月刊 現代農業
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●巻頭特集 春の地温アップ大作戦

巻頭写真

春作、地温が作物の生育に大きく影響する。
根張りのいい苗を育てる地温の上げ方から、
早出しのワザ、マルチの使いこなし方、
ハウス栽培の地温アップ術まで大特集!

「苗の地温アップ大作戦」より

低温発芽・育苗メロンの根。タコ足状に細根がびっしり

根を傷めない温度でかん水
低温育苗+地温水かん水でメロンの根が変わった

京都・的場良一

 京丹後市久美浜町は、京都府の北部、兵庫県との県境に位置した町です。的場農場はこの町の、日本海に面した丹後砂丘で祖父の代から続く砂丘園芸農家です。

 私自身はメロンを栽培して43年が経ちます。現在、新芳露メロンを中心に黄美香、市場小路、オルフェメロンを約80aと、姫甘泉スイカを15a栽培しています。7月上・中旬頃から盆頃までの収穫で、ちょうどお中元物として皆様にご利用いただいています。

幻のメロン「新芳露」

 私が就農当時よりもっともこだわってつくり続けているのが新芳露メロンです。露地トンネル栽培に適した古い品種で、全国的に見ても産地がほとんどなく、この地域でも数軒を数えるだけだと思われます。

 というのも、新芳露は栽培が非常に難しいのです。最近は、病気に対する抵抗性を備えている品種が多いのですが、このメロンだけは違い、特にうどんこ病やべと病などに対する抵抗性が乏しい。また、生育過程で開花前に低温が続くと着果しにくく、さらに後半の暑さにも弱い。そして、収穫後の日持ちが悪いため市場性が弱く、店頭販売にはまったく向いていない、そんなメロンです。

 しかし、他の品種と比べ、肉質は少し軟らかく、漂う香りとまろやかさ、口の中に広がる深い味わいはとても上品で、食べた人に満足していただけるメロンです。

 栽培が思うようにいかないことが多く、いく度もやめようかと思いました。しかし、お客さんに「こんなおいしいメロン初めて食べたよ」と言われるたびに、思い直して次の年もメロンを育て、そして40年以上が経ちました。

筆者(中央)と家族 極上だが気難しい新芳露メロン。個人直販のほか、百貨店でも販売。果皮が右のように黄化してきたら食べごろ
筆者(中央)と家族 極上だが気難しい新芳露メロン。個人直販のほか、百貨店でも販売。果皮が右のように黄化してきたら食べごろ

片山悦郎氏と出会い
育苗の常識が一変

 私が、新芳露メロンの育て方でいつも悩んでいた頃、ちょうど10年前くらいになると思いますが、ある研修会で土微研の片山悦郎氏の講義を拝聴しました。片山氏の自信に満ちた講義は、私を圧倒しました。なにかしら、長いトンネルの先に一つの光明を見たような、体の中に雷光が走ったような気分にさせられたことを覚えています。

 片山氏の作物に対する思いや月の満ち欠け、金星の周期による作物の生育の変化、土壌診断などなど、それらの教えすべてが、今の私のメロン栽培の根底にあります。

 なかでも育苗については、今までの常識がまるで一変してしまいました。

3月上旬、低温(16℃)でじっくり発芽させたメロン。種皮を土中に置いてくる
3月上旬、低温(16℃)でじっくり発芽させたメロン。種皮を土中に置いてくる

低温育苗の温度管理

 私は、播種から定植までの育苗期間こそが、メロンの一生の80〜90%を決める、とても大事な期間であると思っています。メロンの一生は、発根時からいかに強い細かい根をたくさん張らせるか、いかに「徒長根」を張らせないかで、ほぼ決まってきます。片山氏から学んだ技術を交えて、その温度管理を中心にご紹介します。

▼5℃の冷水で浸種

 大自然の中で、植物(メロン)の種子は寒い冬を越し、水分をたっぷり吸って春を迎えます。最低地温が14℃くらいになると、まずじっくりと発根し、それから発芽します。

 そこで私は容器に水を張って種子を浸け、5℃以下の冷蔵庫に5日間入れます。冷蔵庫から出したら発芽促進剤(きのこエキスの「シャングー」)に半日浸し、布などで水分をよくふき取ってから播種します。

