「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年4月増刊号
 

食農教育 No.40 2005年4月増刊号より

加工の知恵を生かす

茶摘みから製茶まで短時間で体験できる
「電子レンジ茶」

埼玉・入間市博物館 工藤 宏

みどりの手からお茶の香りが

 「レンジでお茶をつくるのは、わたしは、はじめてでした。心の中でうまくいくかな? て、心配していました。でも、うまくつくれてよかったです」「みんながんばってつくったので手がみどり色になりました。手のにおいをかいでみたら、お茶のにおいがしました」「家でお茶をつくりました。兄と父と母と弟がおいしいと言ってくれました」

 これらは、「電子レンジ茶づくり教室」に参加した埼玉県日高市立高麗小学校3年生38人が、私に寄せてくれた感想文の一部である。これらの文章の端々には、活き活きとした生徒たちの体験談が記されていて、授業の雰囲気がじかに伝わってきた。

体験学習からお茶の普及へ

 入間市博物館は、狭山茶の主産地に立地しているため、お茶をメインにした運営を行ない、博・学連携の分野でも、お茶に関連したさまざまな事業を展開している。たとえば、学芸員が「出前授業」と称して、小学校から大学まで出かけ、博物館の特性を発揮した授業を行なっている。この出前授業メニューの一つが、私の実践している「電子レンジ茶づくり」である。私が平成16年から「レンジ茶づくり」を考案し、出前授業に生かしていこうと思ったのは、次のような理由からである。

(1)これまで行なわれてきた茶摘み体験、茶づくり体験授業を改善し、総合的な学習の効果をより高めていきたい。

(2)お茶への興味がふくらみ、これを日常生活に取り入れ、お茶が日常茶飯の生活スタイルになるようにする。

(3)お茶という飲み物を通じて、健康づくりを進めていきたい。

子どもたち
子どもたち
お茶を揉み、撚りをかける
子どもたち
仕上がったお茶

茶づくりの真髄を体験させたい

 さらに、狭山茶の産地内の学校では、地場産業を知る、製茶の伝統技法を体験して先人たちがつくり上げてきた技にふれる、茶室体験を通じて茶道の理念を日々の生活に具現化する、お茶の入れ方を経験してお茶に興味を抱き、お茶好きにするなどを、お茶に関係する総合的な学習の目的にすえて実践している。

 ところで、実際のお茶の体験は、生徒の人数、授業時間の制約、道具類の確保、茶農家や茶工場の協力体制など、多くの解決すべき課題が山積していて、多くの学校では、茶摘み体験や茶工場での製造工程の見学にとどまっている。伝統的な茶づくりができるとしても、製茶器械は1〜2台程度と限られているし、しかも熟練した茶師が4kgの生葉をいくつもの工程を経て製茶にするまでに、4〜5時間が必要である。だから、子どもたち全員が、すべての工程を体験することは、とても不可能であり、工程のごく一部をほんの少し体験するだけにとどまっているのが現状である。

電子レンジ茶づくりで製茶を体験

 このような現状では、生徒の体験はうわべだけにとどまり、お茶づくりの技に対する習熟度は浅く、しかもお茶への興味は広がっていかないであろう。

 私は、かねがね茶産地の特性を生かして、児童全員が茶摘みから製茶、そして喫茶、さらには家庭でも茶づくりを再現できないかと考えてきた。これができると、児童一人ひとりが最初から最後まで成し遂げたという達成感を味わえるものとなり、またお茶への興味もいっそう増幅されるのではないか。そこで考案したのが、「電子レンジ茶づくり」であった。

