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農家の自家増殖が「許諾制」に!?
しつこいようですが、種苗法改定に異議あり!

花の専門家として 種苗メーカーに望むこと

宇田 明

著者プロフィール
1947年、兵庫県生まれ。兵庫県淡路農業技術センター退職後、(株)なにわ花いちばにテクニカルアドバイザーとして勤務。現在、宇田花づくり研究所。農学博士。著書に『カーネーションをつくりこなす』『花屋さんが知っておきたい花の小事典』(ともに農文協)など。

 

苗づくり分業化の光と影

 バラやカーネーション、カスミソウやガーベラなど、花では苗づくりを種苗会社に委ねている品目が多い。分業化によって苗づくりから解放された農家は、栽培に集中し、経営規模を拡大することができた。それが昭和から平成前半にかけて、国内の花産業が急成長した要因のひとつである。

 しかし、何事にもよい面と悪い面がある。分業化によって、苗代が経営を圧迫、売れゆきが悪い品種は販売されず手に入らなくなる。そして、種苗会社による育成者権の乱用ともいえるようなことが起きているのだ。

UPOVと花業界の発展

 無論、育成者権は保護されるべきである。せっかく長い年月をかけて品種改良をしても、業者に無断で増殖されれば、育種が事業として成りたたなくなる。また、優秀な新品種が海外に持ち出され増殖されれば、日本の農家にとって不利益になる。そこで種苗法は、知的財産である登録品種の育成者にさまざまな権利を与え、保護している。

 種苗法を制定し、1982年にUPOV(植物新品種保護国際連盟)に加盟する前の日本は、海外にとって新品種の権利保護が十分ではない国だった。そのため欧米諸国は、日本に優良品種を売ると、無断増殖されると危惧していた。現在、品種の海外流出を心配するのと、逆の立場だったのだ。

 それが種苗法の制定、国際条約への加盟により、欧米からの新品種がどんどん入ってくるようになった。これも、花産業の発展の一因である。

 また、国内でも育成者権が強化されたことで、種苗業者による育種・苗販売が経営として成りたつようになった。

花農家が払うロイヤリティ

 育成者権をもつ種苗会社は苗を購入した農家に、苗代に加えてロイヤリティ(権利使用料)の支払い、増殖の禁止を求めることができる(「農家の自家増殖が禁止された品目」の場合)。

 花は品目ごとに専門の種苗会社がある縦割り業界で、それぞれで商慣習が異なる。バラはノイバラなどの台木に、切り花品種の穂木や芽などを接ぎ木して苗をつくる。そのため早くから台木生産者、接ぎ木業者、切り花農家とに分業化し、さらに品種改良はオランダなどの種苗会社が担っていたため、育成者権の保護がもっとも早く定着。農家は苗代に加えて、1株当たり100円ほどのロイヤリティを支払っている。

 カーネーションの育種もオランダで行なわれ、種苗会社は代理店的な役割である。農家は苗代に加えて1本10円程度のロイヤリティを支払い、自家増殖は禁止されている。

 キクの育種は国内の種苗会社が主体で、株を10万円で売り、あとは農家が増やし放題という商慣習で、農家は育成者権やロイヤリティの概念に乏しかった。しかし最近は栽培許諾料やロイヤリティを徴収する種苗会社もある。

 平成の半ば以降、花の消費が減り、売り上げが減り始めると、カーネーションなどでは、この苗代とロイヤリティとが花農家の経営に重くのしかかるようになった。暖房経費は省エネやヒートポンプの利用などで減らすことができても、苗代を減らすことはできないからだ。今、国内の生産者が激減しているのは、苗代の負担に耐えられなくなり、廃業または野菜などに品目転換しているためといえる。

売買契約書で育成者権を主張!?

 一方、育成者権は永久ではなく、25〜30年、あるいは毎年の更新料を納入しなければ、その時点で失効する。

 種苗法においては、どんなに優秀な品種を育成しても、品種登録をしていなければ育成者権は認められない。輪ギクで生産量トップの名品種「神馬」は、1980年代に静岡県の故・宮野喜久夫氏(浜松特花園)が育成したが、品種登録をしていなかったので、誰もが自由に栽培し、自家増殖することができる。現に、中国でも生産されているといわれる。

 ところが、登録をしていない品種、権利が消滅した品種まで「育成者権」を主張し、登録品種と同じように販売している種苗会社がある(288ページも参照)。その種苗会社は、苗の売買時に農家と「契約」を取り交わし、それを根拠にする。

 しかし、契約書で「育成者権」が生じるという主張を認めるのであれば、種苗会社は花農家に対し、どんなことでも要求できる。なぜなら、苗を種苗会社に依存する花農家は、圧倒的に弱い立場にあり、どんな条件でも受け入れて苗を買わないと、経営を続けることができないからである。

 さらに、契約書で育成者権(と同等の権利)が得られるのであれば、お金と時間をかけて品種登録をする必要がなくなる。これでは種苗法より民事契約が優先され、農林水産省の種苗法および種苗法が目的とする「農林水産業の発展」が否定されることになる。

種苗メーカーに求められること

 いうまでもないが、農家の経営が向上しなければ、種苗会社も存続することができない。両者がウインウインの関係になるためには、種苗会社は品種登録をして育成者権を持ち、農家はその権利を認めることが第一歩である。登録外品種については、育成者権の保護を求めることはできないはずだ。

 また、種苗会社は品種登録について次の情報を、種苗のほか、カタログやホームページなどに掲載、開示してほしい。

・「登録品種」と「未登録品種」「登録抹消品種」(どちらも「登録外品種」)の明確な区別。

・登録品種は「品種登録番号」「登録名」(登録名と販売時の品種名が異なることがあるため)。

・種苗の「生産国」。

・種苗の「価格」「ロイヤリティ」「取引条件」。

 品種登録番号や登録名がわかれば、農林水産省の品種登録データ検索より、品種の特性、育成者権の所有者、権利の消滅する年などを検索することができる。

 繰り返しになるが、種苗メーカーと生産者との間には、圧倒的な力の差がある。種苗の販売においては優良な品質と、農家の経営が成り立つ妥当な価格が必須条件である。

(宇田花づくり研究所)

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