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Ruralnet・農文協食農教育2004年4月増刊号

食農教育 No.33 2004年4月増刊号より
[特集]給食を生かす授業づくり12ヵ月

1月 食のデザインから販売へ
地域をアピールする弁当をデザインし、販売する

新潟・西山町立二田小学校 山之内 知行

 米どころ新潟。刈羽平野の田園地帯西山町においても、米を扱い、「食」をテーマにした総合的な学習を行なうには最適の環境である。

 しかし、田植えや稲刈りを体験し、米ができたら収穫祭……というワンパターンの活動では、子どもたちにとって、興味深く奥深い総合にはなかなかなっていかない。もっと、子どもたちが、地域の「ひと」「もの」「こと」に積極的に関わっていきながら生き生きと活動でき、地域の「食」について関心を持つような学習はできないものか。

 このような思いから、平成14年度の5年生(学級名「すまいる」、23名)と「西山アピール大作戦―すまいる特製西山弁当を作ろう」の実践を試みた(90時間)。

自分たちがデザインした弁当が学校給食のメニューに

弁当会議
弁当会議
試作した弁当を前に、弁当チェック表を使って改善点を出し合う

 子どもたちは四年生までも地域学習を進めてきた。西山町が大好きで、「西山町を有名にしたい!」という強い思いから、学習のテーマを「西山アピール大作戦」とした。そこで西山町のイメージマップを書いたり、どうやったら町をアピールできるか話し合ったりした。そんななか、「そういえば、西山町には駅が3つもあるけど、駅弁ってない。みんなで駅弁(弁当)を作って、アピールしよう」というある子どもの意見から活動がスタートした。当初は駅弁を作るということであったが、のちの話し合いで、駅に限定せず、たくさんの場所で売れる弁当を作ろうということになった。

 その後、米作りから、食材探し、祖父母学級での郷土料理への挑戦、西山町イメージアンケートなどを経て、たくさんの弁当のアイデアから「夕日弁当」「まがたま弁当」「白鳥弁当」の三つの弁当に絞り込んでグループで試作に取り組んできた子どもたち(106〜107頁の囲み記事参照)に、弁当の販売のところで大きな障害が立ちはだかった。

 3回の弁当会議(弁当がよくなるように批評し合う会議)を終え、いよいよ販売に向けてアピール作戦の開始。販売できなければアピールはできないのだ。まずは、弁当が本当に販売できるのか許可を得ることになった。ところが、環境衛生課にお聞きしたところ、食材の出所、調理場所や調理時間など「衛生面でさまざまな課題が多すぎる」と厳しく指導を受け、自力での販売の夢は絶たれてしまった。

 しかし、「一生懸命作った弁当をぜひ実現したい」という子どもたちの強い思いから、二つの作戦が考え出された。一つめは、学校給食に出してもらうこと。二つめは、弁当業者にお願いして販売することである。

「まがたま弁当」についてアドバイスをいただく
阿部栄養士さんから「まがたま弁当」についてアドバイスをいただく

 一つめの作戦、学校給食については、栄養士さんにお願いしてみた。栄養士さんからは「学校給食だから、値段、栄養バランス、調理のしやすさなど、手直ししなくてはいけない点もありますが、なるべく君たちのアイデアを生かして考えてみます」という返事をいただいた。そして後日、子どもたちの考えた弁当の栄養分析をグラフに表わし説明してくれたうえで、「こういうメニューであれば給食に出せますよ」と実際のメニューを提示してくれた。品数や量などが変わっていたものの、子どもたちのアイデアを十分に生かしてくれたメニューに、子どもたちは喜びでいっぱいだった。

 のちに月に一回、三種類の弁当メニューが学校給食に登場することとなった。

 

子どもたちが試作した
3つの弁当

 

   
「夕日弁当」  
  「夕日弁当」
中央のハンバーグとごはんにちらしたサケフレーク(上)で、石地海岸に沈む夕日を表現した
 
  「まがたま弁当」  
  「まがたま弁当」
梅干をちらしたごはん(左)とコロッケ(右上)で勾玉を表現。坪の内遺跡では県下最大級の勾玉が発掘されている。中央には味の良い茶豆も
 
  「白鳥弁当」  
  「白鳥弁当」
中央ののりとごはんで大池に飛来する白鳥を表現。郷土料理のおこわだんごやのっぺも
 
   

