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Ruralnet・農文協>食農教育>2003年1月号> | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
松本市に住む宮澤ありすさんは、今年はじめてひとりでおばあちゃんの家に帰った。そこは長野県の秘境といわれる下伊那郡大鹿村。部落のあちこちには不思議な石の神様が……。 村のお年寄りから聞き書きした道祖神にまつわる昔の暮らしに、ありすさんは「不思議の世界へ行ったよう」。その新鮮な驚きをまとめた「道祖神しんぶん」は、自然とともにあった村の姿が浮かび上がってくる興味深い作品となった。 (編集部) 朝のさんぽで見つけた「こだまさま」今年のおぼんに、初めてひとりでバスにのっておばあちゃんの家へ遊びに行きました。少しきんちょうしたけど、バスを降りたら、おばあちゃんが畑で待っていてくれて、とってもうれしかったです。 次の朝、ごはんの前におばあちゃんとさんぽをしました。おばあちゃんの家は山のなかです。部落の集会所の前の道ばたに石のぞうが並んでいました。
「これは昔のおはか?」と聞くと「これは蚕玉様だよ」とおしえてくれました。昔は、「おかいこさま」を飼っていて、マユになりますようにと秋にお祭りをしました。そのためにたてたのだそうです。 マユから糸がとれるので、昔はどの家でもカイコがとても大切だったそうです。おばあちゃんが「こんな石の神様はたくさんあるよ」というので、もっと見たくなりました。 道祖神しらべをはじめるわたしが石の神様をしらべて新聞にしたいといったら、おばあちゃんは「昔の漢字を読むのは、むずかしいからやめときよ」といいました。でも新聞コンクールでクラスのみんなとはちがうことをしたかったので、おばあちゃんに手伝ってもらって、2人でさんぽをしながら下しらべしました。 まず、蚕玉様のあった集会所の道ばたの石のぞうをしらべました。ぜんぶで6つありました。文字だけのもの、絵がほってあるもの、くずれてわからなくなっているのがありました。こういう石の神様のことを道祖神というそうです。道祖神は、昔は村のかどかどにたっていて、旅がぶじに終わりますようにとか、家族が病気にかかりませんようにとかお祈りしたそうです。 お乳がでる木! 「さかさいちょう」石にほってある漢字を書きうつしました。漢字がきえていたり、読めなかったりして、とってもたいへんでした。おばあちゃんもわからない字は、形をまねして書きました。
次の日は、「さかさいちょう」という大きな木のあるお堂へ行きました。見たこともないくらい大きないちょうの木です。その木は不思議な形をしています。枝がたれ下がっていて、その枝の下のほうからおっぱいのようなこぶがたくさん出ていました。 今から920年以上前、こうぼうたいしというえらいお坊さんが、もっていたいちょうのつえをここにさしたら、根がはってだんだん大きくなったといわれています。おっぱいのようなこぶの皮をせんじてのむとお乳が出るそうです。お堂には、おっぱいの形をしたてるてるぼうずみたいな白いものがたくさん下がっていました。お礼まいりに来たときに下げたそうです。 ほんとうにお乳が出るようになるなんて、私はびっくりしました。でも、いちょうのふしぎな形を見ると、きっとほんとうなんだと思いました。 お堂の横にも、道祖神がたくさん、12いじょうもならんでいたので、漢字を書きうつしました。
おじいちゃんが語る、ふしぎの世界お母さんがついてから、車でとなりの部落にいる、親類のおじいちゃんに教えてもらいに行くことにしました。木下武人さんという、とっても物知りなおじいちゃんです。私がうつした漢字をみて、字のまちがいを直して、意味をおしえてくれました。 四国の金比羅さまへおまいりに行った人がたてた金比羅大権現というもの。金比羅さまは水の神様だそうです。江戸時代に四国まで行った人がいるときいてびっくりしました。火の神様の秋葉大権現もあります。1つの石に、水と火の2つの神様が入っているものもありました。 知恵の神様もありました。子どもがうまれるとおまいりしたそうです。歯がいたいときにおまいりした神様もあっておもしろいです。昔はなんでも神様におねがいしたんだと思いました。
3日目は、がけの上にある三峰様を調べに行きました。火事の神様です。おばあちゃんの住んでいる沢井部落では、今でも毎月、当番を決めて9のつく日にロウソクの火(おとうみょう)をあげています。だから、ほかの部落では火事があったのに、沢井では火事がないそうです。夜になると、沢井からはとおくのがけの上の火が見えて、とってもふしぎです。 それから、梨原部落にある跛山之神のところにも行きました。道ばたに2つ石がたっていて、1つは古くてくずれかかっています。となりのは平成になってたてかえたものだそうです。 石には小さなわらじがいくつもかかっています。この神様に7回おいのりすると、ひざやこしのいたみがなおるそうです。よくなると、お礼にわらじをあんでそなえます。わらじのなかにはあたらしいのもあって、平成14年と書いてありました!昔からずーっとつづいて、今でもなおしてもらえるなんて、ほんとうにふしぎでした。
神様は石の中にいた!木下のおじいちゃんにおしえてもらった石の漢字と意味を表にまとめてみました。写真もつけて地図も入れることにしました。新聞の名前は「道祖神しんぶん」です。 まとめると、「馬頭観音」がいちばん多いとわかりました。昔の人は今の車のように、馬をとっても大切にしていました。山道は細くてがけから落ちることもありました。馬が亡くなったところにたてたのが「馬頭観音」です。 昔はおいしゃ様がいなかったので、神様に病気がなおるようにおねがいしました。いきだおれになった人がいたり、火事があったり、昔の人はたいへんだと思いました。でも、神様におねがいしてよくなったり、さかさいちょうでお乳が出たり、昔はふしぎな力があったんだと思いました。 道祖神を調べる前は、神様は空にいると思ってたのに、けっこう身近な石の中にいたのがわかっておもしろかったです。 村の歴史は子守唄のように聞かされたもんです |