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生物科学
Volume 62,No.4 2011

July.

目次

特集:性差と脳

●巻頭言:二つの『生物学辞典』と学術用語の定義(鈴木邦雄)……193
 学術用語(以下術語)は,特定の学問領域の共通課題に関して議論する際,相互理解を深める上での潤滑油の働きをする.術語の使用法次第で,議論すべき問題状況の中心に円滑に入り込めるかどうかも決まる.術語の定義(意味)について一定の共通の理解を踏まえることが,有意義な意見交換や議論を行う上での前提である.認識の深化は,術語の使用法如何に左右されることを一般意味論は教えている.生物学関連の術語は,欧米語の翻訳語に由来するものが多く,時代や学問の発展状況によってその定義も必然的に変化していく.対応する邦語に多数のシノニムが存在することも稀ではない.同一術語が,正反対の意味に使われることすらある.

●折笠千登世・佐久間康夫:脳における性差研究の現在……194
 げっ歯類における脳の性分化は,周生期のステロイドホルモンに依存して決定される.これまで,脳の性差形成の要因はおもにアポトーシスによるとされてきた.われわれは,性的二型核の発現を2つの脳領域,視索前野脳室周囲核(AVPV)と視索前野性的二型核(SDN-POA)で調べ,性差成立には細胞死だけではなく,ステロイドによる生後の細胞移動,細胞新生が関与する可能性について考察した.マウスの性的二型核の存在が明らかになり,これら性的二型核(AVPVとSDN-POA)の神経核での形態学的性差が機能的性差に繋がる可能性を探る.
キーワード : 脳の性分化,性的二型核,エストロゲン,ソマトスタチン,アポトーシス,ニューロン移動,ニューロン新生

●山元大輔:昆虫の脳の性差はここまでわかった……203
 キイロショウジョウバエを用いた神経遺伝学的研究によって,多くの脳の同定介在ニューロンに性差が見出されている.これら性的二型を示すニューロンや性特異的ニューロンは性行動の制御に関わっているが,その一つ一つが行動のジェンダー形成に必須とは言えず,総体として雌らしさ,雄らしさに寄与する.本稿では,性差の実態,形成の機構,行動的機能,そして進化の各側面から研究の現状を俯瞰する.
キーワード:fruitless, Drosophila, 性行動,介在ニューロン,性的二型

●大久保範聡・竹内研生:魚類の脳の性的可塑性……212
 魚類の脳は一生涯にわたって性的な可塑性を保持しており,いったん性が決まった後でも種々の刺激によって容易に性が逆転し得る.これは,魚類の脳には性染色体や発生初期の生殖腺による不可逆的な性差形成機構が存在せず,成熟した生殖腺から放出される性ステロイド,あるいは社会的な刺激によって,可逆的に脳の性差が形成されるためだと考えられる.その際には性ステロイド代謝酵素のアロマターゼや,いくつかの神経ペプチドなどの脳内分子が重要な役割を担っていると推察される.
キーワード:魚類,脳,性差,性的可塑性,性転換

●藤原宏子・渡辺愛子・坂口博信:鳥の脳—ヒト言語野相当領域における性差……222
 発声学習能力は,ヒト言語において鍵となる特徴である.この発声学習能力をもつ動物は限られていて,哺乳類と鳥類のそれぞれ一部のみで確認されている.そこで,卓越した発声学習能力をもつ鳥は,ヒト言語理解のために重要な動物モデルである.発声学習能力をもつ鳥の脳には,ヒト大脳言語野に相当すると考えられる領域が存在する.本稿では,鳥の脳における,このヒト言語野相当領域における性差を検討する.
キーワード:発声学習,さえずり,言語,言語野

●鈴木惠雅・川邊ともこ・宮本武典:味覚嫌悪学習に見られる性差……231
 食物の安全評価のために動物に生得的に備わっていると考えられる学習が味覚嫌悪学習であり,これによって獲得された記憶が味覚嫌悪記憶である.一方,味覚嫌悪記憶を消去した際には,その味が安全であると再学習し消去記憶が獲得,保持される.雄マウスでは,性成熟前に獲得された消去記憶は性成熟後に獲得された場合よりも,保持が弱いということを見いだした.本稿では,消去記憶の保持機構の形成過程を辿ることで見えてきた,情動記憶関連脳部位の成熟に対する性ホルモンの役割について考察する.
キーワード:味覚嫌悪学習,消去記憶,性成熟,テストステロン

●長谷川眞理子:ヒトの脳の性差をどう考えるか?—研究の視座から社会的意味合いまで—……239
 性差が存在する理由を説明する生物学的理論は性淘汰の理論である.性淘汰がどのように働くかは,配偶システムと子育てシステムのあり方に依存する.ヒトの脳と行動の性差は,進化史におけるヒトの配偶システムと子育てシステムがどんなものであったかを基本として考察せねばならない.脳の性差として知られている事実も,認知系,情動系における性差も,その機能的意味づけができなければ,よりよい理解には結びつかないだろう.
キーワード:性淘汰,配偶システム,子育てシステム,ヒトの進化史,脳の性差,男女共同参画社会

●渡辺愛子・大熊加奈子・谷村雅子:子守唄の生物学……247
 学習により獲得されるヒトの歌のうち,子守唄として発達した行動様式は,抑揚などの音響学的特徴が言語によらず共通する.これらの特徴は生物学的に意味があることをうかがわせるため,鳥類・哺乳類の親子間音声コミュニケーションと比較することで,子守唄の機能と起源を検討した.鳥類・哺乳類で示される研究結果にはヒトにも共通する親子間の音声コミュニケーションとしての特徴があり,これらが子守唄の起源において生物学的に重要な働きをしている可能性が示唆される.
キーワード:子守唄,歌行動,音声コミュニケーション,相互作用,母性行動


English_conents

Suzuki Kunio:Two current glossaries of biology and the definition of technical terms(193)
Special feature:Sex differences in the brain
Orikasa Chitose & Sakuma Yasuo:Current perspe-ctive of studies on brain sex difference(194)
Yamamoto Daisuke:What’s known about brain sex differences in insects?(203)
Okubo Kataaki & Takeuchi Akio:Sexual plasticity of the teleost brain(212)
Fujiwara Hiroko, Watanabe Aiko, Sakaguchi Hironobu:Birdsong and human speech : sex differences in the brain(222)
Suzuki Ema, Kawabe Tomoko, Miyamoto Takenori:Sex differences observed in conditioned taste aversion learning(231)
Hasegawa Mariko:What is the sexual difference of human brain?(239)
Watanabe Aiko, Okuma Kanako, Tanimura Masako:Biology of lullaby(247)

表紙写真の撮影者名が間違っておりました。
  誤)藤原宏子 → 正)坂口博信
 
撮影者並びに読者の皆様にお詫び申し上げます。


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