「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年5月号
 
チャイブ
チャイブ 筆者撮影

食農教育 No.41 2005年5月号より

教材への切り口 ハーブ

歴史・文化

ハーブの農業利用
―これまでとこれから―

陽川昌範

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 ハーブは「主として薬用、香料、料理用などに利用される機能性の高い植物または植物体部分」をさします。またハーブはヨーロッパ起原の植物と考えられがちですが、アジアを含め世界各地に生育しています。漢方薬に使われる植物は欧米ではチャイニーズ・ハーブとよばれていますし、日本でも昔から虫よけに使われてきた樟脳や料理用のシソやワサビはりっぱな日本産ハーブです。

◆香りで害虫をかく乱

 「香草」と訳されることがあるように、多くのハーブには香りがあります。人間は古くからハーブの香りをさまざまな分野で利用してきましたが、香りを感じるのは人間だけではありません。昆虫も作物の香りをかぎ分けて栄養物をとり入れます。農業分野でも、外国では古くから栽培現場の観察にもとづいた利用法が園芸家たちによって経験的に受けつがれてきました。

 たとえば、害虫のハムシ類やアオムシはキャベツの香りをかぎ分けて食べ、みずからの栄養物とします。ところがキャベツの間にタイムやセージのような香りの強いハーブを植えますと、これらの害虫はハーブの香りにかく乱されて、キャベツが食べられなくなります。その結果、産卵数が低下してキャベツの被害を少なくすることができるのです。

 国内でもハクサイやキャベツを定植するときに、ミントの仲間であるハッカの葉や茎を刻んだものを植え穴に入れて、アブラムシが近づけないように工夫している農家がいます。その科学的根拠はまだ十分わかっていませんが、高価な農薬が使えないインドやスリランカ、ネパールなどの一部の地域では、現在でもこのような目的でハーブが利用されています。

◆病気をふせぎ、品質を向上させる

 いくつかのハーブは、作物の病気に対しても防除効果を発揮することが経験的に知られています。ニンニクの仲間であるチャイブをバラの間に植えますと、バラに発生する黒星病の被害を軽くします。また、病害虫を防ぐだけでなく、バジルがトマトの風味を高め、ディルがキャベツの味を改善するなど、作物の品質が向上する例も報告されています。

 複数の成分をもつハーブは長年にわたってさまざまな分野で利用されてきましたので、基本的に安全性の高い植物です。しかし、なかには毒性の強いものもありますので、ハーブの安全性を過信することなく正しい使い方をぜひ守りたいものです。

◆学校ではミントがおすすめ

 学校でハーブを教材として使う手軽な方法としては、入手しやすいキャベツとミントをプランターなどに植え、それらを交互に置いて虫の近づくようすを観察するのはいかがでしょう。

 一般に残留期間が短く安全性の高いハーブは、農業分野の特長ある素材として、今後多くの用途開発が期待されています。

(元日本農薬株式会社総合研究所)

表 害虫の忌避作用がみられるハーブ類
Bremness,Kowalchikら、Mabeyを参考に陽川まとめ
(陽川昌範2001、農業分野におけるハーブの利用と課題、『農業および園芸』、76巻第2号、P243 -248より)
ハーブ名 害虫名
シソ ペパーミント アブラムシ、カメムシ、コナジラミ、アオムシ、ハムシ、アリ
スペアミント アブラムシ、カメムシ、ハムシ、アリ
セージ タネバエ、アオムシ、キャロットフライ
キャットニップ アブラムシ、トスジハムシ、ウリハムシ、マメコガネ、カメムシ
バジル ウリハムシ、スズメガの幼虫
ヒソップ アオムシ
タイム コナジラミ、アオムシ
ローズマリー ヒメコガネ、キャロットフライ
ボリジ スズメガの幼虫
ペニーロイヤル アオムシ
セリ コリアンダー アブラムシ、ハダニ、トスジハムシ
フェンネル アブラムシ
パセリ ウリハムシ
ディル アオムシ、スズメガの幼虫
セイボリー ヒメコガネ
キク タンジー マメコガネ、カメムシ、トスジハムシ、アオムシ、アリ
ワームウッド タネバエ、キャロットフライ、シンクイガ、ハムシ、コナジラミ、アリ
サザンウッド シロチョウ、ハムシ、アオムシ
マリーゴールド アブラムシ、タネバエ、ウリハムシ、ヒメコガネ
ユリ チャイブ アブラムシ、マメコガネ
ガーリック アブラムシ、タネバエ、シンクイガ、アオムシ、マメコガネ、コスカシバ
タマネギ キャロットフライ、トスジハムシ、アオムシ
フトモモ ユーカリ アブラムシ、トスジハムシ
ノウゼンハレン ナスターチウム アブラムシ、トスジハムシ、ウリハムシ、アオムシ、カメムシ、コナジラミ、リンゴワタムシ
ミカン ルー ウリハムシ
アブラナ マスタード アブラムシ
フウロソウ センテッドゼラニウム アオムシ、ツマグロヨコバイ
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