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Ruralnet・農文協食農教育2003年4月・増刊号

食農教育 No.26 2003年4月号より
[特集] 「バケツ稲」の12カ月のカリキュラム

 

11月[食糧事務所を呼ぶ]

 

こだわりの米袋に等級印をもらおう

 

編集部

 

お米づくりのこだわりを米袋にデザイン。出前授業で、みごと2等の印(中央)を押してもらった
 

 

 

 

 

 

 

 

 


ゲストティーチャーを探す

 11月。バケツイネを収穫して、モミすりを終えた。このへんでゲストティーチャーを活用した授業を仕組んでみてはいかがだろう。地域の農家のほか、都市部でもお米屋さん、NPO、食糧事務所など、出前授業を引き受けてくれる団体はたくさんある。インターネットや地域の公民館などを通じて、まずは人探しをしてみたい。
 東京・青梅市立河辺小学校5年1組の北村充全先生は、2002年11月、東京食糧事務所からの出張講座を企画した。モミすりの後、農家がうけるような等級検査を体験する授業だ。
 でも、ただ来てもらって等級づけをしてもらうだけにはしたくない。北村先生が工夫したのは、子どもたちと等級検査、つまり食糧事務所の職員さんたちとの出合わせ方だった。 

こだわりを米袋にデザインする

 工夫の一つは、オリジナル米袋づくり。ふつう等級検査では、各生産者が検査場に持ってきた30kg入りの米袋からサンプルを抜き出して、粒の状態や水分量をチェック。等級ごとにハンコを押していく。一人一バケツで育てた子どもたちの米も、これにならって一人ずつ本物の検査官からハンコをもらおうというわけだ。
 せっかくだから袋のデザインも個性的なものにしたい。まずは、家で食べているお米の袋を調べてみた。米袋なんて、ふだん子どもたちは気にもとめてなかったにちがいない。ところが、けっこういろんな米袋があるとわかる。父母も乗り気で、「ほれ、こんな袋もあるわよ」と教室に米袋がじゃんじゃん集まった。
 そこで、自分たちも、どんなところにこだわってつくったのかをアピールする袋をつくった。たとえば、ある子の作品。「気合い米 化学肥料は一さいつかっておりません。河辺小の屋上で気合いを入れてそだてました。リストラなどで気合いがない人におすすめ!」(図)。とにかく、元気がいい米袋たちだ。
 米袋といっても、B4判の画用紙に描いた絵を封筒に貼り付けたごく簡単なもの。中に入る米はバケツイネ一杯分のわずかな量だが、自分たちのこだわりを検査官の人たちに表現する場ができたわけだ。

教科書だって使い方しだい

 ところで、この米袋づくり、北村先生の場合、4月の時点で行なったという。自分はどんな米づくりをするのかを発表し、収穫に向けて意欲をかりたてていくきっかけにもなる。では、まったくの住宅街に住む子どもたちが、5年生の4月に米づくりへのこだわりをどうやってもちえたのか? 北村先生は新しく改定された社会科教科書(教育出版)を、うまく活用している。
 五年生の子どもがスーパーマーケットで、新潟県六日町の今井さんという農家の名前が載った米袋を見つける。そこから、六日町の気候・風土、今井さんの米づくりへのこだわりを調べたり、聞き取っていく。また、自分たちでも田んぼやバケツで稲を育ててみる、というのが教科書のストーリーだ。
 今井さんは、稲を丈夫に育てるには、「よい土、日当たり、水管理」がポイントであること。化学肥料は稲の成長をよくするが、土が固くなったり、イネが伸びすぎて倒れやすくなることもあり、アイガモ農法も行なっていることを教えてくれる。こうして社会の学習をしながら、自分たちはどんなことにこだわって米づくりをするのかを話し合っていくことができた。

