「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年5月号
 

食農教育 No.41 2005年5月号より

実際家の視点とアイデア …生活の科学………

豆腐づくりのなぞなぞパワー
にがーい呉汁が8分でクリーミーになる不思議

▼ 西村 文子

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 私は夫と二人で小さな体験農園を営んでいます。さまざまな方たちが伝統食料理をつくったり自然とふれあったりするのを求めて訪れてくれます。ときどき、学校へも出張。豆腐づくり、郷土食づくり、野草の学習、ツルでカゴつくりなど、内容はいろいろです。だいたい2時間続きの授業ですが、私も楽しみだし、子どもたちもワクワクして待っていてくれてます。

2時間でつくって食べて片づけて、オカラボールのおまけつき

 いまの子はやる気がない、しらけている、といわれますが、そんなことはありません。こちらのもっていき方次第だと思います。子どもたちはクイズやなぞなぞが大好き。出すほうも出されるほうもエキサイトして目が輝いていきます。正解でガッツポーズしても、はずれて椅子から転げ落ちておどけてみせても、心と脳をフル回転させた瞬間は、心身ともに爽快です。

 私のいちばん得意なのは豆腐づくり。一般には、なかなか上手にできない、時間がかかる、おいしくないときもある、とかいわれています。が、私の手順でやれば必ず感動してもらえますよ。2時間授業で、豆腐をつくって、オカラの揚げボールとゆとりがあればお菓子もつくって、食べて、片づけて。それでちゃんと時間内に終わるのですから。コツは、あまり煮すぎないこと、温度高め・ニガリ少しで固めることなどです。あとは、子どもたちを飽きさせずに引っぱっていくクイズの力でしょう。順を追って、不思議いっぱいの豆腐づくりのようすを紹介します。

切り干し大根にして保存しよう
子どもたちとオカラボールをつくる

いろんな豆で大豆の当てっこ

 豆は前日に水に浸しておいてもらいます。どんなふうに変化するのか、このときすでに期待感をもってもらえるからです。

 「豆腐ってなにからできてる?」「大豆ー!」。子どもたちは言葉ではちゃーんと知ってます。「じゃあ、どれが大豆かな?」。大豆のほかに、小豆やインゲン、花豆と、いろんな豆をガシャガシャさせて当てっこです。

 こうして場づくりしたところで、一晩水に浸けた豆と、もとの豆を比べてもらいます。大きくなって形もちがう。「何倍になってるかな?」「すごい! 3倍くらいになってる」「はじめは大きかったんだけど、乾燥して小さく丸くなったんだね。乾燥した豆はどうして丸いの?」「???」「宿題にするから、お家の人と考えてね」。実際に豆を落としてみて、タネがコロコロと転がって親の根元を離れていくことを確認したり、ほかのタネの形と比べてもいいのですが、ここは家族とのふれあいも兼ねてじっくり考えてもらいます。

呉汁の味見で知りたいパワーが沸騰

 さて、浸した豆をミキサーにかけます。色が白くなる。子どもたちはもう、「あれー? 色が変わったよ? どうしてかなー?」と、自らなぞなぞを出しています。呉汁を鍋に入れて煮ていきます。このとき、泡をなめて大豆の生の味をみてもらいます。「ペッ!」あまりのまずさに吐き出す子も。「でも、これがおいしい豆腐になるんだよ。いったい、いつ、どうして味が変わるのかな?」。

 そして、約8分煮ると吹きこぼれそうになります。味見してみると、甘くてクリーミーになっていて「おいしい!」。「どうして味が変わったのかな?」「煮たからー」「じゃあ、煮るとどうしておいしくなるの?」。少し考える間をおくと、子どもたちの知りたいパワーがふつふつと沸き起こります。そこで、ちょっと大げさに、「人間の歴史はね、食べられないものを食べられるように工夫を重ねてきたんだね。硬いものを軟らかく、厚いものを薄く、毒やアクを抜いたり。火や包丁を使って、価値のないものを価値あるものに変えているんだよ」と、火の役割、物質の変化などを伝えるのです。

豆乳・ニガリで、マジックのオンパレード

 いよいよ豆乳を絞るとき。子どもたちはガゼン張り切ります。けっこう疲れる作業が終わって、やっと味見。このとき、天然塩を入れるのですが、味見して塩で甘さが引き立つことを確認。調味料や隠し味の役割です。市販のものと比べると、格段においしく、きらいな子も飲める。「なにがちがうのかな?」「???」「売ってるのって、いつつくったのかな?」。そんな話をしながら、素材のよさ、山の水のうまさ、つくりたてのおいしさなどにも気づいてもらいます。当然、オカラも味見です。

 ニガリは、空腹時にはちょっとなめただけで気分の悪くなるときがあるので、味見するならごく薄めで。「ニガリってなに? なにからできてるの?」と子どもたちは必ず聞いてきます。製塩の過程でできること、タンパク質を固める力があることなどを説明。

 ニガリを入れたらあまり混ぜてはいけません。入れてちょっとするともう飲むヨーグルト状になっています。5分もおくと、大きなふわっとしたかき玉状になるので、またまた味見。おぼろ豆腐はもうできあがりの味に近く、これもおいしいです。

 すかさず型に入れて固めます。約5分で完成。豆腐を型ごと皿かバットの上にひっくり返して、型、布きんの順にはずしていくときは、まるでマジシャンの気分。白い布の下からなにがでてくるか!!

