食農教育 No.42 2005年7月号より
やったー! マックのポテトだ! おいしい塩のイメージを求めて
ふるさと三浦の海水で塩つくり神奈川・三浦市立旭小学校 梶谷明子
マックのポテトがいつもとちがう
「やったー! マックだよ!」
私の持ってきた赤と黄色のマクドナルドの袋を見て、4年1組の子どもたちは大喜び! 運動会で頑張った子どもたちに、いいものをもってくると約束していたのです。
「いただきまーす!」。どの子の顔もニコニコで、大好きなマックのポテトをわれ先にと口に放りこみます。ところが……子どもたちの顔が曇りはじめました。
「あれ? いつもとちがうよ」
「味がなくておいしくねえ……」
「先生のポテトはおいしいよ。分けてあげるね」。集まってきた子どもたちが、私の食べているポテトに手を出します。
「ワアー、うまい!」「いつものマックだー」「先生のは塩がきいてるんだ!」
立ち上げは子どもに身近な食材から
私は、夏休み中から国内外のたくさんの塩を集めたり、塩に関連する資料を集めたりと、教材研究を進めていました。
しかし、実践の構想をたてる段階になって、どのような塩との出会いが子どもたちの学びへのはずみとなるか、あれこれ考えていました。校内研究会で相談すると、塩を印象づけられる食べ物を見つけようということになり、冷凍ポテト、おにぎり、きゅうり・トマトに、いろいろな種類の塩をかけて食べ比べてみました。塩に関心を持って食べないと味の違いに気づけない、食材がいいと塩に関係なくおいしい、ということがわかりました。
そして、どの子も食べ慣れていて味を知っているマクドナルドのポテトの塩あり・塩なしの食べ比べから、実践を立ち上げることにしたのです。
マックの塩と家の塩を比べたら
マックで使っている塩について説明してくれるお店の人 学校から近いマクドナルド三浦海岸店を訪問し、ポテトの食べ比べをしたときに出てきた、たくさんの質問をしました。
「マックの塩は特別な塩なの?」「どこでとれる塩なの?」「マックの人が塩をつくっているの?」「三浦海岸の海水でつくった塩なの?」………。
「マクドナルドの塩は、塩事業センターというところから買っていて、みなさんのお家で使っている塩と同じですよ」との答えが返ってきました。
学校に戻ると、「みんなの家の塩と同じだって言ってたけど、うちはマックの塩と色や形が違うよ」という意見が出てきました。そこで、家で使っている塩を持ってきて、マックの塩と比べてみることになりました。「○○君の家の塩は塩辛いよ」「ちょっとずつ味が違うよ」。子どもたちは、家で使っている塩は、形はマックの塩と似ているけれど、味がちがうことに気づきました。さらに、家の塩のパックの裏の表示を見ると、海水からつくられていることがわかり、子どもたちは塩つくりに意欲を持ちはじめたのです。
三浦海岸の海水で塩をつくろう!
そこで私は、「塩ってどうやってつくるの?」と、子どもたちにたずねてみました。「海水はしょっぱいんだから、水分をなくせばいいんだよ」と、即座に子どもたちから答えが返ってきました。さっそく、ペットボトルをもって三浦海岸に海水をとりに行き、海水の砂やゴミを布でこして、フライパンで水分をとばしました。
そして、なめてみると「げえ、まずいよー」「苦くて、鉄の味がする」と、予想外の味に、子どもたちはびっくりしました。どうやっても、パウダー状でしょっぱさと苦さが入り交じった塩になり、とてもまずいのです。
そこで、塩をつくるときの道具に注目し、いろいろ試してみました。
中華鍋→茶色い塩(鍋の油がしみだした?)
鉄のフライパン→灰色の塩(鉄分がでた? 味も鉄の味)
テフロン加工→白色の塩
子どもたちは、この結果から、「もっと色のきれいな塩、さらさらな塩、おいしい塩、粒の大きい塩、栄養があって体にいい塩をつくりたい!」と、それぞれに課題を持ちました。でも、どうしたらいいのだろう?
沖の海水で塩つくり
いろいろな方法で塩つくりに挑戦 「道具や火加減を変えたら?」「砂とかゴミの入っていないきれいな海水を使えば、きれいな塩ができるよ」と、子どもたちは考えました。
そこで、漁師の鈴木さんに三浦海岸沖の水深50mのところから海水をくんで来ていただきました。その驚くほどきれいな海水を見て、「これならきれいな塩できそうだよ」と、子どもたちもワクワクしながら、さっそく鍋で海水を煮詰めはじめました。
塩つくりの手順 (1)海水を煮詰める (2)シャーベット状になるまで煮詰めた塩を、フィルターでこす (3)(2)の塩をドライヤーで乾燥する。または、自然乾燥させる しかし、色はきれいになったのですが、1回目にできた塩と同様に、パウダー状で苦さが残る塩になり、子どもたちがめざす塩とはほど遠いのです。
子どもたちがイメージした塩ができた そして、学習を進めていくうちに、子どもたちのめざす塩のイメージがさらに具体的になってきました。「パウダー状でなく、粒は透明で集まると白く見える色がきれいな塩」「粒があってさらさらな塩」「塩辛すぎないで、苦くないおいしい塩」をつくりたい! というのです。
そこで、課題解決のために、めざす塩つくりについて伯方塩業株式会社、塩事業センターなどにきいてみることにしました。
情報交換してグレードアップ
めざす塩ごとに分かれたグループは、調べていることはちがいましたが、調べているうちに、ほかのグループに役に立ちそうな情報も得ていたので、情報交換をすることにしました。「僕たちおいしい塩をつくりたいグループは、苦さ(にがり)をなくしたいけれど、わからないんだ」「でも、私たち体に良い塩グループは、実はその苦さが体に良く、味のまろやかさにつながるということがわかったよ」。こうして、自分たちのわからなかったこと、気づかなかったことを、ほかのグループから教えてもらい、学びを共有することができました。
3回目の塩は大成功
3回目の塩つくりは、塩つくりのプロに聞いたことや「情報交換」の成果を生かし、どのグループも大成功でした。にがり成分をフィルターでこしとることで、塩の味がまろやかになりました。また、海水をただ煮詰めるのではなく、水分を含んだシャーベット状の塩を、ドライヤーを使って乾燥させたり、自然乾燥させたりすることで、パウダー状ではなく、粒状に塩を結晶させられたのです。
「苦くなくてうまい!」
「粒があってきれいな塩だ!」
と、子どもたちから声が上がりました。
「粒があって」「おいしくて」「体に良くて」「さらさらで」「色がきれいな」4年1組の塩が、完成しました。
活動→課題→課題解決をくりかえし、試行錯誤するうちに、だんだんめざす塩に近づいていく喜びは大きいものでした。見て、さわって、味わってみて、試行錯誤の成果を五感で感じとることができました。それがすべての子に学習を保障し、意欲的な学習への取組みを可能にしたと考えています。
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