「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年9月号
 

食農教育 No.43 2005年9月号より

ミミズ観察箱をのぞいて

ミミズが土をつくる

ミミズが教えてくれた
グルグルめぐる土の世界

宮城・気仙沼市立面瀬小学校 阿部正人 渡辺智栄子 千葉恵子

土から環境を見る視点が大切

 私が2年生で「土の学習」に取り組んだ理由は、土の中で行なわれている自然の営みを、子どもたちが豊かに想像することができないものか。そう考えたとき、やはり低学年のうちに、土に触れたり土の中の生き物を観察したりすることが、とても大切だと考えたからです。そうした体験のなかから、落ち葉や死骸を「分解」する生き物がいることや、さらに土の中にも生き物がいて、それらが豊かな土をつくっていることに気づかせたいと考えました。

 もう一つの理由は、全校で取り組んでいる環境学習プログラムにあります。各学年で、地域の水辺環境をテーマに学習していくなかで、なるべく早い段階で、土や有機物の分解者の視点を持つことが、学びをより深くすると反省したからです。

 そこで、2年生の生活科のなかで、土に直接触れる野菜栽培をしながら、土を見つめ、そこに住む生き物のかけがえのなさに気づかせようと思いました。

ミミズを切り口に土の世界に迫る

 本校では、2002年からJFMF(日本フルブライトメモリアル基金)のマスターティーチャープログラム(以下MTP)に参加し、米国の小学校と共通のテーマで交流しながら学習をしています。私が米国を訪問した際に、ミミズが新聞紙を食べることが話題になりました。交流相手校のリンカーン小学校では、ミミズを飼って、生ゴミや新聞紙をミミズに食べさせてゴミを減らすプログラム(ミミズコンポスト)を展開している、というお話でした。ミミズを教材にすれば、身近な生き物なので、子どもたちが親しみやすいのではないかと思いました。そこで、ぜひそのミミズコンポストを、日米で一緒に行なってはどうかと話し合いました。

 帰国後、ミミズについて調べると、畑のミミズとミミズコンポストのミミズは、違う種類であることがわかりました。畑にミミズがいると良いことは、よく耳にすることですが、どうしてよいのかということは、深く考えたことがありませんでした。

 ミミズがいることの良さを、はっきりさせることで、土の中の生き物が野菜栽培と関わりがあり、おいしい野菜づくりには大切であることにつなげていきたいと思いました。

 ミミズが野菜づくりに良いことに気づかせるために、目に見え実感できるように、ミミズ観察箱で観察したり、ペットボトルで飼ってみることにしました。

ミミズ観察箱のつくり方
1人1本ずつ育てているダイコンの周りで、何がおきているのでしょう。グループで相談しながら絵にかきました
1人1本ずつ育てているダイコンの周りで、何がおきているのでしょう。グループで相談しながら絵にかきました

 また、自分たちが育てた野菜を調理した後に出た生ゴミを、ミミズコンポストで土にし、物質の循環に気づかせたいと思いました。ミミズコンポストでは、自分たちがコンポストに入れた生ゴミがなくなっていき、ミミズの糞がふえていく様子が容易に観察できます。また、ミミズコンポストは悪臭がなく管理が簡単であることが、子どもたちにとって親しみやすいと思いました。

野菜を育ててミミズに親しむ

 種まきの準備作業を行なう前に、子どもたちのミミズに関する事前の知識を確認したり、興味を引き出だそうと、ミミズの絵をかかせたり、ミミズクイズを行なったりしました。目や鼻があったり、心臓やおチンチンがあったり、一人ひとりの子どもが想像した、いろいろなミミズが出現しました。

グループごとにさまざまな想像図が出てきました
グループごとにさまざまな想像図が出てきました

 その後で、草取りや土を掘り返していると、「ミミズだ!」と、あちこちから大きな声が聞こえてきました。どれどれと集まる子どもたち。その勢いに、これでいけると思いました。興味深そうにミミズに触る子どもたちの姿を見て、共感の声を掛けると、多くの子どもたちがミミズを探し出しました。そして畑には、ミミズ以外にも昆虫の幼虫などのさまざまな生物がいることに気づくことができました。

ミミズ観察から土の中を想像

 校外学習でトマトの畑を見学したり、育て方の秘訣を聞くなかで、良い土とはどんな土なのか、専門家からお話をいただこうと、打合わせをしました。「野菜栽培に適した土は、水と空気が含まれている土です」という話に、「あ〜、ミミズが穴を掘るから空気が入るんだ」と、気づいた子どもが現われました。

