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農文協のトップ月刊 現代農業2017年6月号>系統を知ってピシャっと効かせるローテーション防除

何度でも言おう
農薬ラベルにRACコード表示が絶対に必要だ

これ、ぜーんぶ同じネオニコチノイド系の殺虫剤です。
名前が違うからといって、続けて使っていませんか?
でも、間違えるのも無理はないですよね。
ボトルや袋には、農薬の系統が書いてないんですから――。

これ、ぜーんぶ同じネオニコチノイド系の殺虫剤です。 名前が違うからといって、続けて使っていませんか? でも、間違えるのも無理はないですよね。 ボトルや袋には、農薬の系統が書いてないんですから――。

「農水省が動いた!」

「病害虫の薬剤抵抗性の発達を最小限に抑えるため、農薬名には、作用機構分類(IRAC・FRACコード)を併記するとともに、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布するよう指導する」

 これは去年、農水省消費・安全局植物防疫課長名義で、全国の農政局に送られた通達に掲載された一文である。

 2015年から本誌でも紹介してきた、殺虫剤を作用機構ごとに分類したIRACコードと殺菌剤のFRACコード(148ページ)を、全国の生産現場で活用せよというお達しである。

 ようやく、農水省が動いた! そう思った指導関係者も多かったはず。なにせ、病害虫の薬剤抵抗性は、もう待ったなしの大問題だからだ。

薬剤抵抗性が広がっている

 農水省の調査によれば、2016年度の薬剤抵抗性病害虫の発生件数は、3年前の2倍以上に増えている。都道府県からの報告では、殺菌剤で1.4倍、殺虫剤で2.5倍、除草剤で2.7倍という内訳だ。去年の6月号ではアザミウマ、今号ではアブラムシ(86ページ)の抵抗性獲得問題を取り上げたが、その他、イチゴやカンキツのハダニや水稲のいもち病での報告が多かったという。

「薬剤抵抗性をつけないように、違う農薬でローテーション防除しましょう」というスローガンは昔からあるが、残念ながら事態は悪化しているのだ。

薬剤抵抗性の発生状況

薬剤抵抗性の発生状況

(「日本農業新聞」2017年2月26日より)

原因は農家の勘違い?

 その一因に挙げられるのが、130ページで島さんがいうような、農薬を使う側の勘違いである。「違う農薬」を順繰りに散布しているつもりが、じつは全部「同じ農薬」だった、そんなことがじつはけっこうありそうなのだ。

 ただし、これには仕方のない一面もある。どれが同じでどれが違う農薬なのか、今のままではとてもわかりにくいからだ。例えば殺虫剤のスタークルとアルバリンは、名前が違っても成分はまったく同じ。系統(JA)ルートと商系ルートとで名前を変えて販売しているだけなのだ。剤型は違えども、殺菌剤のオラクルとライメイも同じ成分の農薬。これでは、スタークルの後にアルバリン、オラクルの後にライメイを散布している、そんな農家がいたって不思議じゃない。

 そして、成分が違っていても、作用機構は同じという場合もあるのが、農薬の厄介なところ。138ページに並んだネオニコ系殺虫剤の写真を見てほしい。それぞれ名前も成分も違うが、いってみれば、これらが全部「同じ農薬」なのである。

 そしてそして、なぜか農薬のボトルや袋には、その系統名が書いてない。人に聞いたり、インターネットで調べればわかることもあるが、新剤の中には有機リン系とかカーバメート系とか、耳慣れた系統でくくれないものも多い。これでは、勘違いしたり、系統がわからなかったりする農家がいるのも当たり前だ。

広がるRACコードの活用

 以上のような問題意識は、一部の指導者や農家にはもともとあった。そこで、県によっては、すでにRACコードの活用を始めている。島さんが調べたところによると、2010年に岩手県や三重県が防除指針にRACコードを掲載したのを皮切りに、2013年以降、山口県や長野県、奈良県などが続々と指導者研修で説明したり、防除指針に取り入れたりしている。現在、少なくとも20県でRACコードを利用し始めているようだ。

 指導者層だけでなく、125ページの菅原さんや136ページの藤原さん、JAたまなのように、RACコードを生産現場で活用する動きも出てきた。

 しかし、薬剤抵抗性獲得防止のための取り組みは、全国で始めるべきだ。そういう声が大きくなって、農水省の通達に結びついたのではないだろうか。

農薬ラベルにRACコードを

 今後、自治体の防除指針や農協の防除暦などでRACコードを目にする機会は、間違いなく増えるはずだ。

 ただし、それだけでは不十分だという意見も多い。すべての農家がそうした指導に触れられるわけではないし、農薬を選ぶ際に、いちいち防除指針を開くのも面倒だ。

 やっぱり、農薬ラベルにこそ、RACコード(系統番号)の表示が必要なのだ。そうすれば、農薬を買う時にも、使う時にも、一目で区別がつく。

 じつは海外では、農薬ラベルにRACコードを記載している国が多い。アメリカやオーストラリア、オランダやドイツ、インドや中国、韓国、ブラジル、フィリピンなどなど。じつに30カ国以上ですでに取り組まれている。

 途上国の場合、識字率が高くなくて、文字を読めない農家もいる。また、先進国においても、労働者が国境を渡って来ていたりして、その国の言葉がわからなかったりする。それでも、数字とアルファベットからなるRACコードならば、一目瞭然、農薬の区別ができるのだ。

