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果樹

リンゴの気持ち 樹の生理3
粗摘果のやり方

茨城・黒田恭正

マークは本誌220ページに用語解説あり

 

 リンゴ栽培において、「摘果はせん定の一環」といえるほど重要な作業である。摘果を粗末にして、よい果実がならないのはせん定のせいだと思い込んでいる人が意外に多い。

 摘果は、たんに着果量を適正にして実を太らせるだけの作業ではない。どの枝に実をならせ、どの枝の実を摘むかによって、それぞれの枝の役割を明確にし、後半の養分の流れや植物ホルモンの働きを調整する大切な作業である。せん定と同様、リンゴの樹の生理にかなった摘果が大切である。

摘花剤と摘果剤もうまく使う

 ところで、貯蔵養分のムダ使いを減らすためには摘果よりも摘花のほうが効果的である。リンゴはより早く開花した花の中心果が大きくなる。開花が1日違うと成熟果になった時の大きさが4g違うという。早く咲く花ほど栄養状態がよく、花が大きく葉数も多いので、果実の肥大も増す。

 当園では摘花剤を積極的に使用し、栄養状態の弱い小花をできるだけ落としてしまう。石灰硫黄合剤110倍液を順調なら受粉の3〜4日後に散布する(低温の場合は1週間後の場合も)。

 また、薬剤による摘果も労力削減のため取り入れている。ミクロデナポン水和剤85(1200倍)を使用し、ふじで10mm、陸奥・ジョナゴールド・王林は14mm、紅玉16mmで散布。落ちにくいふじには展着剤のニーズを1000倍で混ぜる。

 

 

腋芽果摘みが最優先

 さて、人手による摘花・摘果では、初めに1年枝についた腋芽花(果)を確実に摘むことが大切である。

 1年枝(前年の新梢)は本来、今年花芽ができて、来年リンゴがなるところである。しかし、腋芽花(果)摘みが遅れると、摘みあとが果瘤かりゅう(果台しか残っていない成りカス)になってしまう。枝の養分を浪費したため、その後は花芽も葉芽もつかずに枝がハゲ上がって太らなくなってしまう。

 したがって、まずは腋芽花(果)を摘んで今年の花芽を確保する。それと同時に、主枝延長枝や更新枝、発育枝など、樹冠の拡大や生長に必要な部分の花や実も摘除する。

 これらの部分の摘果が遅れて、枝をなりつぶしてしまうと、樹勢を落とす原因となる。早く摘めば、これら1年枝に作られた花(果)そう葉がしっかりと働き、後半にできる花芽の充実や果実の肥大、貯蔵養分の蓄積に役立つ。他の摘果作業は遅れてもいいから、腋芽果と発育枝の先端を摘む作業を優先し、園地をまず一周することである。

 しかし、ベテランの従業員ほど、これを嫌がる。すぐそこにも摘果すべき実があるのに、それを残して脚立を下り、別の場所に移動して作業するのは面倒で、1本ずつ確実に摘果を終わらせたくなる。

 すると、腋芽果摘みが受粉後1カ月以内に終わらず、遅れた樹では成りカスや枝のハゲ上がりができてしまう。人間の都合より、樹の生理に合わせるべきである。

 実際のところ、腋芽の数は意外に多く(花芽全体の約60%)、これを先に終わらせたほうが、かえって後の作業もやりやすい。結果的には早く摘果が終わるのである。

 

腋芽果をとり遅れた枝

2年続きで1年枝の腋芽果摘みが遅れたために、2・3年枝の枝がハゲ上がってしまった。枝の太りが悪く、養分を送るポンプが細くなる。収量が低く、経済寿命も短い枝になる(7月2日・依田賢吾撮影、以下も)

 

果そう摘果の手順

 腋芽果摘みが終わったら、「果そう摘果」と「一輪摘果」に入る。果そう摘果とは、どの果そうを残すかを選ぶ作業である。一輪摘果とは、果そうの中の一番いい実を選ぶ作業で、初心者にもやりやすい。「果そう摘果組」と「一輪摘果組」とで班分けすると能率が上がる。

 私は果そう摘果の作業手順を、韓国の農家や従業員に指導する際、わかりやすいよう以下の手順で伝えてきた。

成り枝(結果母枝)の正面に立ち、枝の先端を持って全体のなり具合を観察・把握する。
②成り枝の先端の果そうを摘む(これをならせると、先端が下がって養分を引っ張る力が弱る)。
③成り枝の背中側から出ている結果枝の果そうを摘む(勢いのある枝なので、将来のための更新枝や、後半に養分を引っ張る枝として生かす)。
④成り枝の腹側から出ている結果枝の果そうを摘む(実が太りにくい)。
⑤成り枝の左右から出る結果枝で、残すべきでない果そうを摘む(形、大きさ、傷、果そう葉の枚数などで判断)。
⑥成り枝の左右のバランスを考慮して数を整える。

果実のお尻は下向きに

 ⑤の「残すべきでない果そう」の見分け方をもう少し詳しく見てみよう。

 たとえば、枝が二股になっているときは、上の枝の果そうを摘んで下を残す。上の枝には養分を送るポンプの役割を与えつつ、今年は花芽をつけて翌年実をならせる予備枝とする。

 

二股の枝での摘果

上の枝の実を摘んで、下の枝の実は残す

 

 また、中心果が側果よりも大きい果そうを残す。これは栄養状態がよく充実した花芽だったところであり果実の生育がよい。中心果と側果の生育差がない果そうは、後から咲いたところで、花芽の充実度が悪いため大きな実にならない。

 そして、上向きの枝にはなるべくならせず、リンゴの重みで枝が下がったとき、果実のお尻が下を向くような枝に実をならせる。果実は傾いてならせると、重力の関係で斜形果になりやすい。しかし、お尻が下を向けば、葉が上になって笠のようになり日焼けを防いでくれる。葉摘み作業は、果実に直接触れている葉を摘む程度ですむし、玉回し不要で着色管理がラクになる。強風が吹いても枝ずれによる傷もつきにくいなど、多くの利点がある。

 以上、腋芽果摘み、果そう摘果、および一輪摘果をまとめて「粗摘果」と呼び、6月中に終わらせる。果実の生育差が出てくる7月中旬からは、「仕上げ摘果」で実の良し悪しを判断し、最終的にならせる数を調整する。

(茨城県大子町)

 

中心果と側果を比べて摘果

中心果のほうが側果より大きく、生育差がある。早く花が咲いた証拠。一輪摘果で中心果を残す

 

上の写真の果そうの近くにあった。中心果と側果で生育差がないのは、開花が遅かった証拠。果そうごと摘む

 

お尻が下を向いたリンゴ。果そう葉が笠のようになって日焼けを防ぐ

 


取材時の動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。「編集部取材ビデオ」から。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/

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