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野菜・花

ミニトマト20tどりの親方が指南

「成り疲れ」といって諦めるな!
しっかり手を打てば、最後の最後まで収量は伸びるぞ

静岡県伊豆の国市・鈴木幸雄さん

「親方」こと鈴木幸雄さん。ハウス53aで平均反収20tを達成(写真はすべて5月9日、赤松富仁撮影)
※2017年1月号、3月号、5月号の記事もご覧ください

「親方」こと鈴木幸雄さん。ハウス53aで平均反収20tを達成(写真はすべて5月9日、赤松富仁撮影)
※2017年1月号、3月号、5月号の記事もご覧ください

双子のミニトマトがなるのは、樹勢が強い証拠

双子のミニトマトがなるのは、樹勢が強い証拠

「成り疲れ」しやすい時期!?

 前回(5月号)から約2カ月ぶり、5月上旬に親方のハウスにお邪魔すると、研修生が変わった形のミニトマトを手にしていた。双子型の果実で、草勢が強い時期に花芽分化した果房に出やすいんだとか。規格外で出荷できないが、いってみれば元気のバロメーターで、聞けばこの時期、普通はそんなにお目にかかれないものらしい。

 8月下旬〜9月上旬定植のトマトは、シーズンの終盤を迎えようとしているところ。春先から温度が上がり、日射量も増えて、親方の収量はガンガン増えている。フタコブラクダのような収量曲線の、二つ目の山を登っているのだ。ミニトマトの調子は確かによさそうだし、作業場には、果実満載の収穫カゴも積み重なっている。

 周りもみんなそうなのかと思いきや、この山を登る途中で息切れしてしまう農家もけっこういるらしい。3月4月に増収しても、その勢いが続かないのだ。いわゆる「成り疲れ」というやつだろうか――。

年内高くて、年明け急降下

 なんでも、今シーズンはフタコブ目の山が特に高いとか。それは、トマトの価格によく現われている。

 市場の動向を見ると、去年11月の取引量は平年(過去5カ年平均)より約7割程度と少なく、その分、平年比で1・5倍近くの値がついた。12月の価格も平年比を大きく上回っている。ところが、年が明けて1月に入ると平年並みの価格となってしまい、2月以降はずっと安値基調なのである。以上は東京青果の値動きだが、全国的にも似たような傾向だ。

 今シーズン、年内の価格が高かったのは去年9月、定植後に続いた曇雨天のせいで、トマトに着果不良や生育遅れがあったから。一転、年明け以降は気候が回復。生育初期に収量が伸びなかったせいで体力が残っていることもあって、俄然、とれだしたということのようだ。

 親方も「とくに4月中旬は猛烈にとれた」という。おかげで、今のところの収量は昨シーズンを6%ほど上回っている。今シーズンも20tの大台に乗りそうな勢いだ。

 安値もそれほど気にしている様子はない。前回もいっていたが、親方はもともと「厳寒期に樹に無理させるよりも、暖房代などのコストがかからない春にガンガンとったほうが稼げる」という考え方だ。

 ただし、収量が急増した時期は、冬場に7割をキープしているL玉率が、約4割まで落ちてしまった。手間がかかるのに単価が落ちるので、それは多少響いていそうだ。

 曰く「とれすぎた」。その影響は、トマトの樹にも現われているという。

図1 ミニトマトの値動きと取引量(東京青果)

図2 ミニトマトの収量曲線(2016年度)

親方以外の農家はだいたい、12月をピークに収量が落ちて、春にもう一度ピークがくる「フタコブラクダ型」。二つ目の山は5月中旬以降、なだらかに下がってしまう。親方は春のピークがずば抜けて高く、片付け始めるまで右肩上がりが続く

とれすぎて細った茎

「このあたり、茎が細くなっているのね」

 親方が自分の肩の高さあたりを指して言う(212ページ写真)。葉をかき分けて見ると、確かに少し細い部分があって、またしばらく上にいくと太さを取り戻している。親方がいつも気にしている生長点付近はいつも通り元気そうなので、いわれなければ気付かなかった。

 その細くなったあたりこそ、4月中旬、とれすぎたころの生長点付近なんだとか。果実に養分をもっていかれたことと、その時期、ちょうど側枝を増やしたこともあって、茎がぐっと細ってしまったのだ。

「茎が細ったところは力がないので、シングル果房しか出ていない。細い茎からはわき芽も出ないし、葉も小さく短くなりがち」

 つまり、放っておけばますます細くなり、根も弱り、ますますとれなくなってしまうのだ。

「成り疲れ」といって諦めるな!