 ではなぜ、日本では農薬ラベルにRACコードを記載しないのか。国内の農薬メーカーのほとんどが所属する団体、農薬工業会では2012年に薬剤抵抗性対策特別チームを設置し、ホームページ上でRACコードを紹介するなどの取り組みをしている。しかし、農薬ラベルにRACコードを記載することに関しては、「農業現場に混乱がおきる可能性があるため、すぐには記載しないという基本方針」なんだとか。「時期尚早」というのである。

 ところが、国内の農薬メーカーも一歩海外に出れば、じつは同じ農薬にRACコードを記載して売っている。海外の農家に通用するRACコードが、なぜ日本の農家には通用しないというのか。そう考えている指導者や農家も多い。

日本の農薬メーカーが海外で販売している農薬(左はダントツ、右はスタークル/アルバリン)。目立つところにIRACコードが表示されている(販売会社のホームページより)

日本の農薬メーカーが海外で販売している農薬(左はダントツ、右はスタークル/アルバリン)。目立つところにIRACコードが表示されている(販売会社のホームページより)

コードやキャップを色分け

 一部の農薬メーカーは、2年前から国内で販売する農薬のラベルにも、RACコードを記載している。ぜひ、他の農薬メーカーにも続いてほしい。そして、行政にはその後押しをしてほしい。資材の価格を下げるのもけっこうだが、薬剤抵抗性の発達を抑え、ムダな散布をやめて農薬代を減らそうという農家の取り組みも、ぜひ応援してほしい。

IRACコードを記載した
デュポンの殺虫剤ラベル

IRACコードを記載した デュポンの殺虫剤ラベル

 さらにいえば、もっとわかりやすいように、業界で統一してRACコード別に色分けをしたらどうだろうか(本誌の誌面では、仮の色分けを提案している)。色がついていたほうが、番号だけよりも親しみが持てて、覚えやすいと思う。例えば、のようなマークをボトルやラベルに目立つように入れる。きっと、「正しいローテーション防除」が、かなりやりやすくなるはずだ。

 ついでに、殺虫剤と殺菌剤、除草剤でキャップの色や形を変えるなどすれば、作物に間違えて除草剤をかけちゃった、そんな事故も減るはず。

 わかりにくい農薬を、もっとわかりやすくしてほしい。『現代農業』からの3度目の提案である。

韓国の読者が農薬の写真を送ってくれた!

 お隣の韓国でも、やはり、病害虫の薬剤抵抗性が問題になっている。そこで2014年に、農薬のラベルにRACコードが表示されるようになったという。また、もともと殺虫剤と殺菌剤とでキャップの色も分けているとか。

 それは便利そうだ。ぜひとも、実物を見てみたい。ということで、韓国で果樹栽培を指導している朴成珍さんに、無理を承知で頼んでみた。

 朴さんは『現代農業』の読者で、記事に登場した農家を訪ねて、日本に視察に来たこともある。「有機農業を研究していて、化学農薬は詳しくない」という朴さんだが、農業資材屋に行って撮影してくれたのがこの写真だ。

 確かに、ちゃんと目立つ場所にRACコードが記載されている。また、殺虫剤は緑、殺菌剤はピンク、除草剤は黄色と、しっかり色分けもされている。これはわかりやすい! 日本も、ぜひ真似したい。

韓国のネオニコチノイド系殺虫剤「パントム」。ラベルの左上、目立つ場所に「4a(4A)」とIRACコードが記載されている。成分はジノテフラン。日本ではスタークルやアルバリンとして販売されている

韓国のネオニコチノイド系殺虫剤「パントム」。ラベルの左上、目立つ場所に「4a(4A)」とIRACコードが記載されている。成分はジノテフラン。日本ではスタークルやアルバリンとして販売されている

こちらも殺虫剤。紙袋だが、やはり左上にIRACコードが記載されている。「1a(1A)」なのでカーバメート系だ。成分はカルボスルファン、日本のアドバンテージやガゼットと同じだと思われる。殺虫剤のボトルキャップと同じく、ラベルは緑色。

こちらも殺虫剤。紙袋だが、やはり左上にIRACコードが記載されている。「1a(1A)」なのでカーバメート系だ。成分はカルボスルファン、日本のアドバンテージやガゼットと同じだと思われる。殺虫剤のボトルキャップと同じく、ラベルは緑色。

殺菌剤のキャップはピンク。ラベルの左上に「●4」とある。FRACコードとは違うが、韓国では、日本語でいうと「あいうえお」を利用して殺菌剤を系統分類している。成分はアミスルブロムで、日本のオラクルやライメイと同じ(韓国での商品名は「名作」)

殺菌剤のキャップはピンク。ラベルの左上に「●4」とある。FRACコードとは違うが、韓国では、日本語でいうと「あいうえお」を利用して殺菌剤を系統分類している。成分はアミスルブロムで、日本のオラクルやライメイと同じ(韓国での商品名は「名作」)

除草剤のキャップは黄色。IRACやFRACに対して除草剤にはHRACコードがある。この除草剤(バスタと同じ成分のグルホシネート)の場合は「H」とあるはずだが、見つけられなかった

除草剤のキャップは黄色。IRACやFRACに対して除草剤にはHRACコードがある。この除草剤(バスタと同じ成分のグルホシネート)の場合は「H」とあるはずだが、見つけられなかった

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年6月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年6月号

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