プロの業者に弁当のアイデアを売り込む

 こうして迎えた1月。二つめの作戦、弁当業者については、地元の弁当業者にお願いしてみることにした。弁当業者は「地元に貢献したい」と前向きな姿勢であったが、いくつか条件を呈示された。弁当は事前注文制で、一日限定販売とすること。弁当の種類は一種類とすること。この条件に子どもたちは「弁当が一種類というのが厳しい」という反応だった。「せっかく三グループで作ってきたのに、一種類しか販売できないなんて……」という理由からだ。かなり悩み、意見も割れたが、討論の結果、三種類の弁当のよいところを合わせ「スペシャルバージョン弁当」として新たに融合して作ることに決まった。

 弁当業者との交渉が始まった。子どもたちのスペシャルバージョン弁当のアイデアを元に、弁当業者が試作品を作ってきてくれたのだ。「大きさはこれくらいでちょうどいいな」「のりは石地海岸ののりを使いたいな」「まがたまコロッケの発掘しながら食べるアイデアはいいね」など試作品を前に、業者への要望や意見を出し合った。子どもたちの「西山らしさを出そう」とする気持ちが意見として表われてきた。弁当業者も子どもたちの意見を最大限に生かそうとしてくださった。しかし時期的なこと、従業員の数や手間などから、産地を指定した食材や旬でない食材、手作りの物などあきらめなければならない面もあった。

地元のテレビに出演
地元のテレビに出演。緊張気味の私と伸び伸びと弁当をアピールする子どもたち

 いよいよ、交渉も大詰め。販売日は3月9日(日)、値段も一個600円(一個売るごとに10円の利益)、ネーミングは「西山まるかじり弁当」と決まった。さっそく、注文書係、広報ポスター係、パッケージ係、説明ブック係と各担当に分かれアピール作戦を開始した。

 運良く地元新聞社「柏崎日報」に記事を載せていただき、より多くの方にアピールすることができた。また、この記事の掲載がきっかけとなって、テレビ出演の依頼があり、子どもたちと私が生出演。さらに多くの方に西山まるかじり弁当を、そして西山町をアピールすることができた。

いよいよ弁当販売当日

 3月9日。弁当販売の日。551個の注文をいただき、弁当が届く。自分たちで考えたこだわりの弁当。今までの苦労があるから、一品一品に思い入れがある。自分たちの育てたコシヒカリも使ってもらった。お客さんに質問されてもちゃんと説明できた。パッケージや説明ブックも手作りだ。買ってくれたお客さんとふれ合いながら、さらに成就感を感じていく子どもたち。興奮さめやらぬなか、無事完売となった。

弁当販売当日
弁当販売当日。売り場は大盛況

 販売が終わったあと、みんなでお弁当を食べた。夢の実現に子どもたちの顔は誇らしげだった。

弁当作りには「総合的な力」が必要だ

 「弁当を作る」ために、これほどまでに、多くのことを考えなくてはいけないものかと驚いた。食材、値段、味、色合い、時期、パッケージ、量、栄養面、地域性……これら「食」の要素を取捨選択し、デザインしていく作業は、相当の総合的な力が必要になってくる。自分たちで作って弁当を販売するとまではいかなかったが、子どもたちにとっては弁当を作り上げていく過程で多くのことを学ぶことができた。「弁当」は本当に総合性のある、奥が深い教材であると感じた。

「西山まるかじり弁当」
3つの弁当の持ち味をミックスして「西山まるかじり弁当」が完成。パッケージも自分たちでデザインした

 この実践では、子どもたちの熱意が通じ「弁当を販売し、西山町をアピールする」という目標が達成できたことが、何よりの目に見えた成果であった。しかし、目に見えないながらも学んだことも多かったのではないだろうか。実際、子どもたちの感想からも「あきらめずにやりとおすことの大切さを学んだ」「一つのことを達成するだけでも、いろいろな人に協力してもらわなければいけないんだということに気づいた」「私はこの西山町に生まれて住んでいるけど、今まであまり西山町のいいところは考えたことがなかった。でも西山町はすごくいいところだなあということを感じた」などと心情面においても、やりとげることの大切さ、人との関わり、郷土への心……など一人ひとりの心に何かしらの変化が読みとれた。

 弁当ができるまでの、米作り、食材探し、郷土料理作り……など、西山町の人や食、農、自然に体当たりでふれ合ってきたからこそ、西山弁当へのこだわりや、やりぬく熱意が生まれてきたのだと思えてならない。

 今後も、地域を知り、地域に親しみ、地域に働きかける活動を根本に、地域の「ひと」「もの」「こと」に積極的に関わっていけるダイナミックな食育を行なっていきたい。


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