 この傾向は、今年に限ったことではない。親方によると、一般的に、春以降は日射量の増加に従って果実の着果・肥大が進み、トマトは生殖生長に傾きやすくなる。その流れに任せてしまうと、収量が伸びれば伸びるほど、樹は細って勢いを維持できなくなる。いずれは体力不足に陥って、いくら日射量が十分にあったとしてもシングル果房ばかり、収量がとれなくなってしまうのだ。

 改めて収量曲線を見てみると、親方の収量は梅雨入りして片付け始める6月中旬まで右肩上がりだが、地域平均のほうは5月中旬にフタコブ目のピークがあって、以降はなだらかに失速している。

「それを『成り疲れ』といって諦めたり、5月下旬には摘心しちゃうからいいやという人もいますが、違います。どんどんとれ始めた時に手を打っていないだけ。先を読んでちゃんと手を打てば、最後までとれる樹勢を維持できる。推測の技術です」

親方のミニトマト。印付近が少し細っているが、少し上にいくとまた太くなっている。細い茎から出た果房はシングル。生長点近くの果房はダブルに戻っている

とれすぎた時に打つ手

積極施肥と積極かん水

 トマトが猛烈にとれ始めた時、親方が打つ手はいくつかある。一番大事なのは、とれ始めると同時に、積極的に追肥すること。親方は3月から月にだいたい8回、1回にチッソ成分で反当たり2kgずつ、5月末までに合計24〜26kg施用するという。使うのは「住友液肥1号」。葉物によく使われるチッソ主体の安い液肥(N15―P6―K6)である(2回に1回はPKの多い液肥も混ぜる)。

 もちろん、水もじゃんじゃんやる。日射量がもっとも多くなる5月は、かん水量ももっとも多くなる。6月に入ると曇天が増えるし、この辺りではその頃田植えが始まってハウス周りの地下水位が高くなるため、かん水量は減らす。

 前回も春以降のかん水と施肥の重要性を説いていた親方だが、それはかなり多めのチッソと水で、落ちそうになる樹勢を維持するねらいもあったのだ。

◯内だけ、いつも通りに葉かきしてもらった。マルチ上の分が、いつもよりも余計に付けている葉

下葉を多めに残す

「それから、葉かきを控えて、下葉を多めに残すようにする」

 葉が多いほうが樹勢を維持できるからで、親方は1株に普段15〜18枚くらい付けている葉を、4月以降は5枚多く、約20枚以上付けている。株の上のほうばかりに目がいって、これもいわれなければ気付かなかった。

「果実が見えない、収穫しにくいって、パートさんには嫌がられるけどな」

横から見ると、葉の長さが上から下までほぼ揃っている。気象条件に応じて、樹勢を一定にコントロールしている証拠(下は炭酸ガス施用中のダクト)

炭酸ガスも焚き続ける

 加えて、親方は炭酸ガスもまだ焚き続けている。4月に入れば天窓も大きく開けるようになるので、炭酸ガス発生装置はお休みさせてしまう農家が多い。しかし親方にいわせると、5月上旬までは焚ける。中旬になってサイドも大きく開けるようになれば止めるが、それまでは多少のロスも覚悟して焚く。今年はさらに、5月いっぱい焚くつもり。果実肥大の効果が高いからで、費用対効果はあると踏んでいる。

 灯油燃焼型の炭酸ガス発生装置なので、ハウス内温度が高くなってしまうことを気にする人もいる。しかし最高気温をチェックすると、5月はせいぜい26〜28℃までしか上がっていない。

遮光カーテンで栄養生長に傾ける

 トマトがとれすぎる時は、遮光カーテンも使うという。かん水量を増やすことによって、春先の萎れが減り、カーテンを使う機会は減る。作物の生育には光が大事だといっていた親方だが、トマトが生殖生長に走っている時は、光を少し犠牲にしても、カーテンを使って栄養生長に傾けてやったほうがいいんだとか。

 5月上旬現在、親方のミニトマトは収量が落ち着いて(平年並みのペースに戻ってきた)、L玉率も5割以上まで戻ってきている。

 秋口からしっかり樹勢を維持。そして春の増収時にしっかり手を打ったおかげで、生長点付近の茎の太さも元に戻って、果房もダブル。いかにもこれから稼ぎそうな、いつも通りの樹姿である。どうやら親方のミニトマトには、「成り疲れ」なんてないようだ。

 取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。

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