農文協  
食と農の学習の広場ルーラル電子図書館田舎の本屋さん
Ruralnet・農文協食農教育2004年3月号

食農教育 No.32 2004年3月号より
[特集]計画づくりは「振り返り」から

●振り返り●
「幻のもち米」を追って五年から六年へ
素材研究と「学習の歩み」を手がかりに

長野・伊那市立伊那小学校 伊藤 道彦

白毛餅との出会い。「こんなにのびる」「甘くておいしい」
白毛餅との出会い。
「こんなにのびる」「甘くておいしい」
表 白毛もち米の素材研究
※実際にはもっと詳しく多岐にわたる
1特性
(1)おいしい。
(2)在来種で古代米と考えられている。
(3)上伊那地方にしか栽培されていない。
(4)背丈が高い(1m50cm)
(5)絶滅しそうである。
(6)昔は田んぼの水口に作られていた。
(7)三峰川などの沿岸で作られていた。
(8)現在白毛もち米を守ろうとしている方がいる。
(9)収穫量はあまり多くない。
(10)もみに芒と言われる3〜5cmの白い毛があり、名前の由来となっている。
(11)菓匠しみずや亀まんで和菓子に使われている。……

なぜ白毛もち米作りなのか

 クラス替えをした四年生のとき、冬組の子どもたちは、長野社会見学で県立歴史館を見学したことをきっかけに「ぼくたちも、昔の家を作って泊まりたい」と自分たちの活動を決め出した。そして借りていた畑の隣に竪穴式住居を作った。柱を立て、骨組みを作り、河原でアシを刈り取り屋根を葺いた。完成した家で泊まったり、火起こしに挑戦したり、炉を作り縄文クッキーを焼いて食べたりと古代の人々の生活を追究していった。

 五年に進級した子どもたちは「畑のほうまで昔を広げたい」「昔の人の家のそばだから、昔のお米を作りたい」と考えた。さっそく赤米や黒米などを調べたり黒米で炊いたお赤飯を持ってきて食べたりした。そうしたなか、宏美さんが「白毛もち米というおいしいけれど背が高くて作りにくい昔のお米がある」とみんなに紹介した。話し合っていくなかで、私は白毛もち米の稲穂と白毛餅を提示した。絶滅しそうな米であることや、焼いて食べた白毛餅がとても甘くておいしかったことなどから、子どもたちは「このお米にチャレンジしてみたいです」と白毛もち米作りを決めていったのである。

活動を支える素材研究

 四年生のとき、古代にかかわる活動をしてきた子どもたちが五年生になったら、古代米に目が向くだろう。では古代米作りを通して子どもたちはどんな活動をし、何を学んでいくのだろう。五年生の教科との関連も含めて材の価値を検討すること、すなわち素材研究が大切になってくる。赤米か黒米か、それとも白毛もち米か。ウェビングも作ってみる。白毛もち米の素材研究を進めていくと、表のようなことがわかってきた。「なぜ絶滅しそうだったのか」「なぜ絶滅から救おうとしている人たちがいるのか」「なぜ三峰川などの沿岸の水口で作られていたのか」「菓匠しみずや亀まんで白毛もち米を使っているのはなぜ……」。これはおもしろい。白毛餅のパッケージには「幻の白毛もち米」。未知なる白毛もち米に私自身がひかれた。そこで子どもがいくつもあげるであろう古代米のなかで、白毛もち米を支援しようと考えたのである。

白い芒が特徴の白毛もち米
白い芒が特徴の白毛もち米

どうして天竜川沿いでは作られなかったんだろう
〜予想された学習課題〜

 子どもたちは5aほどの畑を田んぼに作り変え、代かきなどをして田植えの準備を進めた。並行して、白毛もち米についてもっと知りたいと考え、お家の方に聞いたりインターネットで調べたりした。すると、冬組の子どもの家でもかつて白毛もち米を作っていた家があること、上伊那の三峰川や小沢川、小黒川などの沿岸で作られていたこと、しかもその水口に作られていたこともわかった(図1)。上伊那で昔から米作りが盛んに行なわれていたのは天竜川沿いであることを四年時に学習していた子どもたちは「白毛もち米は、どうして米作りが盛んな天竜川沿いではなく、三峰川や小沢川、小黒川沿いの田んぼの水口で作られたのだろう」と疑問を持った。

