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Ruralnet・農文協食農教育2004年4月増刊号

食農教育 No.33 2004年4月増刊号より
[特集]給食を生かす授業づくり12ヵ月

12月 食べものから環境へ
土着菌で、学校給食をゼロエミッションに!

熊本・高森町立高森東中学校 浅野一登

給食残滓の堆肥化を続けて10年

給食調理場からの残滓にボカシ
写真1 給食調理場からの残滓にボカシをまぶして混ぜ合わせているところです。それを10日間ほど放置します。その間に堆肥化が進みます。堆肥化が進むと甘酸っぱいにおいがします

 本校には、給食調理場が併設されています。そこでは、近辺の4小中学校160食分の給食残滓が、毎日大型バケツ一杯分だされます。

 そこで、この残滓に市販のEM菌でつくったボカシを混ぜ合わせ、堆肥化するという活動を、平成6年度から行なってきました。その堆肥を使って作物や花を育てます。できた農産物は、郷土料理の調理実習や給食調理場の食材として利用してきました。

 10年もの間、このような活動を継続してこられたのは、すばらしいことです。しかし一方で、職員も生徒も当たり前のことになっていて、その大切な意味が忘れられがちになっていました。

 そこで、平成12〜13年度、県の環境教育推進校に指定されたことを機に、自分たちの活動を再認識することにしました。13年度には、1年生が地域の産業である“農業”をテーマとし、給食の残滓でつくった堆肥で作物を育てました。2年生はEM菌のほかに環境浄化に役立つものはないかと“竹炭”について。3年生はEM菌による環境浄化活動を“地域に広める”ことをテーマとしました。

よいことだから広めるではダメ

 3年生の活動は、ビデオやパンフレットをつくることから始めました。監督、カメラマン、ナレーター、役者などを決めてビデオ撮影。NGの連続に苦戦しつつも、二十日ダイコンを植えて実験するシーンを撮るなど工夫をこらしました。地域のヒョウタン愛好家のみなさんがEMの消臭効果に目をつけ、ヒョウタンの水付けの段階で利用したい、との依頼を受け、中学生によるEM講習会も開くなど、地域への広がりに生徒たちも手ごたえを感じていました。

 ところが――。10月の保護者への中間発表会や、11月に県下の先生方を招いた研究発表会で、厳しい意見がありました。

 「だれに伝えようとしているんですか? なにを伝えたいんですか?」

 「本当にいいの? 安全ですか?」

 基本的な問題の指摘に答えることのできない生徒たち。こちらから、「厳しい意見をお願いします」と、あらかじめ依頼しておいたのですが、生徒たちには相当こたえたようです。一時はへこみましたが、冷静になってみると、今やっていることに満足しがちであったことに気づき、なんのためにやっているのかを見つめ直す必要性を感じたようです。

 生徒たちは、疑問に答えようとがんばりました。ビデオやパンフレットは、「おもしろいもの」から、内容を絞り込んだ「わかりやすいもの」へと変えていきました。しかし、EM菌の安全性については、会社や研究所に問い合わせましたが、企業の壁や自分たちの不十分な理解力もあり、自信をもって「安全です」とは言えませんでした。

土着菌が校長室で爆発

 この課題に応えるのは私たち教師であると受け止め、解決策を考え始めました。そこで注目したのが、“土着微生物(土着菌)”です。山には、落ち葉や動物の死骸が積もっていくのに、悪臭はただよっていません。これらを常に分解してくれる土の中の微生物がいるからです。分解された腐葉土はすばらしい肥料になります。

 地域の自然から採集した有用微生物を地域の環境浄化に役立てる。これなら、誰の目にも安全な環境浄化活動になると考えたのです。資料を探すうちに、『土着有用微生物を活かす』(趙漢珪著、農文協)という本に出合いました。自然農法の本で土着菌の採取のし方やふやし方が書かれています。

 平成十四年度は、それを手本として私がやってみることにしました。最初、学校のそばの林から採取した菌に、黒砂糖と水を混ぜてペットボトルに密封して校長室に保管しました。数日後、発生した二酸化炭素の圧力で爆発。校長室に液が飛び散る騒動を起こしたこともあります。そうこうしながら、なんとか土着菌を採取してふやすことができました。

 明くる15年の4月のことでした。「校長先生の土着菌を私たちの手で続けていくために研究させてください」。3年生が言ってきてくれたのです。私のやっていることをしっかり見ていてくれたんだな! とうれしく思いました。昨年の土着菌の爆発は日曜日で、それを片づけてくれたのも部活動に来ていた3年生でした。こうして、3年生の総合的な学習の時間のテーマは“土着有用微生物”となりました。

ひめゆりECO菌の研究

給食調理場からの残滓にボカシ

 まず、3年生から全校生徒に呼びかけ、土着菌の名前を募集し、“ひめゆりECO菌”と名づけました。阿蘇高原にある本校では、7月には赤いひめゆりが咲きほこります。ECOとは、ECOLOGYの略ですが、頭のEは高森東中学校の東(EAST)の頭文字でもあります。

