月刊 現代農業
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(依田賢吾撮影)

・肥料袋からわかること …… 50ページ
・肥料の名前の話 …… 54ページ
・チッソ、リン酸、カリの話 …… 56ページ
・チッソ肥料の肥効の話 …… 62ページ
・リン酸やカリの溶けやすさの話 …… 68ページ
・副成分の話 …… 70ページ
・肥料の分類の話 …… 78ページ
・粒の形と大きさの話 …… 83ページ
・混ぜ方の話…… 86ページ
・有効期限と保管の話 …… 88ページ
・肥料の流通の話 …… 92ページ
・オーダーメイドBB肥料の時代がやってくる …… 96ページ

今さら聞けない 肥料選びの話

作物・気候に合わせた肥料を、土壌診断して作る
オーダーメイドBB肥料の時代がやってくる

JA全農長野、北穂アグリ

化成肥料の集約化とは一線を画す

 肥料のメーカー数や銘柄数の多さが製造・流通コストを押し上げる一因になっている――。

 いまJA全農では、事前予約と入札でメーカーを絞り込み、銘柄を集約化することで、肥料価格の引き下げに取り組んでいる。2017年の春肥では、約400あった高度化成・NK化成の一般銘柄を17に集約。1〜3割の価格引き下げを実現したという。2018年の秋肥では、新たに普通化成と苦土入り高度化成の150銘柄も加え、合計550銘柄を25銘柄に集約して、さらに低価格化を図る。

 一方、銘柄集約とは真逆の方向で農家のコスト削減に貢献しようという動きもある。JA全農長野の子会社、JAアグリエール長野によるBB肥料生産だ。「『いまある肥料を使う』から『使いたい肥料を作る』へ」をキャッチフレーズに450銘柄を生産。なかでもオーダーメイドの「わたしの肥料」(最小ロット4t)は大規模農家や農業生産法人向けに出荷数量を毎年増やしており、2012年に1876t(取引先数157)だったのが2017年には3279t(同220)となった。ここ5年で75%の増産だ。

「安い肥料に合わせた栽培法をとるのではなく、作物に合わせた肥料を、土壌分析をして作っていく。化成肥料の集約化とは一線を画す取り組みなんです」と、JAアグリエール長野の肥料事業部部長、青柳元彦さんが力強く語ってくれた。

中国から輸入される原料の燐安を手にして説明する、JAアグリエール長野の青柳元彦さん(写真はすべて依田賢吾撮影)

銘柄数が多くなるのも、ある意味必然

 BB肥料とは、バルク(粒)・ブレンディング(配合)肥料の略称で、粒状の原料を2種類以上混ぜ合わせた配合肥料のことをいう。化成肥料のように化学反応させて造粒するのではなく、登録を受けた肥料を物理的に混ぜ合わせるだけなので、簡単に新しい銘柄を作ることができる。肥効もワンパターンではなく自在に組み合わせられる。

 JA全農のBB工場は全国15道県に18カ所あり、JAアグリエール長野はその銘柄数やオーダーメイド肥料の取り組みで、トップを走る存在だ。

 他方、BB工場のない埼玉県のあるJAには、こんな悩みをもつ担当者もいる。

「せっかく土壌診断をしたのに、それに見合う肥料の取り扱いがない」

 ネギやニンジン、ブロッコリーといった畑作物の圃場を土壌診断すると、リン酸(P)やカリ(K)が過剰となる場合が多い。しかし、JA全農さいたまではPKの成分を抑えた「PKセーブ肥料」の取り扱いがないそうだ。

「有機入りの配合肥料ならPKセーブも取り扱っているけど、これまで普通に化成肥料を使ってきた農家にとっては値段が高いんです。単肥で自家配合するとなると、混合作業が大変。配合ムラが出る可能性もある。高齢農家に単肥を分施するよう指導するわけにもいきませんし……」

 結局、一般的な化成肥料や、水田用のNK肥料をおすすめするなど苦慮しており、せっかく土壌診断しても有効に生かせないのだという。

「たとえばナス専用肥料と一言でいっても、北陸と関東ではその中身はまったく違う。肥料はその土地、気候、品種、作型などに深くかかわってくるから。だから銘柄数が多くなるのも、ある意味必然といえるんです。袋数が多い銘柄に絞ればいいというものでもない」とその担当者はこぼす。

「オーダーメイドのBB肥料? 将来的にはそういう流れになるんじゃないですか」

工場の敷地内には、果樹やムギ用の秋肥や土改材などの製品が積まれていた

土質ごとに土壌診断、3年ごとに改良

 話を長野県に戻そう。

 北アルプスからの雪解け水が一面に広がる田んぼを潤す、安曇野市旧穂高町。「事務所から見える田んぼ、これみんなうちの法人が管理してるんです」と、農事組合法人・北穂アグリの代表理事組合長の丸山秀子さんが胸を張る。

 周辺農地220haのうちの7割以上にあたる165ha(地主270名、組合員169名)の耕作を一手に引き受ける北穂アグリは、この地域の集落営農法人の先駆けであり、JAアグリエール長野が作る「わたしの肥料」の大口顧客だ。

「15年くらい前かな、上伊那でJAオリジナルの元肥一発肥料を作っていると知ったんです。農業はそれぞれ、土壌も違えば陽気も違うでしょ。その土地にあった肥料を自分で設計できるのは、画期的だなと思ったんです」

 最初は3、4haからはじめて、いまではイネ115haの元肥一発肥料に「穂高N20」、ムギ50haの元肥に「北穂アグリ麦専用」というペットネームをつけたオーダーメイド肥料を使う。

 毎年、土質ごとに土壌診断(イネ80点、ムギ10点)をし、3月に全従業員12名と全農長野、JAあづみ、普及センターの担当者が集まり、水稲研修会を開く。前年の反省とともに、当年の施肥設計や肥料の改善点を話し合うのだ(肥料は約3年ごとに改良)。

右からJA全農長野で「わたしの肥料」の肥料設計を担当する吉田清志さん、北穂アグリの丸山秀子組合長、JA全農長野・生産資材課の中信地域担当の二村豊彦さん

施肥機への補給回数も減らす「密苗用」

 毎年いくつかの圃場でオーダーメイド肥料の試験栽培もしている。今年は「穂高N20」の改良、長野県育成の品種「風さやか」専用、コシヒカリ密苗用、飼料米「ふくおこし」専用の肥料を試している。

 たとえば、「穂高N20」にはチッソ成分が20%含まれ、速効性の塩安、燐安、塩化カリ、硫マグのほか、20日タイプと100日タイプの被覆尿素が含まれている。しかし、風さやかはコシヒカリより過繁茂になりやすいため、風さやか専用では初期の肥効を落とすべく20日タイプの被覆尿素を除いてみた。

 また、コシヒカリ密苗用はチッソ成分を27%まで上げた。密苗にすることで苗箱数が10a当たり16枚から6、7枚に減るが、側条施肥機への肥料の補給回数はこれまでと変わらない。そこで、チッソ濃度を上げて10a当たりの施用量を減らすことで、補給回数も削減しようというものだ。

 飼料米専用肥料はチッソ濃度をさらに32%に上げた。こちらは10a当たりの施用量を減らさず、チッソの施肥量を多くすることで多収をねらう。ただし、肥料設計を担当するJA全農の吉田清志(元長野県農試)さんによると、チッソ成分を高めるとリン酸、カリの配合を減らさざるをえず、32%がギリギリのラインとのことだ。

 こうして毎年の土壌診断をきっちりやりつつ、試験圃場での生育調査を繰り返すことで、オーダーメイド肥料の改良や開発が進むのだ。

密苗用肥料の試験田で生育中のコシヒカリ。今年は猛暑が続くが北アルプスの雪解け水が豊富にあるので、しっかりかけ流しして例年どおり一等米率100%をねらう

トータルで生産コストを下げる

 組合長の丸山さんに肥料代を安くするコツを聞いてみると、「値下げ交渉をしたことはございません」との答えが返ってきた。とにかく、従業員の作業性が改善され、植物にとって最適な肥効が実現されることがなにより大事と考えているからだ。

 北穂アグリの「穂高N20」の場合、1袋当たりの金額はJAで販売されている全県銘柄の元肥一発肥料よりも約15%高くなる。しかし、全県銘柄はチッソ成分が16%で10a50kgが標準施用量となるが、「穂高N20」はチッソの成分量が高く施用量は36〜38kgで済んでいる(圃場には鶏糞も入れているので、元肥チッソ量自体も標準より若干低い)。作業性がアップするだけでなく、施用量が少ない分、10a当たりの肥料代は約18%安くなる計算だ。

JAアグリエール長野の土壌分析室。最新の分析装置を配備し、長野県下18JAより分析を受託している

「JAで販売される肥料はその地域にあった肥料ですが、あくまで『最大公約数』」と吉田さん。地域で営農する多様な農家が、可もなく不可もなく使えるような設計が優先される。オーダーメイド肥料なら土壌診断の結果に基づいて、必要のないリン酸やカリを大胆に削ることもできる。コスト削減につながるし、過剰投入による環境負荷の回避にもなる。

専用封筒に入った土が集まってくる。昨年は8304点の分析を実施

 また、レタスやハクサイといった高原野菜産地では雪解け後の短い春に、土づくり肥料、元肥、緩効性チッソ肥料、リン酸・苦土・微量要素、有機質肥料などを一括施肥できる「わたしの肥料」が好評だ。吉田さんが施肥設計にかかわった農家を調べたところ、レタスの元肥では平均で4.2銘柄(少ない人で2、多い人だと8銘柄)を使っていたそうだ。これらを銘柄ごとに散布してすき込むのだが、これを1銘柄にまとめて省力化する。

 元肥が一括されれば労力は減るし、少量でまきづらい微量要素のまきムラも改善される。トラクタが圃場に入る回数も減るので、燃料代の節約やトラクタによる踏圧回避にもつながる。

 肥料代だけでなく、トータルでの生産コストを下げられる――。

「わたしの肥料」を利用した農家のほとんどがリピーターとなっている理由は、その辺にあるのだろう。

民間の工場でも、最小ロット50袋からオーダーメイド

 オーダーメイド肥料はJAグループのBB工場だけでなく、民間に発注することもできる。静岡県袋井市の豊田有機株式会社・肥料工房では最小ロット50袋(1t)から受注しており、工場から直送するため遠隔地でも市場価格より安価に提供できる(2013年3月号)。

 また、福岡県久留米市のアグリ技研株式会社でも液肥50袋(1t)、粒状肥料200袋(4t)から受注。やはり、土壌診断に基づいて余分な肥料成分を省けるから、コストアップにならず、有機主体でつくるなど肥料の素材にもこだわれると好評だ。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2018年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2018年10月号

土肥特集2018:今さら聞けない 肥料選びの話
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だれにもできる 土壌診断の読み方と肥料計算

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