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生物科学
Volume 63,No.4 2012

Apr.

目次

特集:極限環境に生きる生物―そのメカニズムと応用への可能性

巻頭言:遺伝資源としての日本在来牛(川原玲香)……193

二橋亮:極限環境に生きる生物 そのメカニズムと応用への可能性……194

菊田真吾・畑中理恵・黄川田隆洋:極限環境に生きる昆虫ネムリユスリカの生存戦略……195
 ハエ目(双翅目)に属するユスリカは,河川や湖沼のみならず,あまり他の昆虫がみあたらない場所,たとえば高山や南極,潮間帯,サンゴ礁などといった地球上のありとあらゆる場所に生息している水生昆虫である.アフリカの半乾燥地帯に生息するネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)は,アンヒドロビオシスと呼ばれる極限的な乾燥耐性を発揮することで,過酷な環境を生き延びている.1950年代に生理学的視点からはじまったネムリユスリカの乾燥耐性機構研究は,現在では生化学・分子生物学的手法を用いることで,その分子的詳細が明らかになりつつある.本稿では,乾燥に対抗するネムリユスリカの生存戦略の分子機構に関して,これまで得られた知見の概要を紹介する.
キーワード:ネムリユスリカ,アンヒドロビオシス,トレハロース,LEAタンパク質,DNA修復

國枝武和:緩歩動物クマムシの乾眠能力と極限環境耐性……205
 クマムシは,緩歩動物という独自の動物門を構成する生物で,陸生種の多くは,外界が乾燥すると,乾眠と呼ばれる無代謝状態に移行して,様々な極限環境に耐性を示すことが知られている.本稿では,クマムシの生態について概説するとともに,乾眠能力・極限環境耐性メカニズムについて解説する.とくに,筆者らの研究で明らかになってきたクマムシ特有の耐性メカニズムについて,他の乾燥耐性動物との比較を交えて紹介する.
キーワード:クマムシ,緩歩動物,乾眠,極限環境耐性,抗凝集性タンパク質

坂下真実・西宮佳志・近藤英昌・津田栄:寒冷な海に生きる魚と不凍タンパク質……214
 水温が氷点下になる寒冷な海の中で,魚はどうやって生きているのだろうか.1969年に南極海に生息する魚類から発見された不凍タンパク質は,氷点下の海の中で魚の血液が凍結するのを妨げている.本稿では,寒冷な海に生息する魚類がもつ不凍タンパク質の機能と多様性について紹介する.
キーワード:不凍タンパク質,凝固点降下,氷結晶,結晶成長阻害

星野保・肖楠・村上諒:寒さと生きる菌類,その凍結への適応……222
 カビやきのこに代表される菌類は,地球上の様々な環境に適応し,活動している.本稿は,極地・高山など低温環境に適応した菌類の多様性を紹介する.外気温の降下による細胞の凍結によって,多くの生物は死にいたる.これを回避するため菌類は,多様な生理・生態的な適応戦略を進化させてきた.本稿では,菌類の代表的な分類群を取り上げ,凍結への適応機構を概観する.
キーワード:好冷性,浸透圧耐性,低温適応,不凍タンパク質,雪腐病菌

福原敏行:海草アマモ:海に適応した種子植物……230
 海草は,海の環境に適応・進化したユニークな種子植物である.著者らは,海草アマモの耐塩性機構を細胞・分子レベルで研究し,表皮細胞の入り組んだ細胞膜の構造,耐塩性を示す細胞膜ATPase,細胞膜に存在するインテグリン様タンパク質が耐塩性に重要な役割を果たしていることを見出した.本稿では,海草アマモの耐塩性機構について,著者らの研究を中心に紹介する.
キーワード:海草,アマモ,耐塩性,細胞膜プロトンポンプ,インテグリン

江沢辰広・河原愛:強酸性土壌に棲息するアーバスキュラー菌根菌 :パイオニア植生を支える「化石的」絶対共生菌……238
 アーバスキュラー菌根菌は,ほとんどの陸上植物の根に共生し,土壌中の希薄なミネラルを供給することで植物の定着と生長を助けている.とくに強酸性土壌では,植物の根の伸長が阻害されるため,菌根菌との共生を通じた養分獲得は,植物の生存戦略の切り札と言える.本稿では,強酸性土壌に棲息するアーバスキュラー菌根菌の生態調査により得られた知見から,この生物の興味深い生態について紹介する.
キーワード:アーバスキュラー菌根菌,強酸性土壌,パイオニア植生,ススキ

中尾央:文化進化研究の現在:Alex Mesoudi 2011. Cultural Evolution : How Darwinian Theory Can Explain Human Culture and Synthe-size the Social Sciences. The University of Chicago Press, Chi-cago書評……247
 Mesoudi(2011)では文化進化の重要な諸研究がかなりの広範囲に渡って手際よく概観されている.紹介されているのは,文化の継承メカニズムとしての心理,文化の系統学的研究,フィールド研究,実験的研究,また進化経済学や動物における文化の研究にも言及がある.紹介が不十分な点や疑問に思われる点もいくつか見受けられるのは確かだが,現状を把握するにあたっては最適な本の一つである.
キーワード:文化進化,文化系統学,動物の文化,進化経済学,生物学の哲学

書評—『虫を通して森をみる―熱帯雨林の昆虫の多様性』『カラスの自然史―系統から遊び行動まで』『魚類生態学の基礎』


English_conents

Kawahara Ryouka:Japanese native cattle breeds as genetic resources(193)
Special feature : Organisms living in extreme environmental conditions
Futahashi Ryo:Introduction(194)
Kikuta Shingo, Hatanaka Rie & Kikawada Takahiro : Survival strategies of the sleeping chirono-mid under extreme desiccation(195)
Kunieda Takekazu : Anhydrobiotic ability and extremotolerance of tardigrades(205)
Sakashita Mami, Nishimiya Yoshiyuki, Kondo Hidemasa & Tsuda Sakae : Cold-adapted fishes and antifreeze proteins(214)
Hoshino Tamotsu, Xiao Nan & Murakami Ryo : Coldadapted fungi and their adaptation to natural fridge(222)
Fukuhara Toshiyuki : Seagrass Zostera marina : a unique angiosperm that thrives in seawater(230)
Ezawa Tatsuhiro & Kawahara Ai : Arbuscular myco-rrhizal fungi in strong acidic soil : the‘fossil’obligate biotrophs that play an essential role in the establishment of pioneer vegetation(238)
Nakao Hisashi:Current situation of cultural evolutionary studies(247)
Book review(253)


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