「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年11月号
 

食農教育 No.44 2005年11月号より


村田商店の商品。10年ほど前に大手メーカーによる低価格競争を降り、祖父伝来の経木納豆を復活させた。豆はすべて契約農家による県内産

大豆の場合 納豆屋さんに聞きました

虫食い、半割れ、しわ入り
そんな豆でも立派な納豆になる!

編集部

 子どもたちと栽培した大豆をどうするか? 前頁までの記事で紹介した裾花小学校では、まいたタネよりも少ない収穫量だったそうだが、少量で、ある程度見た目を気にせずにおいしく食べられる加工品といえば……、納豆。

 ちょうど裾花小の校区には、無農薬で契約栽培された大豆を使って、昔ながらの経木納豆をつくっている村田商店という納豆屋さんがあるそうだ。柿崎先生とともに、昨年の三年生が育てた大豆を携えて訪問することにした。

 それにしても、虫食い、半割れ、しわ入りと、個性的な粒がいっぱい。果たして、本当に納豆にできるのだろうか?

 契約栽培だからこそ悪いものは悪いなりに

 昨年度産の納豆用国産大豆の価格は一俵(六〇kg)二万円前後で推移した。台風の影響で西日本が壊滅状態。二年前の二・五〜三倍にもなる。大手メーカーなどは、六〇〇〇円弱の輸入ものを使うのがほとんどだから、スーパーで目にする納豆価格は低く抑えられたままだ。

 いっぽう、村田商店さんは松本の浜農場との契約栽培で、現在おおむね一俵二万二〇〇〇円。契約栽培だから相場が下がってもこの値段。一個一五〇円のこだわり納豆をつくっているお店なのだ。正直、学校でとれた大豆など相手にしてもらえないのでは? と恐る恐る実物をもっていったのだが――。

 「思ったよりいいですね。今年はうちでももっと悪いものもあったんですよ。なんとか製品にしようと努力したけど、やはり返品したものもあります」と社長の村田滋さん。

 無農薬の大豆を契約栽培で仕入れているからには、いい豆だけを買い漁るわけにはいかない。土地柄、天候によってある程度は見た目が悪くとも、立派な納豆に育て上げなければならないときもある。昨年のような風水害の年には、大豆も自らを守ろうと皮を厚くするので、ぬるま湯で一晩漬けて水をしっかり吸わせて発酵しやすくしてやるなど、豆に応じてさまざまな対応をしているようなのだ。

 箸の練習ついでに大豆を選別

 さて、裾花小の大豆をまじまじと見たあと、村田さんからこんな提案を受けた。
 「まずは箸の練習をするつもりで、納豆にできそうな豆を集めてみてはどうですか?」
 そこで、村田さんにアドバイスいただきながら、以下のように大きく六つに分類することにした。

1.丸くてきれいな豆
 一概にはいえないが、豆本来のうまみは大粒のほうがでやすい。ごはんにのせたときの食べやすさや、味のからみやすさから小粒の商品が喜ばれるが、村田商店では大粒を使っている。まずは、丸くて形のよい大豆を納豆用に選ぼう。

2.虫食いの豆
 虫に食べられて穴があいているもの。まーこれもOKだ。ある程度発酵すれば見た目はかわらない。虫も喜んで食べるおいしい大豆、と考えよう。

3.しわ入りの豆
 株が倒れたりして、豆が一度水に浸かったあとに乾燥するとこうなる。水に漬ければふくれるから、これも納豆に。浸漬中、しわに空気が入って浮いてくるかもしれないので、途中でかき混ぜて沈めてあげる。

4.半割れの豆
 収穫が遅れるなどして、皮が裂けてしまったもの。裂け目が酸化して発酵しにくく、そのままではアンモニア臭の原因となる。表面からじょじょに酸化がすすむので、早めに割ってひき割納豆にしよう。

5.割れたり変形した豆
 完全に割れると、水に漬けたときに皮がむけてしまう。納豆にはなるが、ゴミ掃除がたいへん。炒り豆にしたり、きな粉にしてはどうか。

6.石みたいな豆
 石と思って捨ててしまおう。鳥のエサにはなるか?

 どうだろう? 見た目で判断してはいけない。製品にするならともかく、自分たちで食べるなら、ほとんどの大豆が十分活用できそうだ。収穫後は直射日光に当てないように管理。気温一八℃以上になったら冷蔵庫へ。


1.まずは豆を選別しよう 
2.丸くてきれいな豆。納豆に
3.虫食いの豆。虫も喜んで食べるおいしい豆と考えよう。納豆に
4.しわ入りの豆。水に漬ければふくらむ。納豆に
5.半割れの豆。早めに割ってひき割納豆に
6.割れたり変形した豆。炒り豆やきな粉に
7.石みたいな豆。すごく小粒。鳥のエサにはなるか?