 「諏訪湖から流れてくる天竜川は、いっぱい水がたまって、日光のあたたかさを受けている」

図1
60年ほど前の白毛もち米栽培分布図
60年ほど前の白毛もち米栽培分布図
白毛もち米の田んぼ
白毛もち米の田んぼ

 「もち米は冷たくてもあたたかくても作れる」

 「うるち米はあったかくなくちゃいけないから」

 「白毛もちのほうで温めて、それがうるち米のほうへ流れていくってことじゃないの」

 「白毛もちはうるち米のカバー。うるち米はあたたかくなくちゃいけなくて、白毛もちは冷たくてもいいから冷たい川の水口のところに作った」……

 子どもたちは、うるち米の青立ちを防ぐために水温の低いアルプスから流れる川の水口に白毛もち米を植えたという先人の知恵と、冷たい水にも強いという白毛もち米の特長に気づいていったのである。子どもたちが事実に出会ったとき、そこに「なぜ?」「おかしいな」というずれや不可解さがあると、それは学びの芽となる。どこに学びの芽があるか、つまずきが起きるかなどは、素材研究のなかである程度見えてくるように思われる。

浮き草は敵なの? 味方なの?〜予想外の展開になった場面〜

 しかし、子どもたちが主体となって活動を展開していくと、私が予測していない問題が出てきたり、予想を超えた展開になったりすることももちろんある。

浮き草は敵か味方か話し合う
浮き草は敵か味方か話し合う

 たとえば「白毛もち米は古代米だから」「安全なほうがいい」と考えた子どもたちは、農薬や除草剤を使わなかった。すると冬組の田んぼには、当然のようにヒエをはじめとする雑草や浮き草がいっぱい出てきた。雑草はみんなの意見が一致して取っていった。ところが、浮き草については「日光をさえぎって水温を下げてしまうので取ったほうがいい」という意見と、「本を調べたら『浮き草には抑草効果がある』と書いてあるから取らない」、という意見とに分かれ、「浮き草は敵なの? 味方なの?」という話し合いが行なわれた。

 また、自分たちの手でやることにこだわった(前頁の作文参照)子どもたちは、脱穀も割り箸で穂をはさんで取ったり、ペットボトルのふたに穴をあけて稲穂を通してしごいて取ったりしていた。もみ一粒一粒を実感することができた。しかし、試行錯誤しながら10時間かけて54kgしか脱穀できなかった。

 こうしたとき、どうしていくかを決定するのも子どもたち自身である。浮き草については、抑草効果はあるかもしれないけれども、水温低下が心配だから取ることにした。脱穀については「早く脱穀しないとおいしくなくなる」「足踏み脱穀機を使えば早くできる」と自分たちの手でやることに限界を感じ、足踏み脱穀機を使うよう軌道修正をしていった。

手で刈ることへのこだわり:子どもの作文から

 初めての稲刈り、初めての白毛もち作り。白毛もち米を刈るとき、少々迷っていました。ここまで育てたのに、こんなにきれいになったのに、刈るなんてもったいない。でも、ここまで育てたんだから、この手で刈らないと、という二つの思いが、頭の中にぐるぐる回っていました。…

 切れるといい気持ち。それに、このザクッって音は、機械でも聞こえるのかな、と思いました。ちょうどその時、となりで愛ちゃんと千波ちゃんが、「この音、機械じゃ、ぜったい聞けないよね」と言ったのを聞いて、やっぱり機械じゃ聞けないし、それに、この音がいい音、と思えるのは、ここまで一生懸命育てて、弱音をはかずに育てて、この手で刈ろうと思ったから、いい音と思えたんだと思います。

 しばらく、稲刈りをしていました。さすがにつかれてきてしまいました。でも、ある物で、がんばろうと気を取り直したのです。それは、冬組で作った昔の家なのです。刈った稲を置きに行くとき、あ〜疲れた。いつまで続くのかなと、とてもとても冬組の人たちに失礼なことを思ってしまいました。その瞬間、目の前というか、まあ顔を上げたとき、目に入った風景ですよ。それを見たら、ここまで総合で築き上げた思い出が目に浮かんだんです。なのでがんばれました。(早苗)

(学級通信から)

ブチブチッ 手にこだわって、はしで脱穀する
ブチブチッ 手にこだわって、はしで脱穀する

(注)六年冬組の年間学習計画は次頁に掲載したほか、ルーラル電子図書館食農教育コーナーの「取材こぼれ話」にも収録しています。


もどる