 研究テーマは「ECO菌の集め方・ふやし方」「ECO菌の保存のし方」「ECO菌は市販のものと同じ働きをするのか」「川にECO菌はいるのか」など。趙漢珪先生の本を参考に進めますが、校長室にも何度も来てくれて研究の進め方について相談を受けました。もちろん、指導する先生方にもその本を読んでもらいました。

集め方

 杉林や竹林の中で集めました(98頁図解記事参照)。ふつうごはんを杉の弁当箱に入れて、数日間おいておきます。すると、カビ状のECO菌がごはんに付着します。生徒たちはさまざまな方法を工夫して、ECO菌を採取していきます。前年に私が失敗したパンで集める方法では、パンを焼くことで虫に食べられなくなり、ECO菌を集めることができました。しかし、やはりごはんで集めるのがいちばんよいこともわかりました。

 集まったECO菌はカビが生えたようになりますが、悪臭はまったくなく、甘酸っぱいにおいがして有用発酵していることがわかりました。

ふやし方

 ふやし方では、ECO菌のついたパンやごはんに黒砂糖と水を加えてふやします。その水と黒砂糖の適切な量を決めました。そうしてできたものを「ECO原液」と名付けました。

保存のし方

 発酵したECO原液を保存するには、同量の黒砂糖を加えて、ECO菌の活動を休眠させます。

 これも、量を加減したり、ほかの糖を使ってみたりしました。ザラメ、グラニュー糖、煮砂糖、白砂糖など、どれを使ってもECO菌が保存でき黒砂糖や糖蜜の代わりになりました。

EM菌との比較

 抗酸化作用やきれいにする力、pH、CODなどを手がかりに研究をしました。ECO原液でも鉄サビが落ちて抗酸化作用を確かめることができました。比較の結果、ECO菌は市販のものとほぼ同じ働きをすることがわかりました(前頁図参照)。

川の浄化は、その川の土着菌で!

大谷川から取ってきた水と落ち葉にごはんと黒砂糖を加えたもの
写真2 大分県の大野川の祖母山系支流の大谷川から取ってきた水と落ち葉にごはんと黒砂糖を加えたものです。これを密閉しておくと大谷川の有用微生物がふえます。甘酸っぱいいい香りがしてきたら成功です

 「川にECO菌がいるのか?」という課題には、参考資料がなにもありませんが、「川をきれいにするには、その川の有用微生物でなければ!」ということで採集を試みました。

 川原にあった落葉と、川の水、黒砂糖、ごはんを容器に入れました。川には流れがあって、たえず空気が送り込まれていると考え、ポンプで空気をブクブク送り込んだところ、しばらくすると、いやな臭いがしてきました。腐敗が始まりECO菌の採集は失敗。そこで、同じものを空気なしで密閉した容器に入れておくと、有用発酵の甘酸っぱい匂いがしました。川のECO菌の採集に成功したのです!

 川の環境を考えて空気を入れたのですが、空気中の悪い微生物もいっしょに送り込んでしまう結果となったようです。3年生なので、残念ながら時間がなく、川のECO菌をふやして川をきれいにする活動まではいきませんでしたが、「川に流すのであれば、その川の有用微生物でなければならない」というすばらしい提案をしてくれました。きっと後輩が引き継いでくれると願っています。

 現在(平成16年2月)、研究を終えて、ECO菌を本校で活用していくためのパンフレットを後輩のためにつくっています。これからは子どもたちの手でECO菌を採集して、自信をもって環境浄化活動に取り組むことができるでしょう。

排水溝、プール……、学校まるごとゼロエミッションへ

 本校でこのような環境浄化活動が始まったのは、大分県の大野川や宮崎県の五ヶ瀬川の源流が校区にあり「源流に住む者として、汚い水は絶対に流さない!」という生徒たちの誓いがあったと聞いています。それから10年が過ぎようとしていますが、しっかりといまの生徒たちに受け継がれています。

 収穫された作物は、ほんの一部ですが、安全・安心の食材として給食にも利用しています。――→給食→残滓→堆肥→農産物(食材)→給食→残滓→堆肥→農産物(食材)→給食→――という循環です。

 また、牛乳ビンのすすぎ水もECO菌で分解して排水溝に流しています。ECO菌は牛乳のすすぎ水を食べてふえるので、排水溝をきれいにする力も強くなっています。多量の水を流すプールの掃除ではこれまでEM菌を使っていましたが、平成16年度は川のECO菌を使う予定です。プール掃除の排水が、これまでよりもっともっと五ヶ瀬川をきれいにしてくれるはずです。

 総合的な学習の時間を、農業・環境問題・給食(食育)をテーマとして継続的に取り組んできました。前年度のテーマとその研究の足跡から課題が提起され、次年度のテーマを決めることになります。生徒数41名の小規模校で他学年の研究のようすがよくわかったり、中間発表や学習成果発表会をもつことで、成果や課題を共有することができ、このような流れをつくることができたと思います。今後もこのよさを生かして、課題追究の意欲を引き出していきたいと思っています。


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