こだわりを引き出す言葉

さて、実際の作業である。北村先生は子どもたちにこんな説明をする。


 「化学肥料はイネの成長をよくするけど、使いすぎると土が固くなるとありましたね。化学肥料を使うもよし。使わないもよし。使わない場合は、堆肥を使います。堆肥っていうのは、牛のうんちです」。
 「牛のうんち」に子どもたちはキャーキャー騒ぎ出す。牛ふん5kgと腐葉土1kgをまぜて、わざわざくさくした堆肥をつくりながら、手と鼻を使っての土いじり体験をさせる。なかには、家庭からビニールの手袋を持参する子もいるとか。(*堆肥はバケツにせいぜい一握り。これでもガスがわく場合もあり、きっちり発酵しているか注意する必要がある)

▼水
 「水道水には、塩素が含まれています。プールの消毒に使っている白いかたまりですね。入れすぎると体にはよくないね」。
 多摩川の水をペットボトルに汲んだり、浄水器を使ったり、虫や魚、亀を飼っている子からは「置き水」するなどの案がでた。なかには、青梅市の山間部、日向和田に住むおじいちゃんの家に毎週通い、沢水を汲んでくる子もいたほどだ。

「間引きをしたよ」
「間引きをしたよ  

 ▼農薬
 「使うか使わないか自分次第。かけない子は、害虫を手でつぶすことになるよ」。
 実際は、夏休み中にイネツトムシやシラハガレ病などがでた。手で握りつぶす子もいれば、木酢液、家庭用の殺虫剤を使う子もいる。イモチ病がでたときには、さすがに農協に行って「オリゼメート」と「ダイアジノン」を買った。風下に立たないようにして、ハンカチで口を押さえるなど、使用基準を守って消毒したという。

モミすりにも注意が必要

等級検査のようす
  等級検査のようす

 さて、各地の食糧事務所では、等級検査の前に、機械でモミすりの実演もしてくれるのだが、河辺小学校の場合は自分たちで行なった。
 ここで注意しなければならないのは、すり鉢でのモミすりは禁物だということ。力が入りすぎて割れがでるなど、規格外となってしまうからだ。北村先生は、自費で手動モミすり機を四台購入した。図工室から紙やすりをもらってこすりつけたり、消しゴムを使ったり、子どもたちも工夫をこらした。
 しかし、子どもの工夫や手動式4台のモミすりでは作業がなかなかすすまない。そこで電動式を新たに一台加えたところ、それは驚くほどの速さだったという。毎分1200粒の謳い文句もウソじゃない。子どもたちがなにより感激したのは、玄米とモミガラが分かれてでてくるところ。手動式では混ざってでるので、下じきを使って吹き飛ばしていたのだが、その作業がなくなったのは感動ものだったという。
 はてさて、自分たちのこだわり米にどんな等級がつくのか。楽しみはふくらんだ。

等級検査、本番!

 当日、体育館にそれぞれのお米と米袋が並んだ。食糧事務所の職員さん4名を前に、「緑色の米が少しあるのが心配ですが、どうぞ1等をつけてください」「おじいちゃんの家の天然水で育てました。ぼくのお米をよろしくお願いします」と、自分たちのお米をけんめいにPRした。
 そして、玄米をカルトンというプラスチックの黒い皿に入れ、粒のふくらみや水分などが検査される。いよいよ等級が発表された。「お米の中心が白くなる乳白粒が多くありました。3等です」「緑色の米が少なくてよいお米です。2等です!」と等級の印が押されていく。子どもたちの興奮は絶頂に達した。結果。3等が35人、2等が4人。子どもたちの心配した規格外は、食糧事務所の方々の配慮もあって、1人もでなかった。
 「2等がでてよかったね」。なんでも、東京では田んぼでつくった農家ですら1等米はほとんどでないらしい。
 東京食糧事務所の高村さんは言う。「出前授業といえど、いい加減には検査しない。農家が出荷する米と違い、クズ米をふるい落とす調製作業を行なわないなどの配慮はあるが、こちらもプロ。米粒を見ればどれだけ大切に稲を育てたかわかる」と。

11月。本気になって、プロの言葉を聞く機会をもつのもいい。

(文責・編集部)
 

 

 


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