 ゆっくり布をはがすと、白い湯気の上がった豆腐が姿を現わします。大きな歓声があがる。すぐに味見です。甘くて豆の香りいっぱいの豆腐の味が口中に広がる。「おいしーい!」。もちろん、豆腐嫌いの子もパクパク食べます。

 こんなすばらしいマジックはそうそうあるもんじゃあない。つい30分ほど前まで豆だったものが豆腐になって出てくるのですから。しかも飛び切りうまい! オカラのおまけまでついてる! 「味がしない」と言ったオカラも、野菜や野草のみじん切りと小麦粉とで混ぜ、小さく丸めて油で揚げて、香ばしくておいしいスナックに。

 たった2時間のふれあいだけれど、生活のなかになぞなぞを発見していく楽しさを味わってもらえたかな? 〈食と農〉は子どもたちの「生きる力」を育む源泉。それは、身近な暮らしのなかにいっぱい詰っているなぞを発見し、解決していく営みだから。なぞの答えは、ほんの5分先の未来にあったとしても、答えを知りたい期待感が現在から未来をつないでいる。生活になぞを見出し、解決していく心地よさを積み重ねることこそが、もっと先の未来を、人生を切り拓いていく大きな力になると思うのです。体験農園や学校で、そんな力を育てるお手伝いができることを幸せに思っています。

(愛知県豊田市〈旧小原村〉)

木綿豆腐のつくり方

 わが家の豆腐づくりは約40分。短時間でできるのは、常識を疑い、ムダな工程を省いたから。呉汁はあまり長く煮ないほうが豆の香りが生きる(ふつうは弱火でじっくり)。高温でニガリを打つので5分で凝固(ふつうは15分)。ニガリが少ないので水にさらさない(ふつうは30分)。作業しやすいよう、道具や分量、段取りも工夫しました。

材料と用具(2丁分)

▼大豆350〜400g/天然ニガリ*(12.5ccを50ccの湯で溶く)/水(大豆を浸すのに6カップ、ミキサーに6カップ)/自然塩(小さじ1/2)
▼こし布/四角の型(ザル)/鍋(大きめを2つ)/ミキサー/ザル/しゃもじ *「食養ニガリ」1袋分:(株)天塩TEL03-3371-1521 どれが大豆かな?

(1)大豆をミキサーでつぶす

(1)大豆をミキサーでつぶす

あらかじめ3倍量の水に夏8時間、冬20時間大豆を浸しておく。家庭用ミキサーなら3回くらいに分けてつぶす。大豆はミキサーの半分くらいまで、水は上から5cmくらいまで入れ、2分間ずつミキサーにかける

(2)呉汁を強火で煮る

(2)呉汁を強火で煮る

呉汁を鍋に流し入れる。ミキサーを水1カップでよくゆすぎ、それも入れる。強火で鍋底をはがすような感じでよく混ぜながら約8分、吹きこぼれそうになったら火を消す(90℃)。泡が下がったら弱火で5分。最後に強火にして、沸騰したら火を消す(90℃)

(3)こし布で豆乳をしぼる

(3)こし布で豆乳をしぼる

別の鍋の上にザルを置き、こし布を広げ、呉汁をあけたら、下図のように力いっぱい押し込むようにしぼりあげる。大豆の甘さが引きたつよう、豆乳に天然塩を加える

(4)やや高温でニガリを入れる

85℃

豆乳を弱火にかけ、85℃で火を止める。ニガリを少しずつ入れ、静かにそっとかき混ぜると「飲むヨーグルト状」に。フタをして5分。そっと混ぜるとかき玉汁のような「おぼろ豆腐」に。豆腐の固まりと米の薄いとぎ汁のように分離していればOK。(分離していないばあいはニガリが少ないか、温度が低いか。冬場はごくごく弱火のままでもいい。むやみにニガリを足さないこと)

(5)おぼろ豆腐を型に流し込む

(5)おぼろ豆腐を型に流し込む

豆乳をしぼったこし布を洗わずに裏返して、鍋の上に置いたザルに広げ、おぼろ豆腐をあける。すぐに水気が切れるので、こし布ごと型に移し、上を平にならす。重石なしで約5分で固まる

(6)型を返してできあがり

ひっくり返す

こし布を持ち上げて、豆腐が固まっていたら、バットか皿を豆腐の上に伏せ、型ごとひっくり返す。マジシャンになった気分で、型、こし布の順にはずしていこう。湯気の立ち昇る豆腐が姿を現わしたら、みんなで拍手喝采、つまみぐい!

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