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生物科学
Volume 64,No.1 2012

Nov.

目次

特集:ニッチ構築としての動物の“巣”

巻頭言:中国トキ事情(上田恵介)……1

岡野淳一:水の中の小さな建築者―トビケラ幼虫の巣の機能,構造,巣材選択の多様性―……2
 トビケラの巣作り様式は,種によってさまざまで非常に多様性が高い.巣の機能は,主に防御と呼吸促進のためであるとされているが,形や巣材の違いがどれほどの機能的差異をもたらしているかはほとんどわかっていない.巣作り行動は,種特異的で個体発生的に決まると考えられていたが,近年,環境によって可塑性を示したり,地理的な種内変異があることがわかってきた.また,トビケラの巣作りによって周囲の環境が改変されることから,群集構造にも影響を及ぼすことも実証されつつある.トビケラの巣作りは,彼らの生活史にとってのみならず,取り巻く生態系においても重要な役割を担っている.
キーワード:水生昆虫,巣材選択,可塑性,種内変異,生態系エンジニア

福井晶子:リーフシェルターをめぐる生物間の相互作用:場所資源は余っているのか?……11
 鱗翅目幼虫やゴール形成アブラムシは,葉を物理的に加工してリーフシェルターをつくる.リーフシェルターを利用することで,乾燥,日射,捕食,寄主植物の被食防御といった死亡要因を軽減できるために,さまざまな生物がリーフシェルターに入り込む.リーフシェルターをめぐる生物間の関係をみると,食物資源を介した直接的な関係が対立的であるのに対して,空間資源を介した間接的な関係は共生的であった.空間資源としてのリーフシェルターの利用は,多種共存メカニズムのひとつといえる.リーフシェルターは,一般に寄主植物上の種多様性や個体数を増加させるので,植食性の再利用者による寄主植物への食害を促進することもある.また,リーフシェルターの再利用率が高いことから,シェルター加工に適した場所資源は不足していると考えられた.
キーワード:生態系エンジニア,リーフシェルター,空間資源,間接効果,共生的な関係

鈴木邦雄・上原千春:オトシブミ類の揺籃形成戦略の多様性
―揺籃構造と寄主植物選好性の可塑性を中心に―
……21
 オトシブミ科(昆虫綱,鞘翅目)には,母虫が寄主植物の葉を巧妙に加工して,きわめて特徴的な構造を持つ巣(揺籃)を形成し,その中に産卵する種が少なくない.揺籃は,卵・幼虫・蛹にとっての悪天候や天敵などから身を守るシェルターであると同時に,幼虫の食用でもある.揺籃は,こうした「生態系エンジニア」によって造られた多機能性を備えた「延長された表現型」たる〈体外構築物〉であり,特殊なニッチ構築であると見なすことができる.その多様性の実態を,揺籃構造とそれを大きく左右する寄主植物選好性の可塑性に焦点を絞って,筆者らが行ってきた自然史的な研究結果を中心に概説する.
キーワード:オトシブミ類,チョッキリ類,揺籃形成,寄主植物選考性,延長された表現型,表現型可塑性,生態系エンジニア

那須義次:鱗翅目昆虫のニッチとしての鳥の巣……35
 鳥は巣を造ることにより,鱗翅目昆虫が繁殖などに利用するニッチを創出している.日本において,現在9科16種の鳥の巣から5科27種の鱗翅類が確認されている.マルハキバガ科,メイガ科およびツトガ科などの幼虫は巣材の枯れ草や蘚苔類を,ヒロズコガ科の幼虫は巣内にある羽毛などのケラチンや昆虫遺体のキチンといった動物質を摂食している.鳥の巣の鱗翅類相は鳥の種類によって異なり,この違いは鳥の巣が市街地にあるかないか,鳥の食性,巣内の巣材や堆積物の違いと関係している.巣内共生者である鱗翅類は巣の清掃に役立っており,巣の持ち主とは相利共生的関係にあることが推察される.巣内共生者にしばしば見られる巣材内にすばやく隠れる行動や幼虫産出性は,巣に生息するための適応である可能性がある.
キーワード:共生,生態系エンジニア,ヒロズコガ科,幼虫産出性,適応

