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「田んぼの土壌診断 産地みんなでレベルアップ!」コーナーより

消費地と結び付いて わが地域のお米のファンを獲得したい。 その第一歩が土づくり。 ブランド米づくりに 土壌診断は欠かせない

土壌診断で「売れる米」づくり
鉄散布で食味値アップ

島根・和田幹雄

 私は島根県飯南町の長谷集落で(農)長谷営農組合の代表理事を務めています。7年前から飯南町において特別栽培米(エコロジー米)の生産を推進する協議会の会長になり、その生産拡大に取り組んでいます。

筆者
筆者

耕作面積を減らさない

 国の米政策は、2004年に大転換を迎えました。生産現場の創意工夫に任せられることとなり、前年の販売シェアに応じて生産数量が配分されるようになり、「売れる米づくり」へシフトしました。

 稲作を農業の中心に据える飯南町では、米の生産面積が減るのは死活問題です。生産面積の減少を食い止めるためには品質の良い米を生産し、販売を増やしていかなければなりません。しかし、現場では米の品質を追求する機運は見られず、コンバインで収穫した生モミを大型乾燥施設へ搬入すれば、その年の農作業は終了するという状況でした。

 そうした状況を打破しようと、一部の生産者や農協、県、そして町が連携して「飯南町エコロジー米生産推進協議会」(以下、協議会)を発足しました。現在では、57の生産者(12の集落営農法人を含む)が町内の水稲面積の44%にあたる約250haでエコロジー米(品種はコシヒカリ)を作付けています。

収穫時に生モミと土を採取

 米の品質向上の第一歩として始めたのは、圃場ごとに生モミと土壌をセットで採取して、独自検査をすることでした。

 具体的には、イネ刈り時期を前に、協議会の事務局から生モミ採取用のネット袋と検査土壌を入れるポリ袋が生産者へ配布されます。生産者はイネ刈りを行なうと、コンバインから出てくる生モミ約1kgをネット袋に採ります。そして、イネ刈りが終わった圃場の数カ所から深さ10cmほどの作土層を削り取り、合計約1kgの土塊をポリ袋に詰めて持ち帰ります。

 生モミは軒先に吊るして乾燥、土塊は新聞紙に広げて乾燥・破砕した後、農協の営農経済センターに届けます。ここで土塊は再調製され、通し番号を付されて、検査機関へと送付されます。モミのサンプルは実験用モミすり機を使い、無選別玄米に調製され、静岡製機の食味計で分析され、圃場ごとに袋詰めされます。

 土壌診断と食味分析の結果は、協議会で圃場ごとのデータとして結合されます。そして、飯南町で独自に設定した基準値(飯南町推奨値)に対して、検査結果が50〜70%以内でやや不足しているものを「イエローカード」、50%未満の欠乏状態は「レッドカード」と呼び、検査結果が書かれた表に色付けをして一目で土壌の不足成分がわかるように工夫しました。

2015年 飯南町水田のカラー化土壌診断表(一部)

鉄資材の投入で根張りアップ

鉄の施用で根張りがよくなった(鉄99%と45%の2資材を併用し、222?/10a施用)
鉄の施用で根張りがよくなった(鉄99%と45%の2資材を併用し、222?/10a施用)

 土壌分析の結果から、町内で明らかな鉄不足が判明しました。根が硫化水素による障害を受けている可能性が考えられ、私たち長谷営農組合も含めて、一部の農家は自ら判断し、圃場に鉄資材を投入するなどの緊急対策を始めました。

 鉄資材を投入しても地上部分の生育には大差はありません。ただし、株を引き抜いて根を観察すると、格段に根張りがよくなりました。根が元気になれば、肥料成分を吸いやすくなるため、投入し始めの頃は倒伏させることもあったほどです。

 そこで現在では、坪50〜60株(1株3〜4本)だった植え付け株数を40株前後に減らしたり、集落営農の役員が圃場巡回をして、穂肥の量を調整するなどしています(長谷営農組合は参加型の集落営農法人。法人の財布は一つだが、圃場の管理はできるだけ持ち主が行なう方式)。

穂肥や水管理で肥効を調節

 元肥は有機質肥料をチッソ成分で3kg施しています。穂肥の施用基準は、巡回時(出穂40日前)の穂数が25本・葉色が3とし、その場合、出穂30日前に有機質肥料をチッソ成分で0.4kg投入します。茎数や草丈を見て生育が旺盛で、葉色が4の場合は倒伏の危険ありと見て、穂肥の量を半分にするなどします。葉色5以上のときは施用しません。

