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温湯処理中の種モミ
(依田賢吾撮影、以下Yも)
温湯処理中の種モミ (依田賢吾撮影、以下Yも)

温湯処理の普及で増加!?
ばか苗を抑えるポイント

 カラー口絵で紹介した、温湯処理。秋田県横手市の山石秀悦さんと一緒に、あえて温湯処理をしない種モミを30箱用意し、試験区を作って育ててみた。

 田植え時に再訪して試験区を見ると、みごとに(?)ばか苗病にかかった株が散見された。数えてみると、無処理区では10箱につき5.7本。一方、処理区では0.4本に抑えられていた。「温湯処理は成功したということですね」と山石さんも満足げだ。

 ところが、温湯処理の普及が各地で進むなか、それと歩調を合わせるように、ばか苗病が増加しているそうだ。どういうことか? 原因と対策を探ってみた。

処理時間と温度の厳守を

 環境保全米の先進地であり、温湯処理の普及も進んでいる宮城県でも、ばか苗病が増えている。古川農業試験場によると、県内での温湯処理は平成10年頃から普及しだしたが、平成17年頃から農協単位で大規模な温湯処理のプラントを導入したり、温湯処理のできるハト胸催芽機を複数台所有したりするようになり、利用する農家も一気に増えた。

 これを機にばか苗病も増加したそうだが、その原因として考えられるのは、導入当初に温度管理や処理時間が徹底されていなかったことだ。個人でやる場合も同様だが、まずは、60℃で10分(宮城県では63℃で5分を推奨)をきっちりと守ることが基本だ。

 カラー口絵の山石さんのように、温度の低下を見越して少し高めの水温でスタートし、ストップウォッチできっちりと時間を測るとよい。また、福島の薄井勝利さんは、60℃×10分=600分℃と積算し、温度低下したときは、その分時間を長くして補うという(142ページ)。

温湯処理なしの種モミから
ばか苗が発生

収量には影響しないが……

 ここで、ばか苗病の特徴について見てみよう。ばか苗病菌は種子感染するカビの一種で、胞子が発芽すると植物ホルモンであるジベレリンを分泌し、苗を徒長させる。徒長苗を本田に植えても、初期(分けつ期に入った頃)に枯死してしまうので、よっぽどでない限りは収量には影響しない。

 しかし、枯死した株の茎には白い粉状の胞子がついていて、健全株が出穂すると穂に移って種子感染し、冬を越す。だから、「多少出ても収量に差はないから、まぁいいか」と思っていると、地域全体の菌密度が徐々に上がっていく可能性がある。

 となると、多発の原因は種モミの保菌率が上がってきたからでは? と考えてしまうが、各県や関係機関の委託でつくる農家の採種圃では種子消毒を徹底し、近くの圃場にばか苗病の発生があった場合は、その採種圃からは採種しないなどの対策がとられており、以前と比べて種モミの保菌率が上がったとは考えられない(ただし、開放系の水田での栽培なので、完全に感染を防ぐことはできないから、温湯処理や薬剤での種子消毒が必須となる)。

保管場所に注意が必要

 では、農家個人ではどんな対策をとったらよいか?

 まず、グレーダー選別や塩水選をしっかりして健全な種子を選別する。そして、自分で温湯処理をする場合は温度と時間を守るのに加えて、浸種直前まで温湯処理をしないことだ。薬剤消毒と違って、温湯処理には残効がない。きっちり温湯処理をして殺菌しても、浸種までの時間が空くと、その間に一部で感染し、浸種や催芽のときに全体に広がる可能性がある。

 ばか苗病菌の生育適温は25℃前後といわれる。浸種の際には温度が高いと発病率が増加するので、15℃より高くならないよう気をつけたり、催芽では30℃前後でムラなく行なうことも大切だ。また、ばか苗病の感染は出芽時までといわれており、緑化後の苗の段階で感染が広がることはない。したがって、プール育苗が原因で蔓延することはなく、それどころかプール育苗で発生率を抑える効果も認められている(水位を覆土表面より高く保つ管理が条件)。

 次に、温湯処理済みの種子を購入する場合は、保管場所に気をつける必要がある。大型プラントでの温湯処理は、早いときで1月から作業するそうで、農家の手元に届いて3月の浸種までに2カ月間のタイムラグがあったりする。その間に一部で感染してしまう可能性があるからだ。

 ばか苗病菌は種子に感染して越冬するが、その他にモミガラやワラでの越冬が疑われている。たとえば、作業場に温湯処理済みの種子を保管していると、ワラクズなどから胞子が飛んで感染する場合もありうるだろう。したがって、処理済みの種子を購入したら、家の中などに保管したほうがよさそうだ。

ばか苗病菌の生活サイクル

胞子が発芽するとジベレリンを分泌して苗を徒長させる。本田移植後に枯れるので収量に影響はないが、出穂後の穂に感染して生き残っていく

ばか苗病にかかった苗(内藤秀樹撮影)
ばか苗病にかかった苗(内藤秀樹撮影)
ばか苗病菌の生活サイクル

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