椎名佳の美:森の動物の棲み家としてのキツツキの樹洞……43
 キツツキの樹洞は,森に棲む樹洞性動物類の営巣やねぐら,隠れ場所などになる.樹洞性動物類は樹洞を二次的に利用することによって,Food webに類似した構造のNest webを形成することが知られる.その中で,樹洞を生産できるキツツキは,キーストーン種として,あるいは生態系エンジニアとしての役割が注目される種である.本稿では,キツツキの樹洞が樹洞性動物類によってどのように利用されるのか紹介する.
キーワード:キツツキの樹洞,樹洞性動物,一次樹洞生産者,二次樹洞利用者,Nest web

大橋一晴・牧野崇司:送粉生態学における動物研究の重要性:
性淘汰ばかりではない生物間相互作用の面白さ―伊藤嘉昭(2009)への補足として―
……51
 伊藤(2009)が指摘したように,動物の研究で発展した性淘汰というテーマは,植物学者の間では人気が低い.とりわけ受粉後の過程における性淘汰の研究は,動物にくらべるとかなり遅れている.しかし一方で,花の色・かたち・香りといった形質の進化,つまり送受粉の過程に関する研究において「性淘汰」がもてはやされない理由は,単純な研究の遅れとばかりはいえない.送受粉における性淘汰の存否をめぐっては,80年代から何度も論争がくり返されてきた経緯があるからだ.ただしこうした賛否両論は,性淘汰の定義が研究者どうしで異なることに起因する場合が多く,形質から適応度にいたる淘汰の構造をパス図としてあらわせば,このような意見の食いちがいを避け,送受粉における「広義の」性淘汰を認めることは可能である.本稿の前半では,伊藤の記事では触れられなかったこれらの論争と現在の状況について概説する.さらに後半では,こうした事情をふまえつつも,送受粉の過程に性淘汰の概念を適用することについて,「現時点では時期尚早ではないか」と我々自身が考えている別の理由を説明する.まず,送受粉はみずからの都合にしたがって行動するポリネーターを介して起こるため,個々の形質は他の形質と協同しながら,幾重にもからみあうルートをたどって適応度に影響をおよぼすのがきわめて一般的と考えられること,そしてこのような網状のルートで構成される「パス図」の実像が十分に把握されていない現時点では,送受粉における性淘汰の重要性を論じるのがむずかしいことを指摘する.さらに,網状のパス図にもとづく動的な進化の過程を簡略化し,ある形質から見た固定的な利得曲線を前提に考察を加えるこれまでの性淘汰の方法論の妥当性について,再検討の必要があることに言及する.最後に,こうした植物の送受粉ならではの「面白さ」にもっと目を向け,動物の行動学や生理学に関する知見を積極的に取りこみ,動物学者と協力しながら花をめぐるパス図の実像を明らかにしてゆくことで,送粉生態学はこれまでにない大きな発展を遂げるかもしれない,との展望を述べる.
キーワード:送粉生態学,性淘汰,送受粉,ポリネーター,生物間相互作用,認知学習能力


English_conents

Ueda Keisuke:Protection of the crested ibis in china(1)
Special feature : Animal construction as niche creation
Okano Jun-ichi : The underwater small carpenters-diversities in functions, conformations and material choices on caddisfly architects-(2)
Fukui Akiko : Interaction between organisms using leaf-shelter : Is habitat resource enough?(11)
Suzuki Kunio & Uehara Chiharu:Diverse cradle formation strategy in attelabid beetles with specieal reference to the plasticity in the cradle structure and host plant preference(21)
Nasu Yoshitsugu:Bird nest as niche for Lepidoptera(Insecta)(35)
Shiina Kanomi:Woodpecker cavities for cavity using animals(43)
Ohashi Kazuharu & Makino Takashi:Pollination ecologists can learn more from zoology, but not just for sexual selection-as additional remarks to Ito(2009)-(51)


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