 なによりも、私の考案を具現化するためには、

(1)長時間拘束されないこと、

(2)製茶工程に関しては伝統的な製茶方法や機械製茶の一連の方法を擬似的に体験できること、

(3)小学校三年生くらいの児童でもできる簡単な工程で、家庭でも再現できること、

 以上のような条件が達成されなくてはならない。この製茶方法は、茶摘みと組み合わせることによって、茶摘み、製茶の過程をトータルに体験することができるし、短時間で仕上げることができる。最近、ホットプレートを使った茶づくりも見受けられるが、これよりは火傷などの心配も少なく、また茶葉の加工時間が短く、焦がすこともほとんどなく、仕上がり具合の香りや色もよく、撚りのきれいな形のものとなる。

仕上げを左右するチームワーク

 高麗小学校では200gの生葉でレンジ茶をつくる体験をさせた。事前に学校の近くの茶畑で摘んだ生葉は、香気を出すために1時間ほど萎凋させたあとに、1グループ4〜5人で8班にして、レシピにしたがって茶づくりをしてもらった。電子レンジの使用は、製茶工程最初の蒸す状態の再現と、次の揉み・撚り・仕上げ過程(粗揉・中揉・精揉)の乾燥処理に活用し、揉みと撚りの工程は家庭科室の調理台にゴザをガムテープで止めて、その上で行なった。揉みと撚りの作業には、作業が進むにしたがって、生葉の硬さの具合や乾燥具合を体で感じながら、力を加減するていねいな手さばきが求められる。仕上げまでの所要時間は、1時間15分ほどだった。

 班のチームワークがよくお互いに協力し、ていねいに揉みや撚り作業をしたところは、大人顔負けのお茶に仕上がり、反面、手加減をせず、力任せに作業した斑は、焦がしたり、お茶を粉々にしてしまったりした。生徒たちはこの作業を通して、チームワークの大切さやつくり方のコツを体でつかんだようだ。作業の後は、手づくり茶で茶会。「にがいけど、おいしい」とお代わりをする光景には、自分たちでつくり上げた達成感がみなぎっていた。

 授業の後、余ったお茶は、1袋ずつパック詰め(10gほど)にしたものと、生葉200gほどをお土産にした。これは、学校での体験が個々の家庭に、どのように波及していくかを確かめるために行なったのだが、その効果はかなり大きかった。パック詰めのお茶を飲みながら、茶づくり体験を家族の話題にしただけでなく、家庭でレンジ茶づくりを再現した生徒が、クラスの半数以上にも及んだのである。

200gの生葉で電子レンジ茶をつくる

茶葉

(1)摘んできた茶葉をござにひろげて、1時間ぐらい陰干しをします。酸化酵素の活動が活発になり、よい香りが出てきます。

(2)お皿の上にキッチンペーパーをしいて、その上に100gの茶葉をおき、ラップをかけて電子レンジに強で3分間かけます。残りの100gも同様にします。

電子レンジにかける

(3)ござの上に電子レンジにかけた茶葉をちらしたら、キッチンペーパーで軽くおさえて湿気をとり、4〜5分間冷まします。

冷ます
揉む

(4)冷めた茶葉をまとめて、手のひらでゴシゴシござに転がすように揉みます。葉がネバネバするくらい繰り返します。(3分間)

(5)固まった茶葉をほぐして、ふたたびお皿の上にキッチンペーパーをしいて、茶葉をちらして、電子レンジに強で2分間かけます。

ほぐす

(6)茶葉をほぐしながらござにちらして冷まし、まとめて両手でひろいあげて、手の中にある茶葉を両手のひらでこすりながら針状にし、固まった茶葉をほぐしてまた針状にします。針状になってきたら、少しずつ手の力を加減していきます。(3分間)

針状にする

(7)(5)と(6)を3回繰り返します。

(8)仕上げにお皿の上にキッチンペーパーをしいて、その上に茶葉をちらして、電子レンジに強で3分間かけます。茶葉の茎が「ポキン」と折れるようになったら完成です。200gの生葉から約40gのお茶ができます。

電子レンジにかける
茶缶に入れます

(9)レンジから取り出した茶葉はよく冷ましてから、茶缶に入れます。

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