おいしかったから」

★ほかには? どれも当たっていそうですね。
それでは、まず、石蒸し焼き料理を体験してみましょう。そして、体験しながらみんなが立てた仮説を確かめていきましょう。

 こうして、写真の手順で石蒸し焼き料理を体験してみます。

(1)たき火に石を放り込んだあと、石を包むように薪をくべていく。太い木を使うと火力があってラク。焼き時間は30〜60分
(2)穴を掘る。20人で食べるばあい、深さ30〜40cm、幅50cm×100cmほど。作業時間30分(土屋清美撮影)
(3)食材を葉っぱで包む(土屋清美撮影)
(4)石が焼けたら、鍬やシャベルで穴に焼け石を入れ、次に食材を入れ、さらに葉っぱでしっかりとフタをして、土をかぶせる。待つこと1〜2時間。この間、片付け、シャワー、あそびなど
(5)シャベルや鍬で土をよけて食材を掘り出す。穴の焼け石は高熱なので、触らない。軍手は熱に弱いので、革の手袋がベスト。食材は芯から温まって、ほかほかのおいしさ

 子どもの感想は以下のようなものでした。

☆「穴を掘ったり石を焼いたり、みんなでワイワイガヤガヤと楽しい」

☆「食べ物を穴に入れるときに落とさないように気をつけた。焼け石に触らないようにと緊張した」

☆「穴から掘り出した食べ物に泥がついてたけど、お腹がすいてたので食べちゃった。いつもだったら『汚ねえ』って食べなかったと思う」

☆「焼きパイナップル二つ埋めたはずなのに一つしか掘り出せてないの。人気がすごくって、私食べられなかった。でも、執念でもう一つ掘り出して、弟と山分けしちゃった」……。

食器や鍋の要らない料理

☆お皿はどこにあるんですか?

★はい、今日は食器は自分で自然の素材でつくってください。葉っぱや木の枝を使ってネ。

☆「ラクチンだね、片付けなくていい」「意外と便利。わざわざ持って来なくていいし、買う必要もない」

―― そのとき、ある子が言いました。

☆あっ、謎が解けた! なぜ石蒸し焼きなのか、わかったよ。食器が要らないんだよ。それに鍋も要らないんだよ。

★えっ、どういうこと? もっと聞かせて。

☆あのね、昔の人は、鉄の鍋をつくるのに苦労したと思うんだよ。もっと昔の人は、土器を焼いてつくって、土器で食べ物を煮たと思う。だけど、この石蒸し焼き料理は、鉄の鍋や土器を焼く必要がないんだよ。

★なるほどね。ほかには?

 そうかもしれないと思う子ども、怪訝そうな子ども、さまざまです。ここでは、仮説にとどめておきます。興味をもてば、続きは各自で調べていくことにします。

 ちなみに、ニューギニアでは、ラピタ土器が発見されていますが、ニュージーランドやフィジーでは、土器は見つかっていません。土器に適した粘土がなかったという説もあります。

推理や工夫のできるテーマ設定を

 さて、この事例で注目していただきたい点は、体験から学びを引き出すポイントです。まずは、テーマ設定のさいに、何について学ぶのかを明確にすること。正解を用意することではありません。今回は、火を使った調理法の知恵がテーマです。ここで南太平洋の調理法を知るということは、さほど重要なことではなく、なぜなのか、どうしたらよいのかなど因果関係を見抜いたり、応用法を創造したりすることのほうが大事です。

 この授業では、器の加工が不要だったことを仮説化しましたが、この教材を使えば、さらに、南太平洋の島々で土器をつくる自然資源はどうだったのか、文化の伝播を可能にする交通や通信はどうだったのかなどの視点から、人類が生き延びるための知恵、歴史を推理することができます。

 同様に、毎日目の前で起きている事柄も、試し、観察し、自分の身体感覚で原理をつかみ、応用する。それが自分の生活を工夫していく力をつけることになります。

教材化に必要な三つの「少し」

 そして、教材化するときに、私が注意するのは、次の三点です。

1. 少し足りないこと

 なんでも用意したり、知識を詰め込もうとすると、子どもは学ぼう、動こうとしません。道具も時間も場所も材料も、人も少し足りないほうがよい。すると、子どもはもっとやってみたくなったり、助け合ったり、分かち合ったりします。

2. 少し危険なこと

 火や刃物は確かに危ない。しかし、上手に教えれば、注意して集中します。誰かが木をきちんと押さえていないと、ノコギリやナタで切れません。危険な作業だからこそ真剣になり、助け合うのです。火は危ないからこそ、機をとらえたり、加減を工夫する必要が生まれます。

3. 少し大人が黙って見守ること

 大人が先回りするのではなく、子どもが試行錯誤する余裕を与える。言われてわかるのと、自分でやってみて気がつくのとでは学びの質は違います。教材が開発され、教える側のテクニックがあがればあがるほど、大人が教えたい欲求を押さえ、子どもの心や人間関係に何が起きているのかを見守ることが大事です。

 火を扱う体験活動は子どもの表情をイキイキとさせます。だからこそ、やりっぱなしではなく、いかに深い学びにつなげるか、子どもの心の動き、人間関係の動きをどうつくっていくかを工夫することに、もっともっと重点を置きたいものです。

(日本アウトワード・バウンド協会 http://www.obs-japan.org/asobinotatsujin/index.htm

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