「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2006年3月号
 

食農教育 No.46 2006年3月号より

トマトで授業づくり

加工体験で深まるトマトとのかかわり方

昭和女子大学付属昭和小学校

筒井星子

青いトマトは浮くかな、沈むかな(徳島・阿波市立市場小)
展示用にトマトの模型をつくる(昭和女子大学付属昭和小)

トマト嫌いはなぜ?

 真夏の太陽の下、真っ赤に実を太らせ、つややかに光り輝くトマト。想像しただけでも顔がほころんでしまいそうですが、子どもたちのなかには、トマトが嫌いな子も多くいます。学級で、トマトを好きな子、嫌いな子がそれぞれどのくらいいるのかを聞いてみると、なんと全体の三割程度の子がトマト嫌いだったのです。理由を尋ねてみたところ、「においが強い」「種の部分が口に合わない」というものが圧倒的でした。

 トマトの消費量が多い国では、加熱調理をして食べることがほとんどです。加熱することによって、一度に多くの量を摂取することができるのです。日本では、サラダに入れるなど、生の状態のトマトを食べることがほとんどであるため、消費量は世界の上位には入りません。子どもたちのトマト嫌いの理由は、こうした生食だけの浅いつき合いからきているようです。

小浜市地図
「凛々子」のほかにミニトマトの「レジナ」も育てた

加工用トマトの栽培

 昭和小学校では、数年前から、カゴメ株式会社からのご厚意で、トマトの苗をいただいています。栽培活動を通じて、日ごとに強く大きく育っていくトマトの姿に深く興味を示した二組の子どもたちは、今年度の研究テーマをトマトにすることに決めました。

 いただいた苗は「凛々子」という品種で、カゴメがジュースを作るために開発した、加工用のトマトです。収穫した凛々子と、生食用の桃太郎トマトを、子どもたちと一緒に食べ比べてみました。すると、自分たちで育てたという達成感や、それを食べることができる喜びは格別であるものの、凛々子は桃太郎よりも皮が厚く、酸味が強かったので、やはり生では食べにくいと感じたようです。

こんなところにもトマトが使われていた

 そのままでは食べにくい加工用トマト。加工することによって、生食では味わえないおいしさが引き出されます。生で食べる以外にも、トマトをおいしくいただく方法があると知った子どもたちは、「トマトは、いったいどんな食品に使われているのだろう」と、疑問を持つようになりました。

 その日から子どもたちは、それぞれの家庭で使用した、トマトを含む食品の缶や空き箱を集め始めました。なかには、パッケージにトマトの絵や写真が載っていない空き箱を持ってきて、私に誇らしげに原材料名の表示を見せる子どももいました。ふだん、目に留めることもなく捨ててしまっていたであろう缶や空き箱に、こんな楽しみが隠されていたとは。子どもたちにとっては新しい発見であり、私にとっても新鮮な活動でした。

どうして加工をするの

 そのまま食べても、加熱調理してもおいしいトマトですが、ただおいしく食べるためだけに加工をしているわけではありません。食品加工は、食文化の基本ともいえる、とても大切なものです。

 四季がある日本で育つ子どもたちが、それぞれの季節の良さを感じながら生活できるようにと、日々工夫しながら過ごしていますが、今のこの便利な世の中では、食べ物の旬といわれても、子どもたちにはあまりピンとこないようです。トマトが夏の野菜だということも、意識せず過ごしてきたのかもしれません。

 現代に生きるわたしたちは、どんな食べ物も、一年中いつでも手軽に手に入れることができますが、昔はそうではありません。そのときにしか収穫できない素材を、長期にわたって保存し、楽しむことができるようにと考えた先人たちの知恵が、食品加工を生み出したといわれています。

 食品加工をするようになった背景を知った子どもたちは、ケチャップやトマトの缶詰を持ってきては、「これはどうやって作られているのだろう」「どうして缶詰にすると長持ちするのだろう」などと、次々に新しい疑問を持つようになりました。子どもたちの知的好奇心の強さには、毎度のことながら感心させられます。それとともに、日々子どもたちと一緒に成長していける自分を、幸せだと感じずにはいられません。

五感を働かせたシャーベット作り

 「トマトのことはいろいろわかったけれど、それでもやはりトマトの味は好きになれない」という子がいました。トマトソースやケチャップは大好きだけれど、生のトマトは食べられない。それならば、生のトマトをデザートにしてみてはどうかと、子どもたちにシャーベット作りを提案しました。

 すべての材料を入れて混ぜ、凍らせるだけの簡単なものですが、子どもたちは、瞳をきらきらさせながらシャーベット作りに取り組んでいました。参考にしたレシピでは、すべての材料をミキサーで混ぜると記載されていましたが、そこはひと工夫。ビニル袋を使用しました。ミキサーは、子どもたちの手です。

 袋の上からトマトをつぶす感触を楽しむ。材料を加えていったときの色の変化を楽しむ。香りを楽しむ。シャーベットを砕く音を楽しむ。そして、味を楽しむ。子どもたちは、五感をめいっぱい働かせて、シャーベットを作っていました。自分の班が作ったものと友達の班が作ったものを食べ比べるのも、楽しみのひとつだったようです。おかわりの列は、しばらくのあいだ途絶えることがありませんでした。

小浜市地図
(1)生トマトを熱湯にくぐらせる
小浜市地図
(2)ツルンとむける感触が楽しい
小浜市地図
(3)皮をむいたトマトをシロップ、牛乳とともにビニル袋に入れ、袋の上から手でつぶす。グニュグニュつぶしていくと、色が赤からピンク色に変わっていく
小浜市地図
(4)十分につぶれたら冷凍庫に入れる
小浜市地図
「うん、おいしい!」

昭和祭に向けて、そしてこれから

 毎年十一月に行なわれる昭和祭では、二年生以上の各学級が、四月から取り組んできた総合学習の中間発表として、研究展示を行ないます。トマトの加工品の値段をスーパーマーケットのチラシで調べ、空き箱を陳列棚風に並べたり、トマトの種類と特徴を調べ、形を模型で表わしたり。二年生ならではの自由な発想で、のびのびとした作品ができあがりました。

 二月には、総合学習報告会として、さらに深めた内容を舞台で発表します。子どもたちと一緒に、もっとトマトのことを知って、もっとトマトのことを好きになれるのが、今からとても楽しみです。

小浜市地図
昭和祭に向けた準備。トマトの加工品の空き箱と値札のディスプレイに取り組む
→食農教育トップに戻る
農文協食農教育2006年3月号

ページのトップへ


お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2005 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved