月刊 現代農業
ルーラルネットへ ルーラル電子図書館 食と農 学習の広場 田舎の本屋さん

「田畑のイベント上手になる」コーナーより

農家が心底当てにする
「カーネーション片付け隊」に密着

巻頭写真

世の中には「農作業を体験したい!」とウズウズしている人が大勢いる。
助っ人として田畑に呼んで、気持ちよく汗を流してもらえば、自分の仕事はうんとラクになる。

カーネーションの片付けイベントの参加者(田中康弘撮影)

神奈川県秦野市・山口明男さんの温室にて

イベント当日、作業後の1枚。この日は気温が30℃を超えていたが、みんな元気いっぱい(写真はすべて田中康弘撮影)

カーネーション。本来は蕾の状態で出荷するが、参加者にプレゼントするために、あえて花を咲かせた

お金を払ってでも、農作業がしたい

 カーネーション農家の山口明男さんにとって、一番つらいのは植え替えどきの片付け作業だという。夫婦2人の農業だし、奥さんはひざを悪くして思うように働けないし、おまけに田んぼもけっこうあるので、代かき、田植えと仕事が重なってしまう。日程的にも体力的にも限界だったのだ。

 だから、6年ほど前に全国農協観光協会と地元のJAから「カーネーション片付け隊」の企画を持ちかけられたときも、快く賛同した。これは都市住民を呼んで、生の農作業に触れてもらう体験型イベント。参加者からすれば、交通費は自腹だし、会費も1人3000円かかる(当日の昼食代などが含まれていて、全国農協観光協会が集める。農家は受け取らない)。

「いやー、すごいなーと感心してますよ。普通、仕事を手伝うとなると、時給いくらでってことが先にくるじゃないですか。逆ですからね。お金を払ってでも農業を体験してみたいと思っている方が大勢いるんです。こちらとしては、単純に労力として期待しちゃってますけど」

 とはいえ、素人の農作業なので、困ることも多々ある。たとえば、かん水チューブのノズルを踏んづけて壊してしまったり、フラワーネットを誤って切ってしまったり……。だけど、山口さんは少々のことなら目をつぶる。それ以上に「手伝ってもらう価値がある」と感じているからだ。

山口明男さん(62歳)。カーネーションを30年栽培。現在は温室が400坪ある

定員をはるかに上回る応募数

 さて、今年のイベント当日(6月10日)。朝9時半。集合場所であるJAはだのの本所には、たくさんの人が詰めかけていた。なんでも定員40人のところ、70人の応募があって、抽選で絞りこんだという。年代は20代から70代までまちまちで、圧倒的に女性のほうが多い。この40人が3班に分かれ、それぞれ別のカーネーション農家のもとに向かった。

 山口さんの家に来たのは女性9人、男性3人。周囲の山や田畑を眺めて、さっそく「帰りたくなくなっちゃう」と漏らす人もいた。そして、山口さんのあいさつがはじまる。

「今日はありがとうございます。予報では気温が30℃を超えるといってますからね、温室の中は蒸し風呂状態です。身体がおかしくなったら、いや、おかしくなる前に、日陰で休んでください。誰も文句は言いませんから」

参加者同士で友達に

 じつはこのイベント、今あるカーネーションを好きに持って帰れる特典もついている。制限時間は最初の15分。みんな口々に「素敵」「癒される」「キュンキュンしちゃう」と言いながら、競って花を摘んでいた。なかには両手で抱えきれないほど収穫する人も。花束を新聞紙で包み、水に浸けておき、ひとまず楽しいひとときは終了。

 続いて、真剣勝負の片付け作業がはじまった。カーネーションを引っこ抜き、まとめて温室の外に運び出す、その繰り返しだ。やたらと手際のいいコンビがいたので、声をかけてみると、2人は「援農友達」なんだとか。普段はまったく付き合いがないが、リンゴの摘果、葉摘み、収穫体験などでも一緒になって、今回のカーネーションも1人が「こんなのあるけど、どう?」と誘ったそうだ。今後も他のイベントが詰まっているようで、「これから忙しくなるわよ〜」と張り切っていた。

作業をはじめる前に、まずは山口さんが収穫の仕方や片付けの手順を解説

「カーネーション片付け隊」の作業

自由に収穫し、好きなだけ持って帰れる。ピンク、オレンジ、白など、さまざまな品種がある。制限時間は15分

まずは2人1組になって、ウネを挟んで向かい合い、フラワーネットを上にずらす。その後、各々、株を抜いていく

抜いた株が溜まったら、温室の外に運び出す。最後に一輪車で、近くの所定の場所に捨てにいく

農業への理解が深まる、カーネーションの宣伝にも

 作業中は山口さんも参加者と積極的に声を交わす。

参加者A「カーネーションって、母の日に合わせてつくってるんですか?」

山口さん「母の日に合わせて、大量に輸入してるんですよ。コロンビア、中国、ベトナムなどからね」

参加者B「その時期、値段が高いですもんねぇ。なんじゃこりゃっていうぐらい」

山口さん「ここでは1年かけてカーネーションをつくり、11月から5月まで出荷しています。母の日でなくても、花屋に行ったら、今日の体験を思い出してください。そして、できればカーネーションを買ってもらえれば……」

 山口さんが参加者を受け入れるのは、「農業への理解を深めてほしい」、そういう思いも持っているからだ。

山口さんの家のガレージで昼食。イスとテーブルはコンテナを利用。弁当は主催者の全国農協観光協会が持ってきてくれた

苗の植え付けもつらいから、体験に

 正午になったので、ここでいったんお昼休憩。山口さんの家のガレージにコンテナを並べ、みんなで弁当を食べることになった。

 午後も引き続き同じ作業をこなしたが、新たにフラワーネットをはずす仕事や支柱を抜く仕事、残渣を捨てにいく仕事も加わった。さらに違うハウスでは、苗の植え付けにも挑戦。カーネーション農家にとって、これはかなりの重労働で、機械化もされておらず、イヤになって離農した人もいるほどだという。山口さんの奥さんも苦々しく語る。

「ずうっと座ったままですからね。家に帰ると、立てなくなります。次の朝までうなってますよ。ああ、機械がほしい。この作業をしなくてすむなら、どんなにお金がかかっても構わないと思ってるんですけどねえ」

 そんな事情もあって、山口さんのところでは、今年初めて「体験」として導入してみた。すると、「私、やりたい」「私も」と、参加者が次々立候補。

 結局、すべての仕事が終わったのは、予定よりも1時間近く早い14時半頃であった。

苗の植え付け体験。すでに他のカーネーション農家がやっていたので、山口さんも試験的に導入してみた。参加者にわかりやすいように、植える位置に緑のピンを挿した

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年9月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年9月号

巻頭特集:夏の石灰欠乏に挑む
 モミすり機 掃除&メンテ術/夏播きは遮熱でうまくやる/葉取らずリンゴで活路を開く/脱・化粧肉の子牛に注目!/農機メンテ コンバイン・バインダー編/もうやめられない、ラッカセイ/GAPが知りたい ほか。 [本を詳しく見る]

カーネーションをつくりこなす カーネーションをつくりこなす』宇田明 編著

国産のカーネーションが生き残っていくためには、「しなやかで、上品」な日本的な品質のカーネーション栽培が必要。 「安全・安心」、そして疎植栽培や少量培地耕、2年栽培など低コスト対策も。 [本を詳しく見る]

カーネーションの絵本 カーネーションの絵本』細谷宗令 編 中谷靖彦 絵

この絵本をはじめとして、そだててあそぼうシリーズ(全105巻)には、イベン トに使える(子ども向けの)実験や、知識がいっぱい載っています。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

もどる