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果樹

匠の技に頼らない 楽々ナシ栽培 第5回
摘心はついで作業がちょうどいい

福島県須賀川市・藤田忠内さん

結果枝から出た新梢を摘心する藤田忠内さん(写真はすべて依田賢吾撮影)

 

効率よく手を抜くために

 藤田さんがナシの管理作業で、一番重要視しているのが「摘心」だ。結果枝から出る新梢を早い段階で摘んで、徒長枝になるのを抑える。

「摘心すると成葉化が早く進むから、栄養生長の期間が短くなって、生殖生長の期間が長くなる」。徒長枝を伸ばす必要がなくなった分の養分を、いち早く実に送ることができるからだ。そのため、以下のようなメリットがある。

・日当たりがよくなって味がのる。
・枝を伸ばす養分が要らない分、減肥できる(2021年3月号)。
・徒長枝が減って短果枝が増え、冬のせん定にかかる時間が減る。
・薬液もしっかりかかって、防除効果が高まる。
・収穫が適期に揃うようになる。

 だから、「少ない労働力で効率よく手を抜く」ために、摘心は「やんなきゃなんない必須の作業」なのである。

 

幸水の新梢。ハダカ芽の上で摘心する。うまくいくと芽は動かない。動いたとしても、ハダカ芽だけがヒョロヒョロ伸びて養分を引っ張る。その下のわき芽は動かずに花芽になる。なお、ハダカ芽がない(勢いの強い)新梢の場合は、葉を4枚残してカット(6月17日撮影)

 

1回目の摘心後に2次伸長した枝は、もう1回摘心する

 

摘果が終われば一段落……

 摘心の作業適期は満開後35〜50日で、結果枝の上に伸び出した新梢の長さが20cm、生長点近くの幼葉の色が赤い頃。摘果はその前に終わらせるのがよいとされる(20年5月号)。

 ところが、「それじゃ、作業期間が短すぎる」と藤田さん。労働力は家族4人。70aのナシ園だけでなく、ブドウ園が30a、田んぼも9haある。適期に作業が間に合わないこともある。必死になって摘果・摘心し終えても、しばらく畑から遠ざかるうちに、2次伸長して徒長枝乱立……なんてことも。

 じつはナシの摘心がブームになった15年ほど前、普及所でも摘心栽培を推進していたそうだが、農家の受けは今ひとつ。「どうせ枝がまた出るのなら、やんなくても同じだ」と、やめてしまった人も多いのだとか。「摘果が終わったら、ナシの作業は一段落」というのが農家の心情らしい。

「ついで作業」に組み込む

 そこで、藤田さんは摘心の作業も「効率よく手を抜く」べく、ゆるい段取りに変えた。摘果を早く終わらせ、適期に集中して摘心するのでなく、摘果の「ついで作業」として摘心を組み込んだ。摘果も摘心も一気に終わらせないやり方だ。

 5月中旬、田植えが終わるとすぐに摘果を始めるのだが、同時に早めの摘心も開始(ナシの満開後20日頃)。「摘果メインのついで摘心」である。最初はそんなに新梢が出ていないので、摘心の作業量は多くないが、枝が伸び出すにつれて、その割合も増えていく。

 取材に伺ったのは6月17日、満開後50日頃。ちょうど、幸水の摘果と「ついで摘心」が一通り終わったタイミングだった。作業開始から約1カ月が過ぎ、最初に摘心した樹からは2次伸長した枝や、遅めに出た新梢がちょうど摘心しごろの長さになっていた。

 そこで今度は「摘心メインのついで摘果」。こうして作業は平準化する。決してナシの生理にドンピシャではないが、田んぼの溝切りやブドウの誘引もやりながらだと、このくらいのスケジュールがちょうどいい。

 家族労働で仕事を回すには、「作業の山がない」のが一番なのだ。(編)

 

摘心後。先端の新梢1〜2本は残して養分のポンプ役とし、他はすべて摘心。徒長枝がなく、1本の棒に葉っぱがワサワサとついた「車の毛ばたき」のような枝となる

摘心した新梢と、摘果した実

 

2回摘心後に葉っぱが成葉化した短果枝(品種はあきづき)。枝が伸びずに葉っぱが根元にワサワサッとついている(8月21日撮影)

 


取材時の動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。「編集部取材ビデオ」から。
https://lib.ruralnet.or.jp/video/

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この記事の掲載号
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