 ちなみに、一発肥料を使っている営農組合の圃場では、元肥をチッソ成分で6kg以内としていますが、やはり出穂40日前に生育旺盛な場合は、中干し後の深水で弱小分けつを淘汰するなどして、肥効を調節しています。

 また、秋から春に散布する鉄資材は一度に全面積に投入するのは大変なので、3年に1度200kgずつ入れることにしており、現在は2巡目です(長谷営農組合の圃場面積は23ha。そのうち、私の圃場は1.2ha)。

 鉄資材を投入した翌年は生育がよくなるので、穂肥は控えめになる傾向です。私の圃場では堆肥も毎年2t投入してきました。収量は9俵程度で安定しており、食味値は鉄資材投入前は76でしたが、現在は80以上に上がってきました。ちなみに、今年は夏の好天もあり、収量9俵半、食味値83でした。

うまい米コンテストでグランドマスター認定

うまい米コンテストの官能審査。5つ星マイスターも審査員として参加する
うまい米コンテストの官能審査。5つ星マイスターも審査員として参加する

 収穫後は、町と協議会の共催で毎年11月に「飯南町うまい米コンテスト」と「飯南町エコロジー米生産者大会」を開催しています(2016年で前者は9回、後者は7回を数えた)。

 うまい米コンテストでは、食味計による1次審査を行ない、上位15点を選び、最後は官能審査によって上位6点を金賞として選考します。3回金賞を受賞した農家は、グランドマスターに認定し、優秀な生産者としての栄誉をたたえます。現在、私たち長谷営農組合も含めた8法人と個人1名が選ばれています。このグランドマスターの米は協議会のPR用米として活用され、その過程で5つ星マイスターの米穀店と直接取引をする生産者も出てきました。

生産者大会で栽培技術を共有

 また、その翌日に実施する生産者大会には毎年70〜80人が参加しています。町内の先進的な農家による取り組み報告や、5つ星マイスターによる販売現場の実態、消費者の販売行動などの話を聞きます。その他、うまい米コンテストの表彰やグランドマスターの認定、グランドマスターが生産した米の試食なども行なわれ、さらなる技術の向上を目指して意欲を高める場としています。

 このとき、イエローカード、レッドカードに色分けした土壌診断の結果の一覧表と対応する圃場の玄米、食味分析の結果も展示しています。袋の中全体にきれいな玄米が詰まっているものから、乳白粒や青未熟粒が目立つもの、砕粒や胴割れ粒が目立つものなどさまざまです。その玄米がどの圃場で生産されたか、その圃場の土壌検査結果も一目でわかる仕掛けです。他の農家の圃場とも比較しながら「やっぱり鉄不足か」「ケイ酸が足りないなー」などとつぶやく声も聞こえてきます。

 協議会ができ、生産者大会などで栽培技術の共有化が図られるようになり、地域の栽培技術がレベルアップしてきました。長年にわたり土壌改良材や堆肥の投入がおろそかになっていた結果、化成肥料で10俵とれても食味値は65前後という圃場も当初はありました。しかし、現在は食味値が80を超える米が増えています。「飯南町のエコロジー米は悪くても食味値75以上はある米」として認知され、販売されるべく、今後も産地一体となってレベルアップを図っていきます。

(島根県飯南町)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年1月号

特集:ニワトリのいる農業
田んぼの土壌診断/環境制御で作物はどう変化する/野菜に日没加温/果樹 夢のような仕立て/「将来性のある子牛」の見分け方/「○○の素」が売れる/非農家出身者を農家に育てるノウハウ ほか。 [本を詳しく見る]

だれにもできる 土の物理性診断と改良 だれにもできる 土の物理性診断と改良』JA全農肥料農薬部 編 安西徹郎 著

収量アップは土の物理性改善が肝。スコップ2掘りで、だれでも土の状態を診断できる。診断結果のフローチャートで土層改良に必要な対策も早わかり。豊富な写真と実例で、土の見方と改良法をやさしく解説した決定版。 [本を詳しく見る]

だれにもできる 土壌診断の読み方と肥料計算 だれにもできる 土壌診断の読み方と肥料計算』JA全農肥料農薬部 著

診断数値の読み方と、肥料代を抑え収量・品質を高めるための肥料計算、家畜糞尿や堆肥に含まれる肥料成分を考慮して化学肥料を減らす計算方法など、イラスト入りでわかりやすく解説。低コスト施肥の実践テキスト。 [本を詳しく見る]

よくわかる 土と肥料のハンドブック 土壌改良編 よくわかる 土と肥料のハンドブック 土壌改良編』JA全農肥料農薬部 編

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よくわかる 土と肥料のハンドブック 肥料・施肥編 よくわかる 土と肥料のハンドブック 肥料・施肥編』JA全農肥料農薬部 編

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