 一〇粒つまんで発芽率試験

 外見で選別したあとは、発芽率試験をしてみよう。大豆の品質を知る、もっとも手軽な方法がこれだ。ふつうは、水に一〇〇粒浸して何粒発芽したかを数える。七〇〜八〇%なら製品に。九〇%以上しか使わない、と厳しい納豆屋さんもあるそうだが、地元の大豆を契約栽培している村田商店では、そう厳しくして跳ね返すわけにもいかない。七〇〜八〇%で使っている。

 発芽しない大豆は発酵がかなり悪いそうだが、われわれはもう少しルーズに、五〇%ほどでどうだろう。試験に一〇〇粒も使うのはもったいない、という場合は一〇粒でやってみよう。常温でヒタヒタ水に丸一日漬けておく。発芽率五割以上なら納豆に。五割を切ったら、水に漬けてミキサーにかけ、生のまましぼったあと沸騰させて、豆乳として飲んでみてはどうか。

村田さんに納豆の製造工程を解説していただく。手前は柿崎先生

 水分調整と温度管理に気をつかおう

 では、納豆づくりのさいに気をつけるポイント。まずは、大豆を水に漬けすぎないこと。漬けすぎると乳酸発酵して泡立ってくる。夏場は一二時間、冬場は一八時間。それ以上漬けない。一番確実なのは、冷蔵庫(マイナス五℃)に入れて丸一日漬けておく方法だ。

 次に仕込んだあとの温度管理。納豆菌の大好きな四〇℃をいかに保つかだ。給湯器の温度を最高にすると、六七℃のお湯がでる。これを湯たんぽや分厚いプラスチックの容器に入れ、タオルをまいて、発泡スチロールの底に入れる。その上に、平らなプラスチック板を敷いて、仕込んだ大豆を入れて保温。

 保温容器のお湯を入れかえる目安は三五℃。昼に仕込んだなら、夕方六時に一回。寝る前に一回。そして朝七時に一回。とくに、最初の数時間が冷めやすいので注意しよう。あとは、納豆菌の力でわりと高温に保たれるはず。二日目の夕方六時、大豆に白っぽい菌がかぶっていたらOK。冷蔵庫で半日以上冷やして熟成させてから食べよう。二日間、ペットを飼ったつもりで、根気よくお守りしてあげることが大切だ。

 ともあれ、素人の納豆づくり。特別な技などは必要ない。基本に忠実に、が失敗しないコツだ。豆のよしあしはあるが、虫食いだって、半割れだって、立派な納豆になる。愛情を注いで育てた豆なのだから、立派な納豆に成人させてやってほしい。

 村田商店おすすめ 手づくり納豆教室


1.軽く炒って、水分、油分をだす
2.すりこぎで力を入れて割るか、ミルで一瞬挽いて、大さじ1/8ほどの大きさにする
3.ヒタヒタ水に2〜3時間つける。うまみ成分の豆乳が流出しないよう、塩ひとつまみ入れるとよい

1.大豆を水洗いし、たっぷりの水に浸し、冷蔵庫で24時間漬ける
2.5〜6時間、鍋で煮る。親指と小指で挟んで軽くつぶれる程度の煮加減
3.なるべく冷まさないよう、手早く湯切りする

4.市販の納豆2〜3粒をコップ半分の熱湯に入れて10分おいたあと、よくかき混ぜる。これを煮豆200gあたり1ml以上(1kgの煮豆なら小さじ1杯強)ふりかけて、よくかきまわす
5.煮豆を熱いうちにタッパーに入れ、空気穴をたくさん空けたサランラップでフタをし、ゴムで止める。酸素不足になるので、煮豆は底から1cm以上積み上げない

6.湯たんぽや分厚いプラスチック容器を用意し、一番熱くした給湯器のお湯(約67度)を注いでフタをする
7.タオルでくるんで、発砲スチロール(またはクーラーボックス)の底に敷く
8.プラスチック板を置くなどして平らな底をつくり、5.の容器を並べる。何段か重ねるばあいは、割り箸などで井桁を組んでやるとよい
9.発砲スチロールのフタに穴をあけて温度計をセット。35度を目安に湯たんぽのお湯を取り替える。最初の数時間は温度が下がりやすいので、とくに注意(前頁本文参照)。28〜33時間もすれば、糸を引く。冷蔵庫に入れ、半日以上熟成させてから食べよう

 "ワラづと"もつくってみよう

納豆といえば、 大豆のほかに、ワラも忘れてはいけない。納豆菌はイネ科植物につく寄生菌。40度の温度と、適度な空気、湿り気があれば、煮豆を栄養にして、ワラについていた納豆菌が活動をはじめる。30分ごとに倍になるから、1個の細胞が15時間後には、10億個にもなるそうだ。では、ワラづとづくりに挑戦!

※ワラはあらかじめ水につけて湿らせておくと加工しやすい。
※ワラづとのつくり方は地方によってちがう。近所のおばあちゃんにも聞いてみよう。

1.ワラをひとつかみして、手ですきながら切れ端を取り除いたあと、真ん中に2〜3本あてがい、一周させる 
2.ねじって
3.くるっとはさみこんでとめる
4.先ほど結んだところから、2〜3本ずつていねいに折り曲げる
5.折り曲げたところから25cmくらいを、同じようにしばり、端を切りそろえる。熱湯に5分ほど入れて殺菌(納豆菌だけは100度でも死なない)
6.お腹にあてて二つ折りする
7.親指でぎゅっと開いて、熱々の大豆を入れる。ワラづとを閉じて、もう一度真ん中でしばったあとは、前頁6からと同様に保温する。
(※本誌2004年9月号60頁も参照ください)

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