▼16℃で芽出し

 床土には、排水良好で肥料成分の少ない砂を使用。育苗床には電熱線を張って、サーモスタットで温度管理しています。

 メロンの場合、一般的には、設定温度を28℃前後にして3日間くらいで発芽させます。すると、確かに発芽揃いがよく、双葉や本葉一枚目も大きくて元気そうに見えます。

 しかし、急いで発芽した苗は、地上部が優先してタネの養分を急激に食い尽くしてしまいます。その苗は根の数が少なく、軟弱に育ち、栄養生長に偏った徒長苗となります。

 本来、メロンの根は8℃以下、根毛は14℃以下で低温障害を起こし、根傷みを誘発するそうです。。そこで私は、夜間最低地温を16℃にセットして発芽させます。発芽には7〜8日かかりますが、低温発芽させることによって、細かい根を出してじっくりと育っていき、皮かぶりも少ない状態で発芽します。

▼徐々に温度を下げて育苗

 接ぎ木直後の養生期間は最低温度23℃くらいを目安とし、そこから徐々に下げていきます。接ぎ木後、1週間くらいかけて日中の外気に慣らし(被覆の換気回数を増やす)、鉢上げへと進みます。

 鉢上げには乳白ポットを使います。黒ポットは温度が上がりやすく、光を透さず、徒長根になるからです。

 一般的な指導では、播種から定植までの育苗日数を30日前後としていますが、私は、45日から50日かけてじっくりと育てます。鉢上げから定植までの夜間最低温度は18℃に設定し、定植前になると徐々に温度を下げ、最終的に15℃設定で温度管理しています(普通は20〜22℃が目安)。高温で管理すると根数が少ない徒長苗となり、弱い性質の苗になってしまいます。

低温発芽・育苗、20〜25℃の少量かん水で正常に育った苗の「霜降り状」の根 根鉢を崩したところ。正常な苗の根の長さはこれくらい
低温発芽・育苗、20〜25℃の少量かん水で正常に育った苗の「霜降り状」の根 根鉢を崩したところ。正常な苗の根の長さはこれくらい
普通の管理(高温発芽・育苗、冷水の多かん水)で弱い根が伸びた苗 根鉢を崩すと根が徒長している。「徒長根」と呼んでいる
普通の管理(高温発芽・育苗、冷水の多かん水)で弱い根が伸びた苗 根鉢を崩すと根が徒長している。「徒長根」と呼んでいる

20〜25℃に温めてかん水

冷たい水は根毛を傷め、細根の発生を抑えてしまう。20〜25℃に温めた水を、1ポットずつ生育に合わせてかん水
冷たい水は根毛を傷め、細根の発生を抑えてしまう。20〜25℃に温めた水を、1ポットずつ生育に合わせてかん水
接ぎ木後は徐々に温度を下げて育苗。普通の1.5倍以上の日数をかけてじっくり育てる
接ぎ木後は徐々に温度を下げて育苗。普通の1.5倍以上の日数をかけてじっくり育てる

 一般的なやり方に比べて、低温で発芽、育苗しますが、かん水は逆に地下水を少し温めて使うようにしています。冷たい水を多量にかん水すると、根にストレスを与え、硝酸が溜まって根傷みを起こし、新根の発生が少なく弱くなってしまいます。そういう根は徒長して、ポット内に太くとぐろを巻くように伸びます。そしてやはり、徒長苗となります。

 そこで、私は20〜25℃に温めた地下水でかん水しています(地温水)。播種から接ぎ木するまでは、土や苗の状況を見ながら最小限のかん水とし、鉢上げ後もポット一つ一つに苗の生育に合わせ、少量ずつ(10〜30cc)、午前中にかん水します。

 定植後の管理もじっくりゆっくり育てることがとても大切です。かん水には、やはり冷たくない水を株元に必要最小限施す程度です。定植後1カ月くらいはあまり大きくならず、本葉も小さいのですが、がっちり生長して、中後半には見違えるように本葉が立ち、しっかりとした樹に育ちます。

霜降りのような細根で病気や異常気象に強くなる

 低温発芽、低温育苗、冷たくない水での少量かん水でじっくり時間をかけることで、まるで牛肉の霜降りのような、細かい強い根をたくさん張り巡らすことができます。

 細かい根が張っていれば、ミネラルが十分吸え、硝酸態チッソの同化能力も高まり、メロンの生育が健全になります。その結果、病気に対する免疫力が高まり、多少の異常気象にも耐え得るメロンになると思います。作物が持っている特質を最大限引き出せるので、もちろん品質や味、香りにも表現されてきます。

 新芳露メロンは、とてもデリケートなメロンです。今もって完全とはいえません。もっと勉強し、安定的に収穫できるようにしていきたいと思っています。

 京丹後は自然にも恵まれ、美味しい食べ物もたくさんあります。もっと多くの人に知ってもらい、この地に来ていただき、地域を活性化できればと考えています。

(京都府京丹後市)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年4月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年4月号

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