「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2006年5月号
 

食農教育 No.48 2006年5月号より

■タネから育ててタネを採る

スーパーのダイコンを植えてタネができるの?

自然生え栽培のすすめ

(財)自然農法国際開発センター 中川原敏雄

ダイコンのパワーを引き出す自然生え栽培

 野菜はビタミン類、ミネラル、植物繊維など栄養面で優れ、食卓に欠かせない食べ物です。いつも何気なく食べている野菜にも、私たち人間と同じように子どもから大人になるまでの一生があることを知っていますか? 真っ白な肌で太く大きいダイコンは、人間でいえば何歳くらいにあたるでしょうか。上にダイコンの一生を示しました。ちょっぴり辛いカイワレダイコンは幼年期、よく太ったダイコンは少年期にあたるのです。ダイコンには、まだまだ冬を越して春に花を咲かせる青年期、タネが熟す中老年期があります。

 最近、アスファルトから出てきた「ド根性ダイコン」がテレビで話題になったように、実はダイコンは雑草のようにたくましい野菜なのです。そこで、畑にダイコンを植えて花を咲かせ、自然にタネをばらまかせて栽培する方法(自然生え栽培)が生まれました。その方法をご紹介しましょう。

スーパーのダイコンを植えて栽培開始

 はじめに、葉のついているダイコンを五〜一〇本くらい準備します。近くの農家の畑から、土つきのダイコンを分けてもらうとよいのですが、手に入らない場合は、スーパーのダイコンでも構いません。ダイコンは一品種ではタネができない場合があるので、二品種以上準備しましょう。畑の面積は一〜二坪くらいでよいです。一般にはよく育つように肥料を入れて耕しますが、何もしない自然の状態でスタートします。

 ダイコンを植える場所を除草し、三〇cm間隔に穴を掘って首まで土をかけ、足でしっかり踏みます。ダイコンが長すぎるときは、斜めにして植えてもよいです。春に植えるときは低温に合わせて花芽をつけさせるために、なるべく寒い時期(土が凍らなくなる時期から桜が開花する頃まで)に植えます。秋植えは十一月から十二月がよいでしょう。

 畑の管理は、雑草が伸びたら、鎌で刈敷き草にしておくだけで、きれいに抜く必要はありません。日照時間が長くなってくると、ダイコンは、根に貯蔵していた養分を使って、葉の間から長い茎を伸ばしてきます。これを抽だいと言います。脇枝もたくさん出て、白や薄紫の花を咲かせます。温暖地では四月下旬から五月下旬まで花が咲きます。

 咲き終わると、そこにくちばし状の莢がつきます。この中に二〜一〇個のタネが入っています。この莢は若いときに食べるとピリッと辛く、二十日大根の味がしておいしいのです。六月下旬から七月に入ると莢が灰色になり、タネが熟してきます。このときダイコンの株元をよく観察すると、雑草が少ないのに気づくでしょう。ダイコンは開花期間に枝葉を大きく広げて光をさえぎり、雑草を生えにくくしていたのです。また、ダイコンの株元をよく見ると、下葉が枯れ落ちたところに、ミミズやヤスデなどの土の中の生き物たちが集まっているのを発見するでしょう。土を触ってみると、耕していないのにふかふかに軟らかくなっています。ミミズは枯葉などを食べ、土を肥やし、耕すという土づくりの職人と言われています。これもダイコンの子育ての準備なのでしょうか。

 株全体が茶褐色になり、株が枯れたらそのまま倒しておきます。雑草がひどいときは鎌で刈って、敷き草にしておきましょう。

地面に落ちたタネをそのまま育てる

 夏もそろそろ終わり、秋雨前線が発生すると、地面に落ちた莢の中のタネが、いっせいに芽を出し双葉を開きます。草に負けないように、グループをつくって生育するのを共育ちと言います。これも生きていくための植物の知恵です。一般には間引きといって悪い株を抜き、良い株だけ残しますが、そのままにしてどのように育つか、観察しましょう。

 あんなにたくさんの芽を出した若いダイコンたちも、生長するにつれてだんだん仲間が減って、気温がぐっと下がる晩秋には、おなじみのあのダイコンに生長しています。どんな形のダイコンに育ったのか楽しみです。

(1)1〜2坪の畑に5〜10本くらいのダイコンを、首まで埋めて土をよく踏む。
(2)長いダイコンは溝を掘り、斜めに植える。
(3)菜の花(奥)と一緒に咲くダイコンの花(手前)。右端は混じって咲いている
(4)ダイコンの花
(5)ダイコンの莢(二十日大根の味がしておいしい)
(6)枝葉を多く出して雑草を抑える
(7)タネが熟すと莢が灰色になる
(8)ダイコンのまわりには雑草が少ない
(9)タネをたくさんつけて枯れたダイコンの株をそのまま刈り倒す。芽が出やすいように、まわりの草を刈り倒しておく
(10)地面に落ちた莢の中のタネから発芽してくる
(11)枯れ草の中から伸びだした双葉。雑草が多いときは草を刈る
(12)共育ちしている若いダイコン。間引きをしないでそのまま生育させる
(13)草と競い合いながら元気に育つ
(14)気温が下がりぐっと太りはじめる
(15)厳冬のなかでじっと春を待つ
(16)何年も自然生えを繰り返している野良ダイコン
→食農教育トップに戻る
農文協食農教育2006年5月号

ページのトップへ


お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2005 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved