日本生物科学者協会編集 農文協発売
生物 科学
 
バックナンバー
本書のねらい
投稿の手引き
編集委員
購入申込
定期購読申込
農文協のトップへ
 
生物科学
Volume.69,No.4 2018

Jul.

目次

特集:海洋における光合成共生研究と深海の栄養共生研究のクロストーク

巻頭言:海と向き合う海洋生物学(窪川かおる)……193

丸山正:浅海と深海における栄養共生……194
海洋における栄養共生を浅海のサンゴ礁生態系および深海の熱水・湧水・鯨骨生態系の視点から特集する意義とその背景を、共生系を構成する生物群、共生者の伝達様式、共生成立のプロセス、共生の実験モデル系、という観点から述べる。また、共生研究の今後の方向性として共生(ホロビオント、Holobiont)工学についても触れる。
キーワード:共生、サンゴ礁、深海、共生工学

神保充・山下洋:宿主は生体防御機構を用いて共生者をコントロールする――サンゴのレクチンと共生藻を中心として――……200
多くの生物は生体防御機構により体内に入ってくる異物を排除するが、その機構の一部は「共生」にも利用されている。糖結合タンパク質であるレクチンは異物認識において最初に結合する因子のひとつであるが、さまざまな生物の共生においても、共生者認識の重要な因子として関与している。サンゴにおいても、レクチンは特異的な共生者である褐虫藻を選択するだけにとどまらず、共生しない微細藻類の排除や、有用な共生者の積極的な獲得にも関与していると推定される。
キーワード:レクチン、幼生、生体防御、獲得、共生

高橋俊一:刺胞動物と褐虫藻のサイズ依存的な共生関係……209
多くの刺胞動物は褐虫藻を共生させ、生育に必要な栄養分の多くを褐虫藻の光合成代謝産物に依存している。褐虫藻にはDNA型の異なるタイプが多く存在し、その違いで生理的特徴が異なっている。そのため、生育環境に適した褐虫藻タイプを取り込むことは宿主動物の重要な生存戦略である。しかし、宿主動物はどの褐虫藻タイプとも共生関係を結べるわけではなく、潜在的に共生可能な褐虫藻タイプとそうでないものとが存在する.本稿では、これを共生の特異性と呼ぶ。1970年頃に共生の特異性が発見されて以降、宿主細胞と共生体細胞の表面にある認識タンパク質がこれを決めると予想され、研究が続けられてきた。しかし、我々はこれとは別の特異性に関わる因子を発見した。それは、「共生体の細胞サイズ」と「宿主動物の許容共生体サイズ」である。本稿では、新たに明らかになった共生の特異性機構を解説する。
キーワード:共生、特異性、多様性、細胞サイズ

湯山育子:ゲノム、トランスクリプトームデータから明らかに される刺胞動物―藻類の細胞内共生……214
ヒドラ、イソギンチャク、造礁性サンゴを含む刺胞動物には単細胞藻類を共生させた種が多く存在する。本稿では、共生藻を持つ刺胞動物と共生藻のゲノム、トランスクリプトームデータを参考に、刺胞動物と藻類の細胞内共生に関わる分子機構を考察する。細胞内共生に関連する遺伝子をまとめると、脂質・アミノ酸代謝の亢進、ミトコンドリアの機能低下、酸化ストレスの緩和、宿主―藻類間の細胞間認識、細胞間接着分子の増加、共生藻を取り囲むシンビオソーム(共生小胞)の形成が細胞内共生にわかっている。また、共生藻側の変化としては、H+―ATPaseの発現が上昇すること等が報告されてきた。そしてこれら細胞内共生に伴う遺伝子発現変化と、その遺伝子発現調節を行うmicroRNAとの関わりが、今後注目の課題になる。
キーワード:細胞内共生、刺胞動物、共生藻、遺伝子発現解析、ゲノム解析

生田哲朗:深海化学合成二枚貝における共生細菌の次世代伝達様式……223
深海性の二枚貝には化学合成細菌を細胞内共生させている種類が知られており、共生細菌は水平伝達と垂直伝達のふたつの方法によって次世代へと伝えられている。本稿では、それぞれの伝達様式に関わる研究の現状を概観しながら、共生系の成立や維持、生息環境、ゲノム進化、宿主の発生など、共生現象を取り巻く多くの側面と共生細菌の伝達様式との関わりを述べ、さらに今後の研究の展望を記す。
キーワード:水平伝達、シンカイヒバリガイ類、垂直伝達、シロウリガイ類

