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食農教育 No.32 2004年3月号より
なぜ白毛もち米作りなのかクラス替えをした四年生のとき、冬組の子どもたちは、長野社会見学で県立歴史館を見学したことをきっかけに「ぼくたちも、昔の家を作って泊まりたい」と自分たちの活動を決め出した。そして借りていた畑の隣に竪穴式住居を作った。柱を立て、骨組みを作り、河原でアシを刈り取り屋根を葺いた。完成した家で泊まったり、火起こしに挑戦したり、炉を作り縄文クッキーを焼いて食べたりと古代の人々の生活を追究していった。 五年に進級した子どもたちは「畑のほうまで昔を広げたい」「昔の人の家のそばだから、昔のお米を作りたい」と考えた。さっそく赤米や黒米などを調べたり黒米で炊いたお赤飯を持ってきて食べたりした。そうしたなか、宏美さんが「白毛もち米というおいしいけれど背が高くて作りにくい昔のお米がある」とみんなに紹介した。話し合っていくなかで、私は白毛もち米の稲穂と白毛餅を提示した。絶滅しそうな米であることや、焼いて食べた白毛餅がとても甘くておいしかったことなどから、子どもたちは「このお米にチャレンジしてみたいです」と白毛もち米作りを決めていったのである。 活動を支える素材研究四年生のとき、古代にかかわる活動をしてきた子どもたちが五年生になったら、古代米に目が向くだろう。では古代米作りを通して子どもたちはどんな活動をし、何を学んでいくのだろう。五年生の教科との関連も含めて材の価値を検討すること、すなわち素材研究が大切になってくる。赤米か黒米か、それとも白毛もち米か。ウェビングも作ってみる。白毛もち米の素材研究を進めていくと、表のようなことがわかってきた。「なぜ絶滅しそうだったのか」「なぜ絶滅から救おうとしている人たちがいるのか」「なぜ三峰川などの沿岸の水口で作られていたのか」「菓匠しみずや亀まんで白毛もち米を使っているのはなぜ……」。これはおもしろい。白毛餅のパッケージには「幻の白毛もち米」。未知なる白毛もち米に私自身がひかれた。そこで子どもがいくつもあげるであろう古代米のなかで、白毛もち米を支援しようと考えたのである。
どうして天竜川沿いでは作られなかったんだろう
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60年ほど前の白毛もち米栽培分布図 |
白毛もち米の田んぼ |
「もち米は冷たくてもあたたかくても作れる」
「うるち米はあったかくなくちゃいけないから」
「白毛もちのほうで温めて、それがうるち米のほうへ流れていくってことじゃないの」
「白毛もちはうるち米のカバー。うるち米はあたたかくなくちゃいけなくて、白毛もちは冷たくてもいいから冷たい川の水口のところに作った」……
子どもたちは、うるち米の青立ちを防ぐために水温の低いアルプスから流れる川の水口に白毛もち米を植えたという先人の知恵と、冷たい水にも強いという白毛もち米の特長に気づいていったのである。子どもたちが事実に出会ったとき、そこに「なぜ?」「おかしいな」というずれや不可解さがあると、それは学びの芽となる。どこに学びの芽があるか、つまずきが起きるかなどは、素材研究のなかである程度見えてくるように思われる。
しかし、子どもたちが主体となって活動を展開していくと、私が予測していない問題が出てきたり、予想を超えた展開になったりすることももちろんある。
浮き草は敵か味方か話し合う | |
たとえば「白毛もち米は古代米だから」「安全なほうがいい」と考えた子どもたちは、農薬や除草剤を使わなかった。すると冬組の田んぼには、当然のようにヒエをはじめとする雑草や浮き草がいっぱい出てきた。雑草はみんなの意見が一致して取っていった。ところが、浮き草については「日光をさえぎって水温を下げてしまうので取ったほうがいい」という意見と、「本を調べたら『浮き草には抑草効果がある』と書いてあるから取らない」、という意見とに分かれ、「浮き草は敵なの? 味方なの?」という話し合いが行なわれた。
また、自分たちの手でやることにこだわった(前頁の作文参照)子どもたちは、脱穀も割り箸で穂をはさんで取ったり、ペットボトルのふたに穴をあけて稲穂を通してしごいて取ったりしていた。もみ一粒一粒を実感することができた。しかし、試行錯誤しながら10時間かけて54kgしか脱穀できなかった。
こうしたとき、どうしていくかを決定するのも子どもたち自身である。浮き草については、抑草効果はあるかもしれないけれども、水温低下が心配だから取ることにした。脱穀については「早く脱穀しないとおいしくなくなる」「足踏み脱穀機を使えば早くできる」と自分たちの手でやることに限界を感じ、足踏み脱穀機を使うよう軌道修正をしていった。
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(注)六年冬組の年間学習計画は次頁に掲載したほか、ルーラル電子図書館食農教育コーナーの「取材こぼれ話」にも収録しています。