専門家から教えてもらった畑の土に必要なものを思い出しながら、畑の中を想像しました
専門家から教えてもらった畑の土に必要なものを思い出しながら、畑の中を想像しました
ダイコンを育てている畑の中の想像図。点々は、本を読んで知った微生物だそうです
ダイコンを育てている畑の中の想像図。点々は、本を読んで知った微生物だそうです
「親子食の教室」で出た生ゴミをミミズコンポストに入れました
「親子食の教室」で出た生ゴミをミミズコンポストに入れました
グループごとにシマミミズの数を数えてふえたかどうか調べました
グループごとにシマミミズの数を数えてふえたかどうか調べました
虫眼鏡で見ると、シマミミズってかわいいな
虫眼鏡で見ると、シマミミズってかわいいな
1年間の学習をつなげて、グルグルになっていることに気づきました
1年間の学習をつなげて、グルグルになっていることに気づきました

 そこで、畑でミミズをつかまえて観察することにしました。一人ひとりが自分で畑でつかまえたミミズを、ペットボトルで観察したり、手づくりのミミズ観察箱を観察したりしました。放課後、「先生、これ何」とミミズ大好きの子どもが、ミミズ穴の脇に数個の丸い固まりを発見。ミミズの糞です。こうして、ミミズが通ったあとに穴の道ができることや、ミミズが糞を出すことなど、畑のミミズが土の中で行なっている行動を観察できました。

 さらに、実際の畑の土の中で、ミミズがどのように活動しているかを想像させるために、グループごとに、これまでの体験からわかったことを絵で表現しました。グループで話し合いながらまとめていく手法は、私が以前研修したGEMS(Great Exploration in Math and Science)という米国のプログラムで行なわれていたものを応用したものです。

 子どもたちは、ミミズの通り道や糞のほかに、ミミズ以外の昆虫の幼虫や本から学んだ微生物をかき入れ、これまでの体験を生かしながらまとめました。

ミミズコンポストで土づくり

 ペットボトルやミミズ観察箱でミミズを飼った後に、子どもたちに、もっとたくさんのミミズを飼うことができるミミズコンポストを紹介しました。目の前に登場したミミズコンポストの中を見ようと、子どもたちは、1000匹のミミズに群がり、興味津々です。

 野菜を収穫して「親子食の教室」を開いた際に出た生ゴミを、ミミズコンポストに入れたり、職員室から出た茶殻をコンポストに入れたりしました。

 ミミズコンポストのミミズも、ペットボトルでグループごとに飼ってみました。はじめに入れたミミズの数を記録し、間をおいて2回目、3回目と観察日をもうけると、ほとんどのグループでミミズがふえていました。このとき、子どもたちの意欲を駆り立てたのは虫眼鏡です。ミミズを自分の手にのせて、虫眼鏡でのぞき込んでいました。「先生みてみて卵!」と、黄色いかわいい卵を発見した子どもたちは、得意げに私に見せてくれました。

 リンカーン小学校と同時にミミズコンポストの実践を行なったので、テレビ会議で、お互いのコンポストを紹介しあったり、リンカーン小からは、ミミズの種類や歴史の紹介を聞いたり、本校からはミミズが嫌いな食べ物について質問をしたり、ミミズを話題にして、国も言葉も年齢も異なる子どもたちが学習を深めることができました。

つくろう「ぼくらの畑物語」

 一年間の活動を「畑物語」としてまとめることにしました。子どもたちのグループの発表のほかに、教師も絵でこの一年をまとめることにしました。子どもたちに提示したのは、地面をかいた一枚の模造紙。その他に準備したのは、畑で育てたゴボウの絵、「親子食の教室」でつくったキンピラゴボウの模型、そのときに出た生ゴミの模型、ミミズコンポスト、ミミズの絵と矢印。すべてはマグネットをつけて、自由に貼ることができるようにしてあります。

 「先生たちも畑物語をつくろうと準備したんですけどまだ途中です。みんなと一緒に完成させたいと思いますが、どうですか」と子どもたちに問いかけると、「いいよ」とやる気満々。まずは、種をまいてゴボウが大きくなったことからはじまりです。子どもたちの手がさっとあがります。次は、地産地消にこだわった「親子食の教室」で食べた日本食・キンピラゴボウ。そして生ゴミ。ミミズコンポストのカードを持った男の子が、土の上にしようか、生ゴミとくっつけようかと悩んでいます。

 なるほど気持ちがわかります。「後で矢印をつけるよ」と言うと、納得したように自分の決めた位置に貼りました。

 さらに、つながりを示す矢印を貼っていきます。そうすると、「あっグルグルだ!」と、思わず子どもが叫びました。ミミズコンポストから畑への矢印がつながったところで、宮城教育大学の岡正明先生に登場してもらいました。

 「みんなは一年かけてミミズコンポストを使ってグルグルを勉強しましたが、自然の中では恐竜の時代からずっとこのグルグルがあるのですよ」というお話を聞いて、今まで調査をしてきた森や川原でも、グルグルと循環しているということに、子どもたちの思考が広がっていったのでした。

【土の学習のウェブ・サイト】
http://www.fmfmtp.net/~omo/mtp04/pair/2nd/


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