藤吉奏・和辻智郎:深海動物に付着する体外共生菌の機能と役割の解明……231
深海熱水噴出域には体の表面の一部に大量の細菌(体外共生菌)を付着させた動物が生息している。しかしながら、体外共生菌の代謝活性や宿主に対する役割は不明であった。そこで、筆者らは沖縄トラフの熱水域に生息し、腹側の体毛に共生菌を宿すゴエモンコシオリエビを研究対象とし、その宿主動物が体外共生菌として化学合成細菌やメタン酸化細菌を体毛に付着させ、栄養源としてそれらを摂食することを実証した。
キーワード:深海熱水噴出域、体外共生、化学合成細菌、ゴエモンコシオリエビ

宮本教生:ホネクイハナムシが根っこで鯨の骨を食べる仕組み……237
生物同士が新たな共生関係を築くことで、まったく新しい機能を獲得するようになる。ホネクイハナムシは、新奇形質である樹根状栄養体部(根)と新たな共生細菌を獲得することで、脊椎動物の骨という近縁の生物が利用できない資源を消化吸収できるようになった。消化吸収の分子メカニズムや共生細菌の機能は未知の部分が多いが、近年その実体が明らかとなりつつある。本稿では、ホネクイハナムシの生物学的特徴を概説すると共に、新奇形質の進化と共生細菌の機能について考察する。
キーワード:共生、鯨骨群集、従属栄養細菌

神保充:共生機構解明におけるオミクス解析の役割……243
近年、トランスクリプトーム、プロテオームなどオミクス解析により様々な分子を網羅的に解析する技術が進展してきた。これにより共生機構に関わる遺伝子解析がますます進んでいくと思われる。現在のところ、差がある遺伝子を見いだしているが、今後はより詳細な解析が進み、それら遺伝子の実際の機能についても明らかになっていくだろう。
キーワード:オミクス解析、多変量解析、同定

丸山正:浅海における光合成共生研究と深海の栄養共生研究のクロストーク〜問題点と今後の展望〜……247
本特集では、浅海から深海にみられる様々な共生系を扱った。それらの宿主や共生者の飼育・培養状況や共生系の再構築の可否などについて、表1にまとめる。比較のため、化学合成共生と光合成共生の両方を有する二枚貝のうち本特集で触れなかった光合成共生系であるシャコガイの情報についても加えた。この表からは、飼育が難しいとされてきたサンゴや深海生物においても、近年では飼育や培養が可能となり、ゲノム情報も蓄積し、共生系研究の基盤が固まりつつあることが理解できるだろう。本稿では、特集の編纂から見えてきた研究上の問題について議論したい。

●書評―『水辺の樹木誌』

『生物科学』投稿の手引き


English_conents
Kubokawa Kaoru : Biology in the ocean (193)
Special feature : Studies of nutritional symbioses in shallow-sea and deep-sea Maruyama Tadashi : Nutritional symbioses in shallow-sea and deep-sea (194)
Jimbo Mitsuru & Yamashita Hiroshi : Hosts control symbionts using immune system -centered on coral lectin and Symbiodinium- (200)
Takahashi Shunichi : Species specific symbiotic relationships between cnidarians and zooxanthellae (209)
Yuyama Ikuko : Genome and transcriptome analysis reveals the detail of cnidarian-algal endosymbiosis relationship (214)
Ikuta Tetsuro : Symbiont transmission modes in deep-sea chemosynthetic bivalves (223)
Fujiyoshi So & Watsuji Tomo-o : Function and role of episymbiotic bacteria attaching to host animal in deep―sea hydrothermal fields (231)
Miyamoto Norio : How do bone-eating worms, Osedax eat bones? (237)
Jimbo Mitsuru : Role of Omics analysis in elucidation of the symbiotic mechanism (243)
Maruyama Tadashi : Cross-talks between the studies of photo-symbioses in shallow-sea and of nutritional symbioses in deep-sea ―Perspectives for their future directions― (247)
Book review (251)





生物科学のトップへ農文協のトップへ

農文協の定期刊行物
農文協のトップへ
月刊 現代農業
季刊地域
季刊 うかたま
 
関連サイト
ルーラル電子図書館
有料・会員制の電子図書館。食・健康・農業・環境などの情報を検索・表示。
田舎の本屋さん
有料・会員制のインターネット本屋。本探しからお届けまで。会員は送料無料。

ページのトップへ


お問い合わせは rural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:一般社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8669 東京都港区赤坂7-6-1

2018 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved