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農文協のトップ月刊 現代農業2019年7月号>国産子実トウモロコシで卵の旨みアップ、採卵期間も伸びた

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「畜産」コーナーより

採卵鶏に国産子実トウモロコシ

全量切り替えて卵の旨みアップ、採卵期間も伸びた

北海道・石川尚基

道産子実トウモロコシ。現在飼料構成の約65%を占める。他にタンパク源としてイワシ粉末と大豆が各10%程度、繊維質として米ヌカや牧草、卵殻強化のための炭酸カルシウムなどを配合。飼料中の道産原料の比率は9割以上

道産子実トウモロコシ。現在飼料構成の約65%を占める。他にタンパク源としてイワシ粉末と大豆が各10%程度、繊維質として米ヌカや牧草、卵殻強化のための炭酸カルシウムなどを配合。飼料中の道産原料の比率は9割以上

輸入NON―GMOから国産へ

 皆さんはじめまして。北海道倶知安町で採卵養鶏を営んでいる石川養鶏場の2代目、石川尚基と申します。

 当養鶏場は最近有名になったニセコヒラフスキー場から車で約20分のところに位置しており、成鶏、育雛合わせて約3万羽を飼育しております。飼育形態は開放鶏舎による2段のひな段ケージ式。鶏舎数は成鶏6棟、育成2棟。他に自家配合飼料を作るための工場、鶏卵の選別・パック出荷等を受け持つ自前のGPセンターがあります。

 さて自己紹介はこれくらいにして、さっそく当農場がニワトリの飼料の6割以上を占めるトウモロコシを、すべて北海道産に切り替えた経緯について説明します。

 ことの発端は、当農場が導入している飼料発酵機のメーカーの社長から電話がかかってきて、子実トウモロコシ生産における先駆者の一人、柳原農場の柳原孝二さん(長沼町)を紹介されたのがきっかけです。その後当農場に直接お越しいただき、お会いした日にすぐに実証のための試験給与をすることを決めました。

 使用にあたって、まず最初にトウモロコシの粉砕をどちらで行なうかといった問題が出ましたが、その点はこちらの飼料製造工程を理解してくださった柳原さんが自前でしてくれることになり、粉砕度合いも当時使用していた輸入物のNON―GMO(非遺伝子組み換え)コーンの粒度とほぼ同じくらいに調製してもらいました。

飼料中のトウモロコシによる鶏卵の味の変化 (株)味香り戦略研究所調べ

2016年の分析結果(一般の卵を1とした場合の値)。道産子実トウモロコシを使用した飼料を与えた場合の卵は、旨みや甘みがとくに強く、卵本来の味をしっかり味わえる

2016年の分析結果(一般の卵を1とした場合の値)。道産子実トウモロコシを使用した飼料を与えた場合の卵は、旨みや甘みがとくに強く、卵本来の味をしっかり味わえる

旨み、甘みが格段にアップ

 2016年、準備が整い、実際にニワトリに給与を開始すると、ニワトリたちも気に入ったらしく非常に食いつきがよかったのを覚えています。給与してから2カ月くらい経過した段階で、実際に食べ続けることで卵の味にどのような変化が出るか調べてみようということになり、(株)味香り戦略研究所で行なっている卵の味わい測定をしてもらいました。もともと、当農場では飼料によって卵の味わいがどう変化するかを調べるため、同様の調査をしてもらっていたので以前の数値データは持っていました。

 驚いたことに、以前の当農場の卵よりも数値がより高く、旨みや甘みが向上しているのがわかりました。


標高1898mの羊蹄山と鶏舎。ニワトリへの給水は山麓の新鮮な湧き水を使う

標高1898mの羊蹄山と鶏舎。ニワトリへの給水は山麓の新鮮な湧き水を使う

国産は消化吸収率がいい

 以前の卵と比較して明らかに違いが出たのはなぜなのか。よくよくその要因を考えてみると、消化吸収率の違いがあるのではないかという点に行きつきました。

 北海道産のトウモロコシも輸入のトウモロコシも、成分の分析値においてはほとんど差はありません。しかし、実際に給与すると味に違いが出るということは、ニワトリにとってよい影響があるからに他なりません。いったい何が違うかというと、おそらくは鮮度。加えて、農薬の使用量の違いではないか?

 ニワトリという生き物は消化吸収の時間が短いので、ちょっとしたことですぐに卵の味に変化が出ます。道産のトウモロコシの栽培は、除草剤を初期に1回のみが基本。そのため、収穫後に残留農薬を調べてもまず検出されません。また保管方法も単純で、乾燥機にかけて水分調整をしっかり行なったら、あとは丸粒のままトランスバッグに入れて保管するだけです。薬剤は一切使用していません。そして、必要になったら粉砕して農場に運ばれてくるので、鮮度が高く余分な酸化が抑えられています。

 トウモロコシはニワトリにとって主食ですから、薬品の残留がなく、酸化が抑えられているということは、肝臓での解毒に要する負担が少ないことになります。消化吸収において非常に優位に働くことでしょう。それにより同じ配合割合であっても、北海道産と輸入ものとでは結果に違いが出てくるのだと思います。

採卵期間が伸びてさらにおいしく

 また、道産トウモロコシのメリットは旨み向上だけではありません。なるべく早い段階(卵を産み始める5カ月齢)から与え続けるほどニワトリの老化が抑えられることがわかってきました。気が付けば、採卵可能期間が2カ月以上も伸びていました。現在、強制換羽なしで軽く21カ月齢を超えます。

 卵は年齢とともに味がのってくるので、採卵可能期間が長くなるということは、今までよりも旨みの増した卵が長く生産できることになります。お客さんも、この旨みの増した卵の味を一度知ってしまうと、若いニワトリの卵は物足りなく感じてしまうようで、年齢が上のニワトリの卵を指名買いする方が増えてきています。リピート率も向上して、さらに新規のご紹介ともあいまって、コストをかけず自然と顧客が増えてきました。おかげさまで供給が追い付かないほどです。

給餌中の様子。産卵が続くと卵殻が弱くなるので、以前はせいぜい19カ月齢までしか採卵できなかったが、道産トウモロコシに替えてから卵殻等が改善し、21カ月齢を超えても採卵できるようになった

給餌中の様子。産卵が続くと卵殻が弱くなるので、以前はせいぜい19カ月齢までしか採卵できなかったが、道産トウモロコシに替えてから卵殻等が改善し、21カ月齢を超えても採卵できるようになった

道産トウモロコシで経営が安定

 皆さんが気になる子実トウモロコシの価格ですが、今現在の輸入物のNON―GMOトウモロコシと同等か1割高程度で分けてもらっています。トウモロコシの生産者と直に取り引きすることで中間流通の経費を削減し、輸入ものと遜色ない価格帯で年間固定価格を実現し、使用することが可能になっています。昨年から全ロットのトウモロコシ(成鶏用、年間約500t)を、輸入ものから北海道産に切り替えることができました。

 卵の価格は1割程度の値上げはしましたが(1個40〜50円で販売)、売り上げは順調に上昇基調で推移しています。今は広告宣伝やマーケティングといったものは考えず、卵の旨みを向上するにはどうしたらよいかということに集中して卵を生産しております。

 国産の子実トウモロコシを使用することは、当農場にとってはメリットだらけでデメリットは今のところありません。自分たちが生産したものを自信をもって販売することができるのは、非常にありがたいことです。ニワトリ自体の健康状態もよくなることでコスト削減効果も出ています。

 何よりも経営の安定化をはかることができるのが最大の利点です。畜産農家のコストの大半は飼料費が占めています。そのため、どんなに経営努力をしても国際相場や為替による変動要因によって、飼料価格が高騰すると対処のしようがありません。経営を安定化させるには飼料価格の安定化は重要です。飼料価格がほぼ固定化されてしまえば、あとは売り上げを上げていければ収益は上がります。

 跡を継いで約20年が経過しましたが、今ようやく子実トウモロコシに出合ったことで、本当の意味での経営に専念できるようになったと感じております。当農場の記事を読んで一人でも多くの方が子実トウモロコシの生産に参加してくれれば幸いです。

(北海道倶知安町)

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現代農業 